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【オピニオン】留学生市場の「多極化」が問う、日本の大学の「選ばれる理由」―「最大受入国」の地位が示すもの

留学生は増えているが、不確実性は高まっている

世界の国際教育市場は、今や量的拡大と構造的転換の二面を同時に進行させている。UNESCO等の統計が示す通り、世界全体の留学生数は増加の一途をたどる一方で、米・英・加・豪のいわゆる「Big Four」が占める受け入れシェアは、2013年の33%から2021年には25%へと顕著に低下した。米国単独でも、世界の留学生全体に占めるシェアは28%から16%へ縮小している。ジャーナリストのNathan M. Greenfield氏がUniversity World News誌(2026年5月)で指摘するのは、この数字が持つ逆説だ。
Nathan M. Greenfield “Strategies for managing international student acceptance” University World News May20, 2026
米国は依然として世界最大の留学生受け入れ国でありながら、その相対的地位は着実に低下している。「最大」であることはもはや「安泰」を意味しない——この命題は、日本の大学執行部・経営層にとっても対岸の火事ではない。

「収益源」依存モデルの構造的脆弱性

Greenfield氏の論考が最も鋭く切り込むのは、特定市場への集中依存という問題である。「最も大きな打撃を受けたのは、留学生の学費収入に最も収益を依存している機関だった」(編集部訳)という同氏のコメントは、大学経営における留学生の位置づけそのものを問い直すきっかけになるだろう。

というのも、留学生を安定的な「収益源」として戦略的に位置づけることは、欧米の大学に限った話ではないからだ。日本においても、少子化による国内学生数の減少を背景に、留学生——とりわけ中国からの留学生——への依存度が高まっている。日本語学校の約7割が中国人学生を主たる収入源とするという現状は、その構造的脆弱性を端的に示しているといえよう。

問題の本質は、単一市場への集中がもたらすリスクが、大学側の経営努力だけでは制御できないという点にある。送り出し国の経済動向、両国間の外交関係、さらには入国管理政策の変更——これらは大学の教育改革や広報努力とはまったく無関係に、一夜にして留学生の流れを変える可能性がある。米国でのトランプ政権によるビザ発給制限の影響がその典型であり、日本も無縁ではない。こういった地政学的リスクは、すでに大学経営の変数として織り込まれなければならない時代に入っている。

「多極化」する学生の意思決定

Greenfield氏が強調するもう一つの論点は、学生側の意識変化である。現代の留学生は、特定の国に対する「あこがれ」や、これまでの留学生の動向や慣行に縛られることなく、教育の質、生活費、卒業後のキャリアパスというROI(投資対効果)を冷静に比較検討したうえで行先を選ぶ。Z世代的なワーディングで言えば「コスパ」重視の行動選択の拡大である。

この変化を後押しするのが、アジアや欧州の大学における英語開講プログラム(ETPs)の急増だ。かつては英語で学位を取得できる選択肢は英語圏に限られていたが、今や非英語圏でもその障壁は急速に低下している。

このような「多極化」は、日本にとって脅威であると同時にチャンスでもある。円安を背景とした生活コストの相対的な低さ、アニメ・ポップカルチャーなど日本文化のソフトパワー、そして日本企業への就職を見据えたキャリアパス——これらは確かに、日本ならではの「選ばれる理由」となりうる。しかし、これらは、まだ今のところ「欧米が難しいから選ばれる」という受け身的な選択肢に過ぎない。学生が比較検討するROIの文脈で明確に言語化され、伝達、周知されて初めて機能する「優位性」なのである。

「全学的戦略」への転換が急務

Greenfield氏は、こうした変化への対応として「戦略的留学生募集管理(SIEM: Strategic International Enrollment Management)」の構築を訴える。それは単なる入試担当部署の強化ではなく、大学のビジョン・教育内容・就職支援・地域連携のすべてを留学生の視点から再設計する全学的なアプローチを意味する。

ひるがえって日本の現状を見ると、留学生獲得の取り組みが「日本語教育の充実」や「留学フェアへの参加」にとどまっている大学は少なくない。しかし問われるべきは、「どのように集めるか」の前に「なぜ選ばれるべきか」である。

政府は2033年までに外国人留学生受け入れを年間40万人へ拡大するという目標を掲げ、ASEANやインドなど多様な地域からの誘致を強調する。だが数値目標の達成は、各大学が自大学ならではの教育的価値を明確化し、多様な国・地域の学生にとって「来る価値のある場所」を実現するという内発的な取り組みなしには成立しない。

具体的には、海外の多様な成績評価システムへの柔軟な対応、英語開講プログラムの戦略的拡充、卒業後の国内就職を見据えたキャリア支援体制の整備、そして地域社会と留学生をつなぐ生活インフラの確立——これらは「留学生対応」という個別施策ではなく、大学が21世紀型の高等教育機関として再定義される過程そのものと捉えるべきだ。

問われているのは大学の教育的使命=「教育哲学」

世界の留学生市場の多極化が示す最も本質的な教訓は、これまで「選ばれていた」という実績が、これからの「選ばれる理由」にはならないという厳しい現実だ。

Greenfield氏の問いかけは、米国の留学生エンロールメント(IEMs)に向けられたものでありながら、日本の大学執行部・経営者、そして政策担当者に向けた問いでもある。留学生を単なる財務的な「調整弁」として位置づけるか、教育的使命の中核を担う存在として捉えるか——その「教育哲学」の有無が、10年後の大学の姿を決定的に分けることになるだろう。


参考:
Nathan M. Greenfield “Strategies for managing international student acceptance” University World News May20, 2026 (参照:2026年5月29日)
文部科学省高等教育局「大学の国際化にかかる施策の最新状況」2024年
日本学生支援機構「2025(令和7)年度外国人留学生在籍状況調査結果」2026年


文責:坂田 拡光(KEI大学経営総研 所長)

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