
目白大学・今野裕之学長インタビュー 目白大学が掲げる「育てて送り出す」教育の実践
「育てる」・「伸ばす」・「送り出す」
--新学部の挑戦と、AI時代を見据えた「逆算型学習」
目白大学は、1994(平成6)年の開学以来、社会の幅広い学究的要請に応えながら、学部・学科を拡充してきた。現在、新宿キャンパスに文系6学部、さいたま岩槻キャンパスに保健医療・看護系の2学部を置き、計8学部16学科で約5,600人の学生が学んでいる。
「育てて送り出す」
これは、目白大学が掲げる教育理念である。学生一人ひとりの可能性を引き出し、社会で活躍できる人材へと育てることを大学の使命としている。この理念を、教育の現場でどのように実践しているのか。
我々は今回、目白大学の今野裕之学長にインタビューを実施。「育てて送り出す」を具現化する教育の取り組みをはじめ、全学的なカリキュラム改革や、2027年4月に開設される日本初の「韓国学部」について話をうかがった。外国語学部韓国語学科を母体に、独立した学部として新たな一歩を踏み出すそのねらいを深掘りする。さらに、心理学を専門とする今野学長ならではの学生との向き合い方や、目白大学が目指す今後の教育と大学の将来像にも迫る。
【目次】
1.「育てて送り出す」教育の真髄と、実践的な学生支援の最前線
2.心理学の視点で紐解く現代学生の気質
3.日本初「韓国学部」への挑戦
4.AI時代の「逆算型学習」
5.未来の学び手・保護者へのメッセージ
1.「育てて送り出す」教育の真髄と、実践的な学生支援の最前線
――教育産業において「偏差値」という指標が依然として強い影響力を持つ中、目白大学は「育てて送り出す」という独自の教育理念を力強く掲げ、学生一人ひとりの「教育の質(付加価値)」を高めることに注力されています。本日は、全学的なカリキュラム改革や、2027年春に開設が構想されている日本初の「韓国学部」のねらい、さらには学長ご自身の心理学研究に基づく学生支援のあり方まで、AI時代を見据えて大学教育のあり方を根本から問い直す今野学長のビジョンに迫りたいと思います。
まず、偏差値という画一的な指標にとらわれず、教育の質を高めるために、具体的にどのような実践をされているのでしょうか。
今野裕之学長(以下、今野): 本学は多様な学部・学科を擁する総合大学です。ただこれまでは、カリキュラム上で極端に際立った特徴をあえて設けてこなかった部分もありました。しかし現在、教員組織・教育組織の改革を非常に意欲的に進めています。
その大きな一歩として、2027年春の「韓国学部」設置と同時に、既存の学部学科においても鮮明なコース化を行います。例えば、地域社会学科のなかには、これまで「地域・ひとづくりコース」と「観光・まちづくりコース」がありましたが、「地域」という少し漠然とした括りを見直し、前者を「文化・探究コース」に改めます。これは、高校時代に「探究学習」を経験し、歴史や文化に強い関心を持つ高校生のニーズに真っ直ぐに応えるための改組です。
さらに、学則も改正し、全学的な共通科目・教養科目を大きく刷新します。ここでの最大の目玉は「ウェルビーイング科目群」という大きな枠組みの新設です。
――「ウェルビーイング科目群」とは、具体的にどのような能力を育むものなのでしょうか。
今野: 大きく分けて2つの柱があります。
1つは、「自分自身を適切にケアし、自分なりの楽しみを見つける力」(=人間性)。
もう1つは、「社会の様々な事象に関心を持ち、他者と上手に関わっていく力」(=社会性)です。
本学には1994年の開学時から脈々と受け継がれてきた「主・師・親(しゅ・し・しん)」という建学の精神があります。これを現代の若者に分かりやすく解釈し直したものが、「社会性」「知力」「人間性」という3つの要素です。英語や情報活用といった「知力」の養成はもちろん重要ですが、それ以前のベースとして、自分をケアする「人間性」と他者と関わる「社会性」の涵養は欠かせません。
入学したばかりの学生は「早く専門科目をたくさん学びたい」と不満を持つこともあります。しかし、1・2年生のうちにこのウェルビーイング科目群を通じて「人間としての基礎」をしっかりと固めることが、最終的に社会で活躍するための揺るぎない土台になると確信しています。
――ただ単に座学の科目を用意するだけでは、従来の大学教育と変わらない部分もあるかと思います。実践的な学びについてはどのような工夫をされていますか。
今野: 本学が力を入れているのが「活学(かつがく)」という取り組みです。これも開学時からの伝統で、「実学からもう一歩社会に踏み出した学び」と位置づけています。
従来は「臨地研修」という形で学外学習を単位化してきましたが、現在はこれを進化させ、「8科目の学外活動を単位化する」という新しい枠組みを構築しています。これは1年生から4年生までどの学年でも履修可能です。
● 地域連携とボランティア(4科目):
社会福祉協議会などが提供する信頼度の高いボランティア活動への参加や、盛んに行われている地域連携活動を単位として認定します。
● 学外体験プログラム(4科目):
短期の留学など、キャンパス外での多様な経験を単位化します。
さらに現在、学生の関心を強く惹きつける非常にユニークな3つのプログラムを構想しています。
① 推し学プログラム
現代の若者にとって欠かせない「推し活」は、立派な経済活動の一部です。これを単なる趣味で終わらせず、社会学、心理学、経営学など多様な学問的視点から客観的に捉え直し、レポートや活動記録として単位化するプログラムです。
② ピンチ脱出学プログラム
学生生活はさまざまな「ピンチ」と隣り合わせです。経済的な困窮、闇バイトなどの悪質なサイトの罠、健康上のトラブル、あるいは「単位が取れない」という切実な問題まで。こうしたリアルなピンチからの脱出方法を各領域の専門家から学び、最後は学生同士のアクティブラーニングで共有・発表し合うという実践的な授業です。
③ スポーツ・メディカル・サポートプログラム(保健医療学部・看護学部限定)
医療系の国家資格取得を目指す学生の中には、スポーツ経験者やアスリート・パラアスリートの支援に関心のある学生が少なくありません。このプログラムは、スポーツへの熱い気持ちを入学後も持ち続けてもらうための一種のキャリア教育プログラムで、アスリートケアに必要な知識の習得や、アスリートケアの現場の見学などを含む授業から構成されます。
――「ピンチ脱出学」は非常に現代的で、保護者にとっても安心感のあるプログラムですね。
今野: 実はこれらのユニークな科目には、「学生の気持ちが大学から離れてしまうのを防ぐ(中退リスクの低減)」という強い狙いがあります。
高校までは、一人ひとりが教員から認識された状態で授業が行われます。しかし、大学では毎回教室が変わり、自ら動かなければ誰からも認識されない状態になりがちです。このギャップに苦しみ、大学から気持ちが離れてしまう学生は少なくありません。
だからこそ、早い段階で「大学ってこんなに面白いことができるんだ」「自分の身を守る実践的な知恵が学べるんだ」と実感してもらい、大学への「愛着」を持ってもらうことが、退学予防と成長の第一歩になると考えています。「育てて送り出す」の「送り出す」の部分には、就職支援だけでなく、「この大学に入ってよかった」という愛着を持って卒業してもらうという意味も込められているのです。
――「送り出す」という点において、学内向けの就職パンフレットなどを拝見すると、就職実績も着実に上がっているようですね。
今野: 就職支援に関しては、非常に泥臭い、しかし確実なサポートを行っています。その最たるものが、「新宿キャンパスにいる約1,000人の3年生全員に対する、秋のキャリアセンター面接」です。
これは誰かの指示によるものではなく、キャリアセンター側から自発的に提案されたものです。自分からキャリアセンターに来る学生は、放っておいても就職できます。我々が本当にアプローチすべきは、「就職の希望がない学生」や「自分が何を考えているのか分からない学生」なのです。
景気が上向いている現在でも、進路に迷う学生は必ずいます。そうした学生を一人ひとり呼び出し、根気よく話を聞いているうちに、彼らは少しずつ進路に対する気持ちを高めていきます。この手厚い全員面接の積み重ねが、現在の就職実績の向上に直結しています。
――目白大学には文系中心の「新宿キャンパス」と、保健医療・看護系の「さいたま岩槻キャンパス」がありますが、この2つの環境の違いは学生にどのような影響を与えていますか。
今野: 全く異なる目標を持つ学生が同じ大学にいることは、大きな相乗効果を生んでいます。本学ではこれを「自学教育」の仕組みとして捉えています。
オンデマンドによる相互理解:
オンデマンド型授業を活用し、互いのキャンパスの授業を視聴したり、課題に回答したりする仕組みがあります。新宿キャンパスの学生は「岩槻の学生は国家試験に向けてあんなに大変な勉強をしているんだ」と強烈な刺激を受け、岩槻キャンパスの学生は「自分も本当は語学をやりたかったから新宿の授業を受けたい」と視野を広げています。
物理的な交流の促進:
学園祭を相互に見学したり、岩槻キャンパスにある合宿所を新宿キャンパスの運動部やゼミが合宿で利用したりしています。また、新宿キャンパスの子ども学科の学生が、岩槻キャンパス近くの農家にご協力いただき、田んぼや畑で農作業を行うといった実践的なプログラムもあります。
合同の集中体育授業:
ゴルフ、ダイビング、スキーといった集中授業形式の体育科目は、キャンパスを限定せず、両キャンパスの学生が完全に混ざり合って楽しく活動しています。
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