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85%の大学が「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えている」と回答:全国国公私立大学学長アンケート2023結果分析

本アンケートの目的は、大きな変化の渦中にある教育界において、大学経営の取り組みを全国の学長にうかがい、その内容を集計・分析し、各大学に今後の経営の方向性を探っていただくためのヒントを提供することにある。

学校基本調査(2023年度)の対象となった全国の大学・大学院大学812校にアンケートへの協力を依頼したところ、370校から回答が得られ、回収率は45.6%であった。

なお、回答に協力いただいた大学の内訳は、国立大学44校(/86校;回収率51.2%)、公立大学48校(/99校;回収率48.5%)、私立大学278校(/627校;回収率44.3%)である。

図1 本アンケートに協力いただいた大学の内訳

図1 本アンケートに協力いただいた大学の内訳

本アンケートでは、「貴学が果たしている大学としての役割」といった大学の存在意義を問う質問から、経営・財政、学生募集・広報、教育・研究、ダイバーシティ・ジェンダー・格差是正・環境等に関する質問、さらには「2040年以降を見据えたときの、現在の大学の課題」などについて、幅広く学長の意見を聞いた。


その中でも、特にインパクトのある結果を得られたのが、学生のメンタルヘルスに関する質問である。

図2 学生のメンタルヘルス、学生の退学・休学への対応における課題・困難

図2 学生のメンタルヘルス、学生の退学・休学への対応における課題・困難

本質問は、学生のメンタルヘルスへの取り組み、学生の退学・休学への対応について、各大学が課題や困難に感じていることを問うたものである。なお、回答にあたっては、複数項目の選択を可とした。

図2のうち、回答項目(a),(b)が学生の状態を(グラフ青・オレンジ)、回答項目(c)~(e)が学生のメンタルヘルスに対する各大学の対応状況を示している(グラフ緑・赤・紫)。


まず、学生の状態について、アンケートに協力いただいた370校のうち316校もの大学が、(a)「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えている」と回答した。割合にすると85%にも上る、非常に高い数値である(回答項目(a):グラフ青)。

続いて、学生のメンタルヘルスに対する各大学の対応状況について見ていく。

(c)「学生のメンタルヘルスの状況を把握したいが出来ていない、もしくは不完全である」と回答した大学が15%(55校;グラフ緑)、
(d)「学生のメンタルヘルスをケアするための専門の部局がない、もしくは不完全である」と回答した大学が9%(33校;グラフ赤)、
(e)「学生のメンタルヘルスを把握し、ケアするための専門スタッフがいない、もしくは確保が難しい」と回答した大学が7%(27校;グラフ紫)
という結果であった。

回答項目(c)~(e)は、「学生のメンタルヘルスをケアするための対応が不完全だ」という内容を表わす点で共通している。これを踏まえると、反対に、回答項目(c)~(e)を選択しなかった大学は、「学生のメンタルヘルスをケアするための対応が十分にとれている」と回答した、とみなすことができよう。 

すなわち、「学生の状態」と「各大学の対応状況」の結果を総合したとき、本質問への回答結果は全体として、学生のメンタルヘルスをケアするための対応が十分にとれているにもかかわらず、「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増加した」と感じている大学が非常に多いことを示しているのである。


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