東京女子大学・太田 邦史 学長インタビュー

先端科学者がリベラルアーツ女子大の学長に就任した深い理由とは

東京女子大学は2026年度より、太田邦史(おおた くにひろ)氏を学長に迎えた。東京大学の教養学部長等を歴任した生命科学者であり、生命情報学や合成生物学の第一線でも活躍しつつ、リベラルアーツ教育にも力を入れてきた。科学と信仰の双方を深く理解する稀有な視点を持つ太田学長は、女子大学をどのように導こうとしているのか。専門性にしばられないリベラルアーツ教育の原点、AI時代の教養、女子大学の価値まで、多岐にわたるテーマについて率直な意見を聞いた。

【目次】
1.東大から東京女子大へ―リベラルアーツの原点と理系の学問
2.異分野の交わりで知的好奇心を刺激する―生命科学×哲学とAIが導く「新しい教養」
3.即戦力は陳腐化する―AI時代に問われる「自分の頭で考える力」
4.教養教育の質と学びの再設計
5.リーダーほど教養がいる ―古典、宗教と科学
6.女子大であることに価値がある ―東京女子大が育てるリーダーとは
7.問いを発せなくなった若者たち―「コスパ時代」に残された教育課題

1.東大から東京女子大へ―リベラルアーツの原点と理系の学問

一つの専門にしばられることなく、学科・専攻の枠を越えて幅広い学びを深める「リベラルアーツ教育」を実践する東京女子大学。現代教養学部という一学部の中で横断的に学ぶことにより、学生たちは多角的な視点を身につける。生成AIが台頭するなど激しく変化する教育環境の中、リベラルアーツ教育が果たすべき役割について、太田学長はどのように考えているのだろうか。

太田学長(以下、太田):東京女子大学と東京大学の教養学部(駒場キャンパス)は、実は、ルーツに共通点があるのです。その一つは、東京女子大学初代学長であり、旧制第一高等学校の校長も務めた新渡戸稲造ですね。東大の教養学部は、旧制第一高等学校からスタートしているのですが、「人格の陶冶」つまり、ただ学問をやるだけではなくて、人格・人間性をしっかりと育てていくことを重視しています。

専門的に学問を修めるのではなく、人間として生きるうえで必要なことを広く学び、それらを統合する。また、物事を批判的にみて、自分自身の頭で物事を考える、自律的で自立した人間を育てていく。このような理念は、東京女子大学が東大教養学部と共有するものなのです。

「ぜひ東京女子大学では、駒場の教養学部で実践してきたリベラルアーツ教育でもやりきれなかった取り組みも含めてチャレンジしてみたい」。こう思って学長就任をお受けした次第です。

太田:非常にいい質問だと思います。科学、とりわけ自然科学においては、人文社会系の学問の基本的な知識を持っていないと、技術的にも孤立してしまうことがあります。とりわけ、近年、生成AIが伸長するなかで、人間個人の「問いを立てる力」をはじめとする「教養の力」がなければ、ただ単に科学的な専門知識を学んでも、変化する現実に太刀打ちできない状況にまで来ていると思います。

実際、今アメリカでは、コンピューター・サイエンスを学んだ学生さんたちの就職先がなくなりつつあるという、そうした現象まで起きているのです。リベラルアーツは、このような時代だからこそ修めるべき重要な分野だと言えます。

他方、文系にとっての理系学問の重要性というのもあります。本学にも当然、理系分野として「情報数理」があり、2024年度からは、早稲田大学データ科学センターと提携した「早稲田大学データ科学教育プログラム」の提供も行なっています。生命科学者である私としては、STEM/STEAMのさらなる強化を目指したい。流行の人工知能(AI)とデータサイエンスだけでなく、生命科学も重要です。私の専門分野でもある生命情報学や合成生物学など、他の大学ではあまり扱えていない先端的な研究も、これから女子大教育に盛り込んでいけたらと考えています。

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