奈良女子大学 高田 将志学長インタビュー[前編] -大学院に見る「国立女子大」の使命-

昨今、理工系学部の入試に「女子枠」を導入する大学が増えている。しかし、入り口を整えただけで、理工学分野の女性人材は育っていくのだろうか。奈良女子大学の高田学長は見落とされている「不足」を指摘し、若年期における学問との「出会い」や、進学後の「環境整備」の重要性を説く。また、大学院にフォーカスすることで明らかになったのは、「国立女子大」の担う社会的使命であった。
このほか前編では、奈良国立大学機構の取り組みと今後の展開、奈良の街を「借景」に持つキャンパスの魅力が、情景豊かに語られる。

奈良女子大学 高田 将志学長インタビュー[前編] 
-大学院に見る「国立女子大」の使命- 【独自記事】

【目次】
■ 「女子枠」だけでは超えられない、「男性社会」で学ぶハードル
■ 「女子枠」では遅い  若年期から始める「知る機会」の提供
■ 「環境整備」の重要性 研究と子育ての両立を支えるネットワーク -「ならっこネット」-
■ 国立女子大が果たすべき使命 -大学院が担う役割-
■ 大学と分野の垣根を越えた知の共有 -「奈良カレッジズ学問祭」-(奈良国立大学機構の取り組み①)
■ 次なるミッションは「教員養成課程の共通化」(奈良国立大学機構の取り組み②)
■ 奈良のまちはキャンパスの「借景」


「女子枠」だけでは超えられない、「男性社会」で学ぶハードル

国立大学が理工系学部の入試に「女子枠」を設けている真の目的は、大学院に進学する女子学生を増やすことにあると私は考えています。将来的に研究者や企業の研究職員として社会で活躍する女性人材を輩出すべく、学部段階から女子学生の獲得が目指されているのでしょう。

けれども、それは単純に「女子枠」を設けただけでクリアできるほど簡単な課題ではありません。男性が多数を占める環境で女性が学んでいくことには、我々男性が想像する以上に多くのハードルが存在します。


本学は2022年4月に、女子大として初めて工学部を開設しました。初年度から多くの受験生が志願してくれましたが、その中で強く印象に残っているのは、「女子大の工学部じゃなかったら、入学しなかったかもしれない」という学生の声です。

「工学部を設置している大学自体はたくさんあるのだから、その分野の勉強がしたいのであれば共学の大学でも良かろう」と思われる方もいるかもしれません。しかし、女性にしてみれば、決してそう簡単な話ではないのです。学生の言葉を聞き、理工学分野における女性人材の育成にあたっては、未だ女子大が重要な役割を担っており、女子大でその人口を増やしていく必要もあると再認識しました。


■ 「女子枠」では遅い  若年期から始める「知る機会」の提供

率直に言って「女子枠」に関しては、学部生募集の段階でようやく手を打っているようでは遅いと思います。実際、理工系学部の入試に「女子枠」を設けていても、利用する受験生はそれほど多くないのが現状です。

女子が進路として理工学系を選ばないのには、その分野について「知らないから選びようがない」という側面が少なからずあると思います。そのため、ただ「女子枠」を設けて待っているだけでは、大した効果は期待できません。彼女らにできるだけ早期から理工学分野の学びに触れる「機会」を提供することに、大学は注力すべきでしょう。

おっしゃる通りです。そして、「知ってもらう」ためには、若年層への教育的アプローチがきわめて肝要となります。 その点で、附属幼稚園、小学校、中等教育学校(中高一貫校)を持ち、具体的な取り組みをすぐに実践できる環境があることは、本学の大きな強みです。実際に理学部では、中高生を対象として、理系の学びに触れてもらえるような活動などにも取り組んでいます。

・サイエンス・オープンラボ:
https://www.ics.nara-wu.ac.jp/jp/event/science/2025/sol.html
・数学と理科の体験工房:
https://pr.nara-wu.ac.jp/news/uploads/085921982ac6717cabc9ff7dbf2415c79941962f.pdf

門を開放しているだけでは、そこに人は集まってきません。門の中へ足を踏み入れてもらうための工夫と努力が必要です。女子大で長く学生を見てきた我々には、「女性が理系分野に進出するにあたり重要なのは、若年期からの教育だ」という強い実感があります。だからこそ、本学ではこうした中高生に対する理系分野の学びの普及に、意識的に取り組んできました。


本学では三菱みらい育成財団様のご支援の下、東京科学大学、お茶の水女子大学と合同で、「女子STEAM生徒の未来チャレンジ」と題するプログラムを2024年度より実施しています。本事業は、理工学分野において世界に貢献する女子生徒の発掘・育成を目標とするものです。対象は高校1・2年生の女子生徒で、プログラムには、「実験・実習」を中心に据えた合宿型イベントの「みらいの扉キャンプ」と、各大学のオープンキャンパスに合わせて開催される「みらいの扉ビジット」の二つがあります。

「女子STEAM生徒の未来チャレンジ」(画像出典:一般社団法人 三菱みらい育成財団

特に、全国から推薦・選抜された高校1・2年生の女子生徒約50人を対象に、2泊3日で実験や実習などを提供する「みらいの扉キャンプ」では、理工学分野の最先端知識に触れることができる講義や、実際にその分野で活躍している女性研究者の体験談を聞く機会を通じて、理工学系の学びの楽しさを実感してもらうとともに、将来この分野で活躍する自身の姿をイメージしてもらえるよう工夫しています。さらに、TA(ティーチング・アシスタント)には当該分野で学ぶ女子学生を起用し、高校生に最も近い存在として、「少し未来の自分の姿」のモデルになってもらっています。

やはり目の前にモデルがあると、キャリアの解像度がまったく違ってくるようです。プログラムの参加者からは、「理系を選択したことに自信を持てなかったが、イベントに参加したことで、自身の将来像が具体性を帯び、モチベーションが上がった」といった声をいただいています。このほか、「理工系の魅力に触れ、視野が大きく広がった」「進路選択にとても役立った」との意見も聞かれました。こうした取り組みが、女子生徒の理工学系キャリア選択を後押ししてくれることを期待しています。

なお、「みらいの扉キャンプ」は3大学が持ち回りで会場を提供しており、来たる2026年度は本学にて開催予定です。


関連記事一覧