
CBTの可能性と教育的エビデンス -全国学力・学習状況調査と入学者選抜の挑戦-【vol.2】
本稿は、2026年6月に開催された、New Education Expo2026におけるセミナー「日本の教育におけるCBT活用の方向性」を再構成したものである。
*【vol.1】の続きにあたる内容です
【目次】
【vol.1】
1.大学入試センターにおけるCBT調査研究
■ 大規模入学者選抜におけるCBT活用の可能性
■ 共通テストにCBTを活用する際の課題/■ IRTによる出題の可能性と課題
■ CBTによる出題の可能性/■ 試験の性質とCBT活用の可能性
2.電気通信大学のCBT入試 -ペーパーテストでは測れない能力を精度高く評価するCBT-
■ CBT入試導入の理由
■ AIに負けない能力をCBTで測るために
■ 公平で信頼性・予測精度の高いCBTを作るために
■ 入学後の指導にCBTの結果を活用する
【vol.2】
3.全国学力・学習状況調査のCBT化
■ 全国学力・学習状況調査におけるCBT化のメリット
■ 全国学調へのCBT導入に向けた検討
■ 令和7年度全国学調「中学校理科」CBTでの実施結果
■ 今後のさらなる改善に向けて/■(参考)公教育データ・プラットフォームで見る子どもたちの変化
4.ディスカッション
■ 電気通信大学がCBT導入に至るまで/■ アダプティブ方式の課題と意義/■ 全国学調におけるCBTのさらなる可能性/【質疑応答】
■ 日本の教育におけるCBT活用の方向性
国立教育政策研究所 教育データサイエンスセンター 学習データ活用調査官 平 千枝氏
電気通信大学大学院情報理工学研究科教授 植野真臣氏
3.全国学力・学習状況調査のCBT化
■ 全国学力・学習状況調査におけるCBT化のメリット
[平氏]
植野先生のお話を伺って、電気通信大学の入試は、単に優れた技術を駆使しているだけではなく、その一つひとつが「学生のため」ということにつながっているとわかりました。CBTの結果を入学者の選抜だけでなく、入学後の教育にまで利用していることは、他の機関でCBTに関わっている者としても、学ぶところが多いと感じています。
私からは、「全国学力・学習状況調査」(以下、全国学調)のCBT化についてお話しします。ハイステークスではないけれども、共通テスト以上に大規模な児童・生徒を対象にした調査をCBTでどのように実施しているのか、またそこにどのようなメリットや課題があるのかを紹介したいと思います。
全国学調のCBT化は、先ほどの共通テストから電気通信大学の個別学力試験への流れとは完全に別のプロジェクトで、どちらかがどちらかに影響したというものではありません。ただ、私個人の立場で申しますと、DNCでハイステークスかつ大規模なCBTやIRTの検討に携わっていたことは、この全国学調のCBT化の業務を担当する上で活かされたと思います。今日は自分なりの軸で、この流れを整理させていただきたいと思います。
全国学調では、昨年度(令和7年度)に中学校理科をCBTで実施しました。GIGAスクール構想で各学校に端末とネットワークが整っていましたので、質問調査の部分から、端末とネットワークを使ったオンライン方式の実施を徐々に開始し、昨年度ついに教科調査をCBTで実施しました。今年度(令和8年度)調査では、中学校英語のCBT実施を無事に終えることができました。来年度(令和9年度)はいよいよ小学校・中学校の国語と算数(数学)もCBTで実施する、というスケジュールです。


この全国学調は、結果公表の報道で「どの県が何位だった」「この県の平均点が全国平均より上だった(下だった)」ということに着目が集まりがちです。しかし、この調査は決してそのような順位付けのために実施しているわけではありません。根底にあるのは、「子どもたちのために」という考えです。
国としては、教育政策の改善、ならびに全ての学校における日々の学習指導をより良いものにすることを目的として、この調査を実施しています。この調査にCBTやIRTを導入することにどのようなメリットがあるか、ということをお話ししたいと思います。
まず、コンピュータやネットワークを使うことのメリットとして、結果をビッグデータとして蓄積しやすくなります。紙の解答用紙も電子データ化して採点等をするようになってきましたが、やはり最初から電子データとして取得できることによる利便性は大きいです。
そして2つ目として、多様な出題が可能になります。最近の子どもたちは日々端末を使って学習しています。そこで培った力は、紙よりも端末を使った調査のほうが測定しやすい部分があり、そういった問題*を出題しやすくなったというメリットがあります。
*ICTを活用した授業で身につけた力を、より多面的に測定できるような問題
3つ目は、実施面のメリットです。これまでは毎年、全国の小学校2万校弱、中学校1万校弱に、運送事業者が問題用紙や解答用紙を配布・回収してくださっていましたが、CBTで実施することによって、島嶼部を含めて実施の負担が大きく軽減します。
また、IRTについては学校側にもメリットが出てきます。まず、調査日の複数設定が可能になります。この調査は毎年4月に実施しますが、遠足や修学旅行などの学校行事との調整に苦労されるケースもあります。IRTを導入することで、都合がつく日程で実施ができるようになるのはメリットと言えます。
2つ目に、幅広い領域や内容の問題を出題できます。この調査は、100万人の児童生徒(小・中学校2学年で200万人)が参加するものですが、子どもたちが時間内に確実に解き切ることができるような設定なので、例年15問から20問程度の出題に留まります。もちろん、同じ問題を皆が解くことで、全国との比較や、地域の他の学校との比較などが可能になるというメリットもありましたが、一度の調査で幅広い領域から様々な問題を出題できるのは、IRTの優れているところです。
そして、学校や教育委員会が、学力の経年変化を把握できるようにもなります。学力向上を目標とする学校が、全国学調の結果を指標として使おうとしても、毎年あまりに問題の内容が違うと、経年比較をすることはできません。しかし、IRTを使うことで、集団としての経年比較が可能になります。

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