
広島市立大学 前田 香織理事長・学長インタビュー
大学は“即答”よりも“思索”の場――前田学長が語る生成AI時代の大学教育
――独自の学部構成で地域と世界をつなぐ【独自記事】
国際平和文化都市を都市像として掲げる広島市の市立大学として、1994年に設立された広島市立大学。国際学、情報科学、芸術学、平和学という学問分野の学部・大学院から構成されたユニークな大学で、「広島発の平和学」の構想のもとで地域や国際社会との連携を推進させるとともに、地元企業との産学連携・共同研究を通した地域貢献で高い評価を受けている。
2025年4月に広島市立大学初の女性学長に就任した前田香織氏は、1990年代の広島市のインターネット環境整備に携わるなど、文字通り学問と社会貢献の最先端を歩んできた。また、情報科学部の学部長(当時)として、2025年度入試において「情報」に大きなウェイトを置いた入試の導入を決め、注目を集めた。
【目次】
■ 広島市立大学のユニークな学部構成
■ 専門性を身に付けて地域に貢献できる人材育成を目指したい
■ 地域とのつながりを着実に築く中で連携の芽を育てる
■ 進化の速い情報分野だからこそ、原理について学ぶことが重要
■ 生成AIによって「考えなくなる」リスク見出す
■ 広島市立大学のユニークな学部構成
--私は、今回初めて広島に来ました。市内はインバウンドの観光客や修学旅行の生徒が本当に多いですね。
前田学長:広島市は世界的にも東京、京都に次ぐ知名度があるようです。やはり、広島には過去の経緯がありますので、訪問される人たちのほとんどは、戦争と平和の問題について考え、今の広島がどのように立ち直っているのかを見たいという意識が高い方だと思います。今おっしゃったように、修学旅行の生徒は非常に多く、街が平和についての勉強の場になっています。
--その意味で、貴学の大学院には「平和学研究科」がありますね。また、学士課程では、「国際学部」、「情報科学部」、「芸術学部」の3学部と、めずらしい学部構成になっています。
貴学は、広島大学が東広島市に移転したタイミングで創立されましたが、広島大学にはない学部を作るという意図があったのか、また、トータルな学部構想として、何か他の目的があったのか、その辺りはいかがでしょうか。
前田:今から約40年前、本学の設立構想が始まったのですが、その時はすでに広島大学の移転が決まっていました。本学にどのような学部を作るかについては、当時の社会的ニーズを踏まえ、現在の国際、情報科学、芸術の3学部の構想ができたのだと思います。当時の広島都市圏の大学ではまだ少なかった分野を、ということも考慮されたようです。
1980年代、「情報」を冠する学部は、全国的にも、ほとんどありませんでした。その意味で、情報科学部の設置は文字通り「先駆け」でした。
芸術学部の設置は、西日本には、ほとんど国公立の芸術学部がなかったという事情があります。そして、国際学部は、1980年代の国際系学部へのニーズの高まりという背景があります。
大学院の平和学研究科については、開学から4年後の1998年に広島平和研究所が本学の附置機関として設置され、それと同時に博士前期課程が開設されました。広島平和研究所は広島市の平和に関する研究機関の設置の期待もあって設置されたと聞いています。
--キャンパスの設計も独特で美しいですね。3つの学部棟が放射線状に並ぶ、特徴的な配置になっています。このキャンパス設計には意味があるのでしょうか。
前田:学部棟は、1994年に開学した時は、実は、芸術学部棟と国際学部棟だけだったのです。そして、1年遅れで1995年に情報科学部棟ができました。
おっしゃるとおり、3つの学部棟が「矢」のように放射状に配置され、その「矢」の先端部に当たるスペースには、広場や図書館などが配置されています。この「3」学部の校舎の配置は、毛利元就(もうり もとなり・戦国時代の武将)の「三矢の訓」が意識されていて、校章もこれに通ずるデザインとしています。
なお、本学のブランドイメージを高めるツールであるコミュニケーションマークの3色は、それぞれ3つの学部のテーマの色になっています。
校章・学歌・コミュニケーションマーク | 広島市立大学
■専門性を身に付けて地域に貢献できる人材育成を目指したい
--前田先生は、他のインタビューでも、大学はあくまで専門性を磨く場であり、大学で身に付ける専門的な知識や技術は、社会で生かされるべきだ、ということをおっしゃっています。
その専門性というのは、例えば芸術学部であれば芸術の、情報科学部であれば情報の専門性というものがあって、学部単位で育成されるものかと思います。一方で、大学としての全学的な教育目標があり、育成する人物像があると思います。その点はいかがですか。
前田:市立の大学ですから、それは、やはり地域に貢献できる人ということになります。地域に貢献できる人は、世界のいろいろな地域で貢献できるグローバルにも活躍できる人材にもなります。まずは、地域の課題解決に目を向けられることが重要です。企業に入っても、そういう視点がある人になってほしいと思います。
実社会での課題解決に当たっては、国際学部や情報科学部、芸術学部に入ったのなら、そこで何かしらの専門性を身に付け、それを使って地域に還元してほしい。もちろん、専門性と言っても、学部の勉強だけでプロフェッショナルになるのは難しいかもしれませんが、そのような思いを持ち続けてほしいですね。
--グローバルかつローカル、ということで、最近は「グローカル」という造語もありますね。グローバルの方に目を転じるとどうでしょうか。貴学では、例えば留学生や外国人の先生はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。
前田:留学生は、アジアから来ている学生が多く、3学部、4研究科にそれぞれ在籍していますが、国際学部と芸術学部に比較的多く在籍しています。ヨーロッパからの留学生もおり、芸術学部に在籍者が多いです。ドイツのハノーバー専科大学とは、学術交流協定を結んでいます。そこには、本学と同様、工学系と芸術系の両方の学部があり、その縁もあって、情報科学部にはドイツからの交換留学生が多く来ています。


