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複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

CBTの可能性と教育的エビデンス -全国学力・学習状況調査と入学者選抜の挑戦-【vol.1】

■ 共通テストにCBTを活用する際の課題

こうした活用可能性を踏まえつつ、共通テストのような大規模試験でのCBTの活用について検討しました。報告書の第3章では、コンピュータやネットワークを使って共通テストが本当に実施できるのか、ということを整理しています。

共通テストは50万人の受験生の人生がかかっている試験なので、パソコンやネットワークの環境が全て同じ条件で動作しなければならず、当然トラブルは許されません。そのための実施方法として、大きく2つの方法が挙げられました。

1つは、CBTによる民間の検定試験などを実施しているテストセンターを利用する方法です。ただし、テストセンターの所在地はどうしても都市部が中心になりますし、50万人もの受験生を複数回さばききれるほどの数があるかは検討が必要です。

もう1つが、従来どおり大学で実施する方法です。毎年度の共通テストでは、大きな試験場になると、最大約4,000人の受験生を受け入れていただいています。しかし、大学にパソコンルームがあったとしても、4,000人が全く同じ条件で、かつ同時に稼働させることが可能かというと、なかなか難しいものがあります。そして先ほども申し上げたように、トラブル対応の問題があります。人生がかかったテストを受けている最中に、例えばネットワークが遮断されてしまったらどのように対処すべきか、ということを予め考えておく必要があります。

また、障がい等のある受験生への合理的配慮も大切です。現在の共通テストでも、事前に申請いただいておくことで、一人ひとりの状況に合わせて、その人が不利にならないような実施状況を整えていますが、CBTになったときにも同じ配慮をするとなると、紙の試験とは違う準備が必要になります。


そういったことを考えると、パソコンやネットワーク等を活用した共通テストでは、下のスライド9に挙げたような課題を克服しなければなりません。スライド9の右上の図は、テストを実施する際の方式の組み合わせです。図の右半分がCBTで、左半分がPBT、中央の丸がIRTです。このスライドでは赤い部分、つまりIRTを使うか使わないかは別にして、CBTで試験を実施しようとすれば、どのような課題があるかを説明しています。

課題としては、ここに挙げただけでも大きく5つあります。
1つ目はパソコンやネットワークをどのように準備するかという、ハードウェアの整備に関することです。

2つ目がアプリケーションやブラウザなどのソフトウェアの整備です。ハードウェアを用意できたとしても、試験を実施するためのソフトウェアも同時に用意できなければなりません。かつ、例えば「情報」でプログラミング問題を出題するとなると、それに合わせてソフトウェア自体の開発を要する可能性があります。

3つ目は、先ほど申し上げた、試験実施時のトラブルへの対応をどうするのかという点です。

4つ目は、本人確認や不正防止策の検討です。コンピュータ技術を使うのであれば生体認証を使うことも考えます。また、試験実施中の学生の行動を、コンピュータ画面上で何らかの形で監視することも考えなければなりません。

最後に5つ目として、ここまで申し上げてきたことを実現するための経費の問題があります。現行の共通テストの受験料は2万円弱ですが、それでも問題作成、実施のための経費としてはかつかつです。紙のテストでさえそのような状況なので、CBTでこれだけ高度な環境が求められたらどうなるか、というところが課題になります。


■ IRTによる出題の可能性と課題

次に、せっかくコンピュータで試験を実施するのであれば、IRTを使ってはどうか、という提言についてです。IRTは、一言で言うと、個々の試験問題が違っていても、基となる問題がしっかり作られていれば、能力が比較可能になる、という統計理論の一つです。

IRTに基づく試験を実施するにあたって、従来の共通テストと違ってくるのが、問題作成です。全員が同じ問題を使う共通テストは、問題作成部会の下に置かれた科目ごとの分科会が、本試験と追試験の2セットを作っていますが、CBTで、しかも受験生によって違う問題を出題できるようにするためには、今まで以上に問題をたくさん作らなければならなくなります。具体的に何問必要かと言いますと、下のスライド10の「問題作成」の1行目にあるように、数千から数万問程度とされます。IRTに基づく試験を実施しようとすると、必要な問題作成者の数も大幅に増える可能性があります。

また、IRTに基づく試験の実施方式はいくつかありますが、代表的なものに「リニア方式」と「アダプティブ方式」があります。リニア方式は、予め1問目から最終問題まで用意された問題セットを解いていくパターンで、受験者によって問題セットの内容が異なるというものです。アダプティブ方式は、受験者の解答状況によって「この問題に正解したから、次はもう少し難しい問題を出してみよう」、「この問題を間違えたから、次は少し易しい問題に変えよう」という形で、試験実施中にどの難度の問題を出すかを調整して実施するものです。そして成績の表示方法は、各設問に設定した配点を積み上げていく「素点」方式ではなく、正答状況から算出された「スコア」の形で示される場合が多いです。

下のスライド11では、CBT-IRTで共通テストを実施する場合(スライド11の右上の図の赤い部分)、つまりCBTを導入した上で、さらにIRTを導入した場合に、どのような課題があり、それに対してどのような対応が必要かを示しています。

ここには全部で5つの課題を挙げています。
まず1つ目の、大量の問題作成が必要という点については、先ほど申し上げた通りです。

2つ目に、IRTに基づく試験では問題は原則非公開になります。これまで資格試験などで経験された方もいらっしゃると思いますが、問題用紙は持ち出せない、あるいはパソコンの画面に表示された問題は持ち帰れないという形式が基本です。

そして成績の表示方法も、「素点」方式ではなく、「スコア」が算出される形になります。共通テストの受験生で言えば、現在は試験を受けてから、ほぼ一両日中に自己採点をして、どの大学に出願するかを考えているわけですが、そのような自己採点ができなくなるかもしれません。そのため、共通テストと受験生の関係が大きく変わることになります。

この成績の表示方法について、植野先生がDNCの有識者会議において示してくださったご意見をご紹介したいと思います。私たちは、IRTに基づく試験の結果は、スコアで示すことしかできないものと思っていたのですが、植野先生は先ほどのスライド11右側の黄色部分にあるように、条件を考慮すれば、従来の共通テストのように点数を足し上げた素点の形で結果を示すことも可能であることを教えてくださいました。こちらについて、植野先生にご説明いただきます。

[植野氏]
IRTには、異なるテストを受けても同一尺度上で評価できるという素晴らしい性質がありますが、実は、異なるテストをあらかじめ統計的に等質に作っておくことで、異なるテストの素点も同一尺度上で評価することができるようになります。詳細は後ほどお話しします。

[平氏]
ありがとうございます。私もIRTのスコアは分かりにくいというイメージがあったので、この後のお話を楽しみにしています。

そして、今挙げたような課題をクリアできたとしても、試験の年複数回実施や、1人の受験者による複数回受験の実現のためには、以下の検討が必要です。

まず試験の実施時期として、1月の寒い時期以外を選べるとしても、例えば10月、11月に受験できるとしたとき、高等学校教育の実施に影響が出ないよう調整が必要です。また、試験日が早いか遅いかによる不公平を生じさせない工夫も求められます。さらに、複数回受験できるとしても、経済格差や地域間格差が生じないよう制度設計上の工夫が不可欠です。

そのため、この令和3年の報告書では、共通テストは単なる学力試験や調査などよりもはるかに高い実施水準が求められるため、これまでにお話しした数々の課題を高いレベルで克服する必要があり、それに向けた細やかな検討が必要、という結論になりました。

ただし、共通テストにCBTを導入する利点は大いにあるので、DNCでは、どのような形であれば共通テストにCBTがうまく導入できるか、ということについて、現在も引き続き調査研究が行われています。


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