
2026年度大学入学共通テスト『情報Ⅰ』を振り返る ――共通テストが示した「学びの現在地」

小宮 常康 氏(電気通信大学大学院 情報理工学研究科 教授)
2026年1月に実施された大学入学共通テスト(以下、共通テスト)は、『情報Ⅰ』出題の2年目に当たる。今回の試験では、『情報Ⅰ』の平均点が前年度(2025年度共通テスト。『情報Ⅰ』出題初年度に当たる)を大きく下回る56.59点(前年比 -12.67点)となった。平均点そのものは他科目と同水準であるが、大幅な「難化」が話題を呼んだことは記憶に新しい。
また、昨今の大学教育においては、すべての学生に対する「数理・データサイエンス・AI教育」が重視されている。文部科学省も「大学・高専機能強化支援事業(成長分野転換基金)」等で、デジタル・グリーンといった成長分野をけん引する人材の育成に取り組む大学等へ支援を行なっているが、その際、大学には確かな「教育の質保証」が求められる。
加えて、大学が学生に確かな学力を修得させる教育を実践していくにあたり、特に情報分野においては、入学時点で学生が「情報」に関し、どの程度の学力を身につけているのか、あるいは高校の情報科の授業で「何を」「どこまで」教えているのかを把握することが、喫緊の課題となっている。
我々は、電気通信大学大学院 情報理工学研究科の小宮常康教授にインタビューを実施。2026年度と2025年度の共通テスト『情報Ⅰ』の結果について、高大接続と大学の出題側の観点から解説いただいた。小宮教授は、情報処理学会情報入試委員会の幹事として情報入試の普及活動に尽力し、電気通信大学の個別学力検査への「情報」の導入にも大きな役割を果たされた方である。センター試験『情報関係基礎』の出題経験も持つ。
2回の共通テスト『情報Ⅰ』の結果からは、高校における情報教育の実態と課題が明らかになった。
(2026年6月8日インタビュー実施)
【目次】
■ 『情報Ⅰ』は本当に難化したのか
■ 共通テストの結果から見えてくる高校の学び
■ 出題側から見た「情報」の問題構成
■ 入試に「情報」を導入する意味
【参考】独立行政法人 大学入試センター|令和8年度大学入学共通テスト本試験『情報Ⅰ』問題
■ 『情報Ⅰ』は本当に難化したのか
――はじめに、令和8(2026)年度大学入学共通テスト『情報Ⅰ』の全体傾向について解説をお願いします。
[小宮先生]
まず難度については、2026年度の平均点が56.59点で、前年度(2025年度)平均点の69.26点から約13点下がりました。そのため「難化した」と言われましたが、実は、平均点が下がった理由は明らかです。2025年度は正答率が8割以上の問題に合計33点分の配点があったのが、2026年度は18点分とほぼ半減しています(※1)。よって、本質的な難しさはそれほど変わっておらず、最も難しい問題も、難度自体は前年度と似たようなものだと見ています。
問題全体の難度としては、この程度がちょうどよいと思います。後で述べるように、第1問がもう少しできていたら、平均点ももう少し高かったと思います。
※1 独立行政法人 大学入試センター:令和8年度 問題評価・分析委員会報告書(本試験)『情報Ⅰ』関係教育団体からの評価
2026年度の問題の分量は、やや多いかもしれません。これについては、単純にマーク数が増えただけでなく、知識に基づいて解答するような問題があちこちにあり、それらがいずれも結構しっかり考えないと解答できないものであったことをも含みます。それもあわせて、難度という点では、今後もこのくらいが標準になっていくと思います。

2026年度共通テスト『情報Ⅰ』設問内容、配点、マーク数、正答率
(大学入試センター 令和8年度大学入学共通テスト本試験設問別得点率及び正答率表に基づき作成)

2025年度共通テスト『情報Ⅰ』設問内容、配点、マーク数、正答率
(大学入試センター 令和7年度大学入学共通テスト本試験設問別得点率及び正答率表に基づき作成)
――「しっかり考えないと解答できないもの」とは、具体的にどの問題でしょうか。
[小宮先生]
例えば、第4問のデータの活用に関する問題で、図表から読み取れることを選ぶものがいくつかありましたが、選択肢の記述を一つひとつきちんと確かめていく必要があり、迂闊に答えられない、非常に練られた良問であったと思います。ただし、最後の大問ですので、ここまで解いてくるのに時間がかかり、残り時間も少ない中で、じっくり考えるのはなかなか大変だったかもしれません。
――本質的な難しさは変わらなかったとのことですが、では2025年度共通テスト『情報Ⅰ』で正答率が高かった問題には、選択肢などで何か仕掛けがあったのでしょうか。
[小宮先生]
例えばプログラミングの入試問題では、はじめに問題の前提を理解しているかを確認したり、「今説明したものをこの状況に当てはめると、どうなりますか」ということを聞いたりする設問を入れます。そうした問いを踏まえることによって、本題に入る前に問題の設定を確認するのです。しかし、2025年度はこの部分が少し多過ぎた感がありました。もっとも、これには『情報Ⅰ』が共通テストで初めて出題されることへの配慮もあったかと思います。2026年度は、そこが適切な分量になっていたので、点を取れる問題が減り、難度が調節され、バランスがよくなったという感じです。
――2026年度の『情報Ⅰ』で、受験生が予想外にできていなかった問題はありますか。
[小宮先生]
第1問の知識問題の小問集合ですね。2025年度の第1問の正答率はおよそ65%でしたが、2026年度はおよそ43%で、4つの大問の中で最も低かったです。小問別で見ても、第1問で正答率が80%を超えるものは1つもありませんでした。これは、問題が難しかったというよりも、予想外にできていなかったという印象です。
特に、記憶装置の問題(第1問・問1)と電子メールの問題(同・問4)です。前者は、試験冒頭の非常に基礎的な問題にもかかわらず、正答率が30%ほどでした。後者は、各サーバが果たす役割を踏まえ、エラーが生じる理由を考える基礎的な問題でしたが、正答率はわずか10%程度でした。ただし、これは勉強しにくかった盲点のような問題である(理屈まで理解すると覚えやすい一方で、そこまで理解するには意外と手間がかかる)ということもあるかと思います。
この傾向(基礎的な問題の正答率が低いこと)については、個別試験や一般入試でこういった問題を出した大学の方も、同様のことをおっしゃっていました。
――反対に、よくできていた問題についてはいかがでしょうか。
[小宮先生]
第4問のデータ分析の問題ですね。そもそも出題する側から見て、あれだけ大規模で良く練られた設定が毎年出題できるのはすばらしいと思います。大問別の平均点も最も高く、67.3%と7割近いです。第4問は、2025年度も正答率が64.4%でしたから、安定しています。
おそらくこの分野は、学習内容がほぼ定まっていて、高校の先生も教えやすいのだと思います。内容が安定しており、思考させる要素も豊富なので、情報の入試問題としてちょうどよく、また、面白い問題が出しやすいということはありますね。ただし、各大学が個別入試で、共通テストほどのボリュームかつ質の高い問題を出題しようとすると大変だと思います。

2026年度共通テスト『情報Ⅰ』設問別正答率
(大学入試センター 令和8年度大学入学共通テスト本試験設問別得点率及び正答率表に基づき
KEI大学経営総研が作成)

2025年度共通テスト『情報Ⅰ』設問別正答率
(大学入試センター 令和7年度大学入学共通テスト本試験設問別得点率及び正答率表に基づき
KEI大学経営総研が作成)
――データ分析の問題がよくできているのは、やはり数学に近いということと関係があるのでしょうか。
[小宮先生]
それはあると思います。数学と内容が完全にかぶるわけではありませんが、ある意味、学んだことが点数につながりやすい内容ですので、学ぶ側・教える側、双方にとってやりやすい領域かもしれません。
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