関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[後編]
「入学して良かった」と思える大学を目指して【独自記事】
シリーズラストを飾る後編では、木梨学長の、学生が自身の成長を実感できる大学づくりに取り組む教育者としての姿と、患者に寄り添う医療人として姿をお届けする。木梨学長は関西医科大学のミッションを、「イノベーションを起こし、次世代の優秀な医療人を育成すること」だと語る。また、学生が「入学して良かった」と思える大学を目指して、日夜改革に取り組む姿は誠実そのものだ。さらにエピローグでは、学生に推薦したい図書の紹介を通して、「患者に寄り添うとはどういうことか」、先生のお考えをお聞きすることができた。
【目次】
■ 世界規模の視点を持ちイノベーションを推進する――次世代の優秀な医療人を育成するために
■ 進取の気性やアウトプットを評価する入試こそ理想
■「入学して良かった」と思える大学を目指して
■「個々の頑張りをサポートする」関西医科大学学長としての役割
■ 後編エピローグ:「患者に寄り添う」とはどういうことか
関西医科大学の伝統と変化、チームスピリッツの重要性、今後大学が育成すべき人材について語られる[前編]はこちら
大学の国際化の推進、「教育・研究・臨床」の大きなサークルに迫る[中編]はこちら
■ 世界規模の視点を持ちイノベーションを推進する――次世代の優秀な医療人を育成するために
今の日本の教育システムには、偏差値偏重の傾向が強くみられます。しかし、世界的な視座に立つと、偏差値を物差しとしているのは日本くらいです。欧米諸国では特段重視されていません。偏差値という言葉を海外で言うと、ほとんどの場合、「どうしてそれだけで評価するの?」と返されます。
例えばヨーロッパは、EUの発足により国家間の垣根がなくなり、あらゆる学生が自由に大学を選べるようになりました。入学にあたっても、厳しい試験が課されることは少なく、広く門戸が開かれています。
また現在、大学は世界ランキングでも評価されますが、そのランキングにおけるさまざまな指標の中には、「学生が大学でどれだけ成長できたか」や「学生は大学でどのようなことを身につけられたか」といった考え方が、ベースとして明らかに存在しています。このことに鑑みても、偏差値を重視する日本の教育観は、日本社会の後進性を如実に表わしていると言えるでしょう。
したがって、我々はたまたまひとつの分野でランキングが良かったからと言って満足しているようではいけません。「どれだけ外国人留学生がいるのか」、「英語で授業はどのくらいやっているのか」、「企業連携はどのくらいできているのか」等の指標を一つひとつ確認し、世界の大学が今、どのような点に気を配っているのか、そして、日本はどの点で世界に後れを取っているのかを、しっかりと見つめ直す必要があるのです。
しかしながら、こうした指標を重視せず、「大学とはあくまでも学問の真実を追究する所だ」という象牙の塔のような大学観をお持ち先生も、世の中にはいらっしゃいます。「日本のような島国では、海外連携や留学生数、外国人教師数は少ないに決まっているだろう。ランキングは下になって当然だ」と言って、無視される方がいらっしゃるのも事実です。しかしこれは、単なる島国根性に他なりません。
ランキング上位を目指して頑張る必要は必ずしもありませんが、日本全体の成長のためには国際化が不可欠だと理解する必要はあります。それを避けて日本の国だけで閉じてしまうと、その先に成長はありません。
そしてこのことは、日本社会の20年の停滞に、どこかでつながっているような気がします。海外留学する人が減ってきた。イノベーションにつながるような進取の気性を学び、そこに関与したり、投資したりする人も少なくなってきた。また、日本社会全体としても、イノベーションに目を向けて投資をする、サポートをするような気運がずっと停滞してきました。
次の世代をいかに育成するか、我々で言えば次世代の医療人をいかに育成するかという重要なミッションを達成するためには、世界規模の視点を持つ必要があります。そうでなければ、どんどん閉鎖的になるだけで、成長は期待できません。
その点で言うと、最近、本法人の経営層から「イノベーションが必要だ」という言葉が聞かれるようになりました。私はこのことを、とても嬉しく思います。
経営基盤の安定後、次に考えるべきことは、「どこに資金を投じ、何を為すのか」というビジョンです。本学のビジョンはお金儲けではありません。医療を通じてイノベーションを起こし、次世代の優秀な医療人を育成することこそ、本学のビジョンであり、存在理由です。経営層から聞かれた言葉は、この点に改めて立ち返ったことを感じさせるものであり、本学第2の発展の兆しを見たようで、本当に嬉しく思いました。