オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

【vol.1】「大学入試改革」の今後 ~東洋大学の展望~

■ 年内入試受験者の学力の担保は大学の個別対応に任されている

このような動きがある中で、ここからは、私がかねがね思っていることをいくつかお話ししたいと思います。

まず、大学入試の「ルール」は誰が決めているのか、というお話です。文部科学省の「大学入学者選抜協議会」という有識者会議で、日本の大学入試の在り方や制度について、検討や調整が行われています。文部科学省のホームページに委員の名簿が掲載されていますので、ご覧になってください。国立大学協会、私立大学連盟、私立大学協会、高等学校の校長会、都道府県教育長協議会などといったところのトップの方が委員になっていらっしゃいます。その他に大学入試センターや学識経験者が入られて、実際の入試のルールを決めています。

ただし、スライド6の下の方に書いたように、この会議のメンバーの構成が、(ちょっと下世話な言い方になりますが、)ほとんどが良い大学、良い高校の方々で、多様な受験生を送り出す高校、あるいは受け入れる大学の方はほとんど入っていません。また、西日本の大学もほとんど入っていません。ですから、個人的に見る限り、少し偏っているのではないか、そのため、全国のあらゆる状況を吸い上げることがなかなか困難なのではないか、と感じています。

我々東洋大学も私立大学連盟(以下、私大連)に加入しています。現在、本学の学長が常務理事を務めているため、私も学長にさまざまなデータを渡して、私大連の中で入試の現状を理解していただく働きかけを行いました。その中で、年内入試にも学力試験の導入を可とするよう、私大連から大学入学者選抜協議会に提案して、昨年(2026年度) 実現したわけです。


この大学入学者選抜協議会が始まったのは令和3年、いわゆる高大接続改革が始まったあたりで、それから4、5年が経っています。その中で、実際に新たな入試のルールで入学した学生の、入学後のパフォ―マンスの検証を全国的に行っているのかというと、私の知る限りでは行われていません。

もちろん、各大学の中では行っていると思います。本学も入試の方式別に、入学した学生が、その後どうなったのかという追跡調査をしています。少なくとも本学では、総合型選抜や学校推薦型選抜で入学した学生は、総体的に、本学が目指す教育を実現する入学者にはなっていません。本学が求める学生は、あくまできちんと基礎学力を身につけた入学者なのです。

そこで、東洋大学では「年内入試を変えていかなければいけない」ということで、基礎学力を担保するために、年内入試にも学力試験を導入することにしました。大学入学者選抜協議会の方々は、おそらく本学の学内状況をご存知ないと思います。それに、もっと言えば、関西の大学の入試状況や、進路多様の高校、基礎学力が十分に身についていない学生も多く在籍する大学の事情なども、ほとんどご存知なかったのではないでしょうか。本学の年内入試が話題になり、そのあたりの事情をご説明したことで、ようやくご理解いただいたのではないかと思います。


ご記憶の方もあるかと思いますが、令和3年からの高大接続改革の柱の1つに「学びの基礎診断」というものがありました。今も一応「形」はありますが、実態としてはほとんど機能していません。

これはもともと「高等学校基礎学力テスト(仮称)」として構想がスタートしたもので、年内入試の総合型選抜や学校推薦型選抜で入学する学生の基礎学力の担保を目指していました。

この構想が出てきたときには、こういった基礎学力テストを高校3年生の夏頃に実施し、その得点も含めて年内入試を行う。そして一般選抜は、大学入学共通テストが1月にあるので、そこを受けてもらう、という2段階になっていました。そうなれば、年内の学生の学力が客観的に担保されるのでありがたい、と我々も思っていたのです。

しかし、高等学校基礎学力テストは、最終的になくなりました。具体的な理由は私もよくわかりませんが、高校関係団体の反対が大きかったようです。これがなくなったことによって、総合型選抜と学校推薦型選抜は、学力試験を行わない入試になってしまいました。おそらくここが、一番大きな問題であると思います。

このことにより、各大学はそれぞれで、年内入試の受験者の学力を測る流れになっていきました。これにはおもに、本学のように大学独自の基礎学力テストを取り入れる場合と、共通テストを利用する場合があります。しかし、年内で確実に合格を決めたい人に共通テストを課しても、結局1月・2月まで引っ張ることになりますから、普通はもう受験しません。その他に、高大接続改革では英語の外部試験を導入しよう、という流れもありましたが、結局それもダメになりました。そういうわけで、高大接続改革で出てきた構想は、現在、全体としてほとんど残っていないのですね。

東洋大学では長年、大学独自に年内入試でも何らかの形で学力を問う方式を実施しています。英語の外部試験は2017年に導入しましたし、大学独自の基礎学力テストも作っています。このような入試を実施したことで、本学がどのように変わってきたのかについては、後ほどお話しします。ここでは、年内入試における学力試験の問題は、急に出てきたものではなく、令和3年頃からずっと続いているということをご理解いただけますと幸いです。


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