
CBTの可能性と教育的エビデンス -全国学力・学習状況調査と入学者選抜の挑戦-【vol.2】
4.ディスカッション
■ 電気通信大学がCBT導入に至るまで
[平氏]
ここからは、ここまでの話を踏まえて、植野先生とディスカッションを行っていきたいと思います。
まず、電気通信大学のCBT入試の、特に今後の展望についてうかがいます。電気通信大学では、今でこそ入学前から入学後まで、全学に近い形でCBTの取り組みを展開する流れになっていると思います。しかし、ここに至るまでに、かなりの短期間で、学内の方々や、受験生、高校、保護者の皆さんに、新しい入学者選抜や、その後の学力、非認知能力などの把握について理解してもらいながら仕組みを作り、実行していくことには、様々なご苦労もあったと思います。もしよろしければ、どのようなご苦労があり、それをどう克服されたのか、そして今後どのような方向性を目指しておられるのかをお聞かせいただけますでしょうか。
[植野氏]
先ほど少しお話ししましたが、これからは全学類の総合型選抜・学校推薦型選抜でCBT入試を取り入れ、その定員も増やしていくという方向になってきています。現在は第Ⅰ類の30名程度での実施ですが、これを第Ⅱ類・第Ⅲ類にも導入すると、全体で100名近くになります。新入生は全体で約700名ですので、その7分の1がCBTを使った入試で入学することになり、将来的にもっと増えてくることによって、少子化や生成AIの拡大に対応した学業の保証ができるのではないかと思っています。
ただし、今はそういったありがたい方向に向かっていますが、もちろん最初からそのように思っていただけたわけではありません。毎年2回、全学の教員に対してFDという形で研修を行い、CBTによってこれだけ学生の成績や単位取得率が改善したという客観的なエビデンスを示すことで、学内の理解を得るよう努めました。
高校の先生に向けての説明会も実施しています。高校の先生の中にも、「受験のための『情報』の勉強はしなくてよいから、もっと好きな研究をやらせて、そういう人にぜひ電通大に来てほしい」というメッセージに共感してくださる方が多く、毎年受験する人が増えています。しかも受験者のレベルが上がってきています。
CBTによる入試で入学した人たちが、基礎学力でも一般入試の人を逆転しつつありますが、彼らに聞いてみると、高校時代にふだんの学校の勉強はきちんとしているのですね。そのほかで、趣味でプログラミングやデータサイエンスをやったり、探究活動や研究をしていたという人が多いです。ですから、そういった人を入試できちんと見極めれば、結果的にコンスタントに勉強し続けて研究もできる人を獲得することができ、教学改善のエビデンスとして示すこともできる、と考えています。
今後は留学生にCBTによる入試で入学していただくことで、その拡大につなげたいと思います。今は世界的にアダプティブ方式が主流になってきているので、それに合わせていくことも考えています。
■ アダプティブ方式の課題と意義
[平氏]
単にCBTに切り替えるだけでなく、大きな目的を持っておられること、そして、これまでの取り組みで成果が出ていることを示すことによって、多くの方の理解を得られたのだと思いました。
この流れでもう一つお聞きしたいのが、今後導入を検討されるというアダプティブ方式についてです。全国学調の立場からこの高度な方式について考えることもありますが、導入にはかなりハードルが高いと感じています。
システムの問題もありますが、アダプティブ方式を実施するために大量の問題作成が必要になるとすれば、導入は相当難しいのではないかと思います。こちらについて、実現可能性や、導入に当たってのハードルをどのようにお考えか、教えていただけますでしょうか。
[植野氏]
まず問題数については、もちろん数は必要です。しかし、CAT(Computer Adapting Testing)というのは、受験者に最も適応した問題を出すので効率が良くなります。この点が結構誤解されています。
効率が良くなるというのは、測定精度を下げずに、出す問題数が減るということです。出題する問題数が減るということは、すなわち問題を出すための所要時間と、必要な問題数が減ることを意味します。この2つは非常に重要です。
CBTでIRTを用いることを想定すると問題数が100問以上必要ですが、短い時間で解答できる知識問題が増えて、思考力を問うことが困難になります。それを、先ほどお見せしたように、途中のプロセスなどで様々な情報を取得することで、「少ない問題数でも精度高く思考力を問う」日本型のCBTが実現できます。
さらに、CATで出題すれば、測定精度を落とさずにさらに問題数を少なくできます。結果として、アイテムバンクに必要な問題数も少なくなるということになります。そういう仕組みが、今、現実にできつつあります。
■ 全国学調におけるCBTのさらなる可能性
[平氏]
アダプティブ方式により、少ない問題数で効率的に能力を測定できるという、受験生にとってのメリットは理解していましたが、作成し蓄積する問題数も結果的に少なくなるということは意外でした。それであれば、アダプティブ方式の導入を検討しやすくなる可能性があるのではないかと思いました。
私のスライド10の右の方に、DNCがまとめたアダプティブ方式のイメージがあります。植野先生がおっしゃった、問題数が少なくても高い精度で測定する仕組みを、まさにこの図で見ていただけると思います。

全国学調は全ての子どもたちが対象ですので、非常に高い学力を持っている子どもから、基礎・基本の習得が十分でない子どもまで、学力的に幅広い子どもたちが参加します。今までは、全員が同じ問題を解いていたので、学力が低い子に解ける問題が少ない、逆に学力が高い子どもにとっては物足りなくなってしまう、という課題がありましたが、このアダプティブ方式を活用できれば、一人ひとりに対して、どこまで理解できているのか、どこでつまずいているのかを把握しやすい調査にできると感じました。
この流れで、ディスカッションの2つ目のテーマ、今後の全国学調におけるCBTのさらなる活用の可能性について、植野先生にご意見をいただきたいと思います。全国学調においては、CBTやIRTの活用による調査改善の余地は大きいと思っています。今後の全国学調で、CBT、あるいはIRTの良さを生かすために、どのような点に着目すれば、調査の可能性が拡がっていくかについて、コメントをいただけますでしょうか。
[植野氏]
全国学調には期待しかありませんが、IRTを使うと、まず経年変化を把握することが期待できます。
[平氏]
はい。令和7年度に中学校理科、令和8年度に中学校英語でCBTを開始しました。令和9年度には小学校と中学校の国語と算数(数学)でも開始しますので、国語、算数(数学)、理科は令和10年度から、英語は令和11年度から経年比較ができることになります。
[植野氏]
IRTの良さは、普通では比べられない、異なるテストを受験した生徒の成績を、同一尺度上で比較できるようになるだけでなく、学力の経年変化も比較できるようになる点にあります。
データサイエンスの分野では、実際には行なっていないことを行なったと仮定した場合の予測結果(反実仮想)から介入の効果を検証する「因果推論」と呼ばれる手法が開発されています。この手法には、「共変量」という学生共通の特徴量が必要なのですが、CBTを全員が受けている場合には、そのIRTスコアが共変量として利用できます。そして、どのような教育的介入が効果的であるかを分析できるようになります。これにより、さまざまな教育政策に対してコメントできるような客観的な結果を得ていくことが可能になると思っています。
ただし、調査の目的としては、最終的には一人ひとりの子どものためになるように活用することが、一番役に立つと思います。それを文部科学省だけで担うのは難しいですが、整備した形で各自治体に結果を提供し、それを各自治体が活用できるようになることを期待しています。
[平氏]
今のお話で、この大規模調査で得られるデータをいかに活用していくか、特に一人ひとりの子どものためにいかに活用していくかについて、さらに検討を深めていくべきだと思いました。
冒頭から申し上げているように、私もCBTの仕事に2020年頃からかれこれ6年関わっていますが、ともすればCBTを導入すること自体を目的に考えてしまいがちです。特に私が最初にCBTに関する業務に携わったDNCでは、この大規模な共通テストという試験を、コンピュータやネットワークを使って実施するためにはどうすればよいのか、ということばかり考えて、「受験生が力を発揮できるようにするためにはどのようなテストにすればよいか」という、CBTを活用して本来実現したいものを見失いがちになっていました。
しかし本日、電気通信大学の先行事例をうかがって、「CBTを活用して実現すべきこと」とは何なのかを考える必要があると改めて感じました。
全国学調の場合には、まず子どもたちの学力・学習状況をきちんと把握することです。文部科学省では、この調査のことを「健康診断」と説明することがあります。子ども一人ひとりの学習状況を把握し、その学びを支えるために、各学校はどのように指導改善を行えばよいのか。それを関係者一同で考え、実行していくのが全国学調の目的です。この目的を達成するために、どのようにCBTやIRTを活用すればよいかという視点を持ちながら、CBT・IRTによる全国学調のさらなる進化を支えていきたいと思いました。
以上でセミナーは終了します。このセミナーでお話しした内容が、皆様がCBTについて知ったり、あるいは考えを深めたりする機会になっていたら嬉しく存じます。ご清聴ありがとうございました。
【質疑応答】
Q.私立大学教員
我々は2004年からオンデマンドの授業を実施しており、様々な学習活動をオンラインで行うようになっています。レポートの提出や試験のような学習活動の成果を見るものもオンラインで行っています。しかし、CBTやIRTにはなかなか手が出ないという状況です。我々は今後どのようにCBT導入に向けた取り組みを進めていけばよいのか、例えば作問はどうするか、どのような場面で導入すればよいのかなどについて、示唆をいただけますでしょうか。
A.植野氏
先ほど平さんがおっしゃっていたように、CBTを導入すること自体は、ハイステークスでなければ、かなり敷居は低いと思います。実際、LMSに入っている演習問題もCBTと言えるわけです。難しいのは、入試のような受験者の人生に関わる可能性の高いテストでの仕組みです。このためには、ルールやトラブルへの対処の明確化、これまでの学内ルールや法律との整合性なども厳格になってきます。
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インタビュー・記事:小松原 潤子(KEIHER Online 編集委員)
編集:山口 夏奈(KEI大学経営総研 研究員)


