
CBTの可能性と教育的エビデンス -全国学力・学習状況調査と入学者選抜の挑戦-【vol.1】
CBT(Computer Based Testing)は、現在あらゆる国家試験や検定で活用されている。単に紙による試験(PBT)の代替としてだけではない。紙の試験で出題できなかったような多様な形式の出題が可能となることから、受験者の能力をより深く、多角的に測定できる点に強みがある。また、従来の紙試験では困難であった正誤率の分析や設問単位での詳細な評価も、CBTであればデータとして取得・活用が容易になる。
さらに、受験者の情報や解答傾向などのデータを一元管理することで、継続的な成績の追跡はもちろん、特定の弱点を持つ受験者へのサポート提案も可能となる。このことは、CBTが合否判定だけでなく、入学後の教育にも活用できることを示している。このように、CBTには、教育をデザインするツールとしての大きな可能性が期待される。
しかし、入試という、より厳正な公平性や実施環境が求められるケースでは、実施上の様々な課題が未だ残存しており、現時点でのCBT導入は限定的である。
我々は、CBTの実施や活用の先駆的な取り組みについて、文部科学省の学力調査専門官として「全国学力・学習状況調査」のCBTでの大規模実施を実現した、国立教育政策研究所 教育データサイエンスセンター 学習データ活用調査官の平千枝(たいら・ちえ)氏と、電気通信大学の総合型・学校推薦型選抜でCBTによる入学者選抜を実現した同大学情報理工学研究科教授の植野真臣(うえの・まさおみ)氏に話を聞いた。IRT(Item Response Theory:項目反応理論)の活用がもたらす精緻な能力評価や、試験結果を教育改善へ還元する循環の仕組みに焦点を当てた、CBTが切り拓く次世代の教育モデルに注目してほしい。
なお本稿は、2026年6月に開催された、New Education Expo2026におけるセミナー「日本の教育におけるCBT活用の方向性」を再構成したものである。
【目次】
【vol.1】
1.大学入試センターにおけるCBT調査研究
■ 大規模入学者選抜におけるCBT活用の可能性
■ 共通テストにCBTを活用する際の課題/■ IRTによる出題の可能性と課題
■ CBTによる出題の可能性/■ 試験の性質とCBT活用の可能性
2.電気通信大学のCBT入試 -ペーパーテストでは測れない能力を精度高く評価するCBT-
■ CBT入試導入の理由
■ AIに負けない能力をCBTで測るために
■ 公平で信頼性・予測精度の高いCBTを作るために
■ 入学後の指導にCBTの結果を活用する
【vol.2】
3.全国学力・学習状況調査のCBT化
■ 全国学力・学習状況調査におけるCBT化のメリット
■ 全国学調へのCBT導入に向けた検討
■ 令和7年度全国学調「中学校理科」CBTでの実施結果
■ 今後のさらなる改善に向けて/■(参考)公教育データ・プラットフォームで見る子どもたちの変化
4.ディスカッション
■ 電気通信大学がCBT導入に至るまで/■ アダプティブ方式の課題と意義/■ 全国学調におけるCBTのさらなる可能性/【質疑応答】
■ 日本の教育におけるCBT活用の方向性
国立教育政策研究所 教育データサイエンスセンター 学習データ活用調査官
平 千枝氏

平 千枝 氏(国立教育政策研究所 教育データサイエンスセンター 学習データ活用調査官)
[平氏]
私は平成20年に文部科学省に入省しましたが、6年ほど前からCBT(Computer Based Testing)に関する業務に携わってきました。まず平成30年から、教育課程課専門官として、現行の学習指導要領の実施に向けた準備に携わり、高等学校で必履修となった『情報Ⅰ』も担当していました。その後、大学入試センター(以下、DNC)に出向し、大学入学共通テストへの「情報」の導入検討や、共通テストあるいは大学入学者選抜全体にCBTを活用することに関する調査研究に携わり、そこで植野先生に有識者としてご協力いただきました。
文部科学省に戻ってからは、DNCでのCBTに関する仕事の経験を活かして、小学校・中学校の児童生徒全員を対象に、毎年4月に実施している、「全国学力・学習状況調査(以下、全国学調)」へのCBTの導入、およびその結果の活用の仕組み作りに携わり、現在は国立教育政策研究所で、この「全国学調」をはじめとする教育データに関する仕事をしています。本日はこのような立場で、植野先生とともに、教育におけるCBT活用のあり方についてお話ししたいと思います。
本日は、最初に私からDNCで携わったCBTの調査研究の内容をご紹介します。その後、植野先生から電気通信大学の個別入学者選抜におけるCBT活用についてお話しいただきます。植野先生は、DNCで共通テストなどへのCBTの活用に関する調査研究にご協力いただいた後、電気通信大学における入学者選抜の個別学力試験でDNCの成果物を使ってくださっています。植野先生のお話ののち、再び私から、全国学調でのCBTの活用についてお話しします。その後、植野先生と意見交換をさせていただき、最後に会場の皆様からの質疑にもお答えできればと思います。
1.大学入試センターにおけるCBT調査研究
DNCでは、共通テストの実施という最大のミッションに加えて、我が国の大学入学者選抜や様々な試験に関わる研究を行っています。CBTについても、国内外の各種試験のCBT化の動向を踏まえて、平成23年から、DNCの教育工学やテスト理論等の教員を中心に調査研究を行ってきました。
私は文部科学省から3年間DNCに出向していましたが、その間に共通テストのような大規模な入試でCBTを活用できるのか、「情報」を共通テストで出題するときにCBTでどのようなことができるのか、といった調査研究に携わりました。まず初めにその内容をご紹介します。
■ 大規模入学者選抜におけるCBT活用の可能性
まず、なぜこのような調査研究を、植野先生をはじめとする外部の有識者の先生方に関わっていただきながら行ったのか、という背景です。共通テストにおけるCBTの活用に関する提言は、大きく2つに分類できます。
1つ目は、共通テストを、従来の紙の問題冊子とマークシートではなく、コンピュータを使うCBTで実施できないか、という問題提起でした。これまでセンター試験は、1月中旬というインフルエンザや大雪のリスクを伴う時期の特定の2日間に、約50万人の受験者が全く同じ問題に取り組む、という形式で実施されてきました。しかし、そのような形でなく、例えばTOEICや英検など民間の英語資格・検定試験のように、複数の日程を設定して、一人の受験生が複数回受験できる仕組みがつくれないか、ということも併せて提言されていました。
提言の2つ目は、高等学校の学習指導要領で『情報Ⅰ』が必履修になったことを受けて、令和7年度共通テストから、「情報」をCBTで出題すべきではないか、という議論でした。この2つについて、DNCと外部の有識者の方々とで会議体を作って検討しました。

この議論をまとめたのが、令和3年3月の報告書(「大規模入学者選抜におけるCBT活用の可能性について(報告)」)です。これは、5年前の内容ですが、CBTとは何か、活用するとどのような利点があり、さらにその課題は何か、ということについては、現在に共通するものもあると思います。ここでは、その報告書の内容をご紹介します。
まず、CBTを活用するメリットは何か、という点です。1つ目は出題・解答形式に関することです。現行の共通テストはマークシートで実施しています。この形式では出題・解答形式に制約があります。しかし、CBTで実施すれば、さらに多様な出題が可能になるのではないか、ということがあります。
2つ目は実施面に関することです。1月の特定の日に、試験会場となる大学へ確実に問題冊子と解答用紙を配布し、試験実施後は受験生から提出された解答用紙を確実に回収するというのは、雪の影響もある時期には大変なことです。しかも数が膨大です。この報告書はセンター試験の時代にまとめられており、『情報Ⅰ』も実施していなかったときのものですが、1回のテストで回収・採点した答案用紙の枚数は約350万枚でした。これを短期間にOCRで読み込んで採点するのは、相当大変な作業です。これも電子化されれば解決されるでしょう。
さらに、下のスライド7の一番右で、IRT(項目反応理論)を活用した場合のメリットについても説明しています。IRTを使うと、異なる問題から構成される試験の結果を、同じものさし(尺度)で比較できます。このような試験はCBTと非常に相性が良いです。
また、コンピュータで大規模な試験を実施しようとすれば、サーバやネットワークをそれに耐えられるようにする必要があります。その場合、複数日に分散しての実施が現実的です。しかし、そうなると同じ問題を使い回すわけにはいかないので、IRTを導入して受験生が異なる問題を解く設計にすることについても、同時に検討する必要があります。そして、試験問題を複数バージョン用意することができるようになれば、共通テストも、現在のように全国で特定の日に一斉に実施するのではなく、複数日程での実施が可能になります。

次ページ▶共通テストにCBTを活用する際の課題/IRTによる出題の可能性と課題


