
国際教養大学 モンテ・カセム学長インタビュー
リベラルアーツの本質は「共感」と「越境」にある――誰からでも学び、現場で試す知性の育て方
全寮制で徹底した英語教育と少人数対話型授業を行い、全学生が必修で1年間の海外留学を経験する。このような、日本では唯一無二のリベラルアーツ大学である国際教養大学(AIU)は、2004年の開学以来、高等教育界に大きなインパクトを与え続けてきた。職業教育や理系教育へのシフトが叫ばれ、大学教育の功利的な側面ばかりが目に付く現代において、AIUが掲げる「リベラルアーツ」にはどのような現代的意義があるのか。立命館アジア太平洋大学(APU)学長などを歴任し、2021年6月にAIU第3代学長に就任されたモンテ・カセム氏に、リベラルアーツの本質から高等教育が抱える構造的課題、そしてAIUの「次の10年」を見据えた挑戦について、話を聞いた。
【目次】
1.「文理融合」以前の土台――東大教養学部を潰さなかった理由
2. 潜在能力を引き出す「いい人間」の教育
3. 高等教育は「負担」ではなく「先行投資」である
4.「虫は何を食べるのか」――現場の多様性から学ぶ姿勢
5.思想を「3次元のモノ」へ――AIU「第3の10年」が挑む実装力
1. 「文理融合」以前の土台――東大教養学部を潰さなかった理由
―― 近年の大学政策では、社会的・経済的なインパクトがわかりやすい職業教育や先端理系分野への資金シフトが目立ちます。一方で、いま改めて「リベラルアーツ」の重要性が各所で語られるようになっています。先生が提唱される現代的なリベラルアーツの意義について、まずお聞かせいただけますでしょうか。
カセム学長(以下、カセム):
日本では「リベラルアーツ」と聞くと、「アーツ」という言葉からすぐに文系的なイメージを持たれがちですが、それは違います。
私は何年か前、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の設立準備をご一緒させていただいていた際、元東京大学総長で文部大臣を務められた物理学者・有馬朗人先生(故人)に、「先生の人生で一番の功績は何ですか」と尋ねたことがあります。超一流の物理学者ですから、アメリカでの発見や研究業績を挙げられるかと思いきや、有馬先生の答えは「東大の教養学部を潰さなかったことだ」というものでした。
東大の教養学部は、文系だけのものではありません。文系も理系も、成績が優秀な者もそうでない者も、すべてが一緒になって仲間意識を高め、一生を共にする絆を築く環境です。学業を通じて垣根を越えた友情を生み出し、互いに教え、学び合う。この「人間教育」の土台こそが、リベラルアーツの本質なのです。
私の研究室でも、その理念を実践してきました。かつて立命館大学でゼミを持っていた際、大学側のルールでは定員20名程度でしたが、毎年約100名の応募がありました。80名を断るのはあまりに忍びなく、大学側と交渉して、なんとか30名を受け入れることにしました。
選考の基準はユニークでした。10名は学術的に極めて優れた成績の良い学生。次の10名は、放っておいたら他の先生のところで迷惑をかけるかもしれない、成績の振るわない学生。そして残りの10名は、その両者をブリッジできる、「協働」が得意な学生を選びました。この混ざり合いが、研究室を信じられないほど生き生きとさせたのです。
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