関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[中編]
教育・研究・臨床のサークルを描く【独自記事】
「国際的に開かれた大学としての土壌を形成し、教育・研究・臨床を循環させること、これが私の一番の夢と言っても過言ではありません」そう語るは関西医科大学の木梨学長だ。また、日本医学の発展、そして学生の成長のためには、大学の国際化が不可欠だとも指摘する。国際化の重要性を説くそのこころと、次世代の優秀な医療人を育成すべく木梨学長が実現を目指す「教育・研究・臨床」の大きなサークルに迫ります。
【目次】
■ ヒューマン・サイエンスの実践と臨床医学の面白さ
■ 医学研究における国際化の推進――ダブル・ディグリー制度の締結と国外臨床実習
■ 患者へ有効な新薬をいち早く届けるために――国際がん新薬開発センターの新設
■ 教育・研究・臨床の循環を目指して
■ 行動しビジョンを描くことがメンタルヘルスを保つ秘訣
■ 中編エピローグ:海外との協調を支える「国際性」とは
■ ヒューマン・サイエンスの実践と臨床医学の面白さ
薬ひとつにしても、分子標的薬にしても、基礎系研究者がずっと研究してきた中で開発された薬剤が、すでに臨床の場にはあります。そうすると、昔は基礎医学の研究に進まなければ、薬剤の開発経緯等について学ぶことができませんでしたが、今は基礎研究に進まずとも、例えば講座で扱っている研究を1か月間勉強してみて、興味がある学生はさらにいくつかの講座を跨いで勉強していくことで、実際に臨床の場で使われている薬や治療法、診断について、とてもよく分かるようになります。
また、そうした基礎研究のバックグラウンドがあると、臨床の場で「この病気はこうすることで改善されるかもしれない」となった時に、その理屈がよく分かるだけでなく、「今度は自分がその薬を開発してみよう」とか、「今度は自分がその研究に参画していこう」という気持ちになるものです。むしろそうなることによって、臨床がますます面白くなっていきます。
臨床の場で使用されている薬は、動物実験を経て研究・開発され、安全性もクリアした上で人体に投与されています。しかし、さまざまなベネフィットがある一方で、一定数サイドエフェクト(副作用)が出てくることもまた事実です。中には薬が効かない患者さんもいらっしゃいます。
こうした課題は、遺伝的背景や環境を均一化した基礎研究の場では把握できません。臨床の場で、人体へ薬が投与されることで初めて生じてくるのです。そして、「それはなぜなのか」、「どうすれば改善できるのか」も、臨床の場でしか判明しません。臨床の場で生じる新たな課題をどのように克服するかが、臨床医学の中では非常にチャレンジングで興味深い問題となっています。私はこの点にこそ、臨床医学の面白さがあると思うのです。
--臨床の場にいる医師でないと気がつかないような課題や研究テーマがあるということですね。
そのとおりです。しかし、以前は臨床の場で課題に気がついたとしても、どう対処すべきかまでは、現場の医師には分かりませんでした。けれども今は、基礎医学研究の蓄積があるため、学生時代からそうした研究に親しんでいると、臨床の場で課題が見つかった際、例えば基礎医学の講座の先生に、「このような臨床的課題があるのですが、先生はどう考えますか?」と話を持っていくことができます。そして、ディスカッションを経て共同研究が始まり、臨床研究へと発展し、治験も含めた薬の開発につながっていくのです。このような例が、今はどんどん出てきています。
学生当時、私は基礎医学に進みましたが、今なら間違いなく臨床に進みます。臨床のほうが今は面白いです。なぜなら、先に述べたように、基礎医学研究をもとに開発された医薬品が臨床で使用され、その効果の検証や副作用が臨床研究のエビデンスとして客観的に評価されるという、ヒューマン・サイエンスがまさしく医学部臨床系の中で実践されているからです。患者さんの治療が目の前に見えていることからも、研究志向の学生たちにとって、今の臨床医学は非常に面白いと思います。
反対に、基礎医学のほうは専門分化が進み、医学部だけでその方面の研究をすることが非常に難しくなってきました。そのため、工学部や理学部などとの学際的な共同研究の必要が出てきています。また、基礎的研究成果を医療に応用する段階でも、理工系研究者や企業研究者との研究連携、すなわち医工連携、産学連携はとても重要です。このような取り組みを学部・大学院の医学教育に反映することが、基礎医学が広がりをもって発展するきっかけになると私は思います。