
東京女子大学・太田 邦史 学長インタビュー
4.教養教育の質と学びの再設計
授業の活性化は、学生だけでなく教員のモチベーションも向上させる。教育と研究に相乗効果をもたらす。学生たちに目的意識を持ってもらうために、問題解決型の授業は有効である。問題解決そのもので得られる学びと座学で得られる知識の相乗効果で、学びへの動機づけが生まれるのだ。
太田:そして、誰が教養学部でリベラルアーツを担当するかというのも重要です。たとえば、初期の東大教養学部で一般教育を担当したのは、いわゆる碩学(せきがく)たち。新制東大の初代総長の南原繁、教養学部長で南原の次の総長となった矢内原忠雄といった、誰もが尊敬すべき大学者でした。彼らが1年生にも教えることで、学問の真髄や本物の教養を教えるという理念があったのです。
ーー 南原繁は、東京女子大学の初代学長である、新渡戸稲造の門下生です。戦後、駒場にあった旧制第一高等学校がどうなるかとなった時に、そこにカレッジをつくる、リベラルアーツをやると言って教養学部を構想したのも南原繁総長ですよね。新渡戸や南原と同じ精神でもって、リベラルアーツ教育をさらに現代的に発展させて行こうというお考えですか。
太田:そうですね。リベラルアーツが主体である大学だからこそ、このような取り組みも可能になるはずです。
ーー 米国では、大御所の教授がジェネラル・エデュケーションの教壇に立つと言いますね。やはりベテランの先生がジェネラル・エデュケーションの教壇に立っていただくということが重要なのですか。
太田:いえ、ベテランの先生か若手の先生かというよりも、そこで若者の心に灯をともす、火をつける、そういう経験を与える熱意と実力がある教育者が教壇に立つことが大事なんです。
前任校の授業は、専門課程の前段階にある「つまらない」講義が多いと言う学生が多かった。しかし、すごく飛び抜けてよくできる学生が、どんどん授業を牽引してもらうというようなこと(たとえば「アドバンスト理科」など)も積極的に行うことで、大きな効果がありました。どの大学にも必ず実力のある研究者や、ずば抜けた才能がある学生がいるものです。それらが組み合わさり、授業が活性化すると、教える側もやはり研究をもっと頑張らないといけないという気持ちになります。教育と研究の相乗効果が、大学全体の活性化につながるんですね。
ーー 教育と研究の相乗効果について考えたとき、大学の教育の在り方として幅広い教養を身につけることと、専門的な学問を深く追究することのどちらを重視すべきかという問いは重要なテーマですね。前者を重んじるアメリカ的なリベラル・エデュケーション=ジェネラル・エデュケーションの理念を大切にしながらも、後者を重んじるドイツ的な理念、つまり、専門的な研究を通じて学生を育てるという考え方もやはり重要だということになりますか。
太田:東京女子大学のリベラルアーツ教育は専門性を大事にしており、まさにその通りです。研究の過程で「問いを見つける」ことや、試行錯誤を繰り返しながら解決策を見出していくプロセス、独りよがりにならないように研究室のメンバーからの批判を受け修正する経験などは、大学ならではの学びの一つです。本学でも卒業論文・卒業研究は必須となっていますが、バラバラの知見を統合して一つにまとめて、それを過去の先人たちの築いた知識体系の中に当てはめていくというのは、非常に高度で人間的な作業であり、そのようなプロセスが研究全体にあるということです。
ーー 「問いを立てる」ところから、ロジカルに推論や実験を行う「研究」という営みの教育的価値の重要性がわかりました。一方、特に文科系の学問においては、「本を読む」「論文を読む」、テキスト分析という作業や経験も重要だと思います。また、最近では、大学の中だけではなく、実社会あるいは企業などとも連携をして、いわゆる「問題解決型」のゼミ、PBL(Problem Based Learning)も必要だと言われますよね。
個人的な問題意識として、最近の若い人たちは本を読む機会が少なくなっていることがあります。問いを立てる以前に、文章を読めなくなっているのでは問いも出てこないし、論文もかけないでしょう。まとまった日本語なり外国語なりを、3時間くらいかけてじっくりと読み込んでいくような作業、そういうトレーニングをする場所は、大学にも少なくなっている気がするのです。社会というフィールドでの学びの重要性は否定しませんが、その分、テキストを読むトレーニングに割く時間が減ってきているとすれば問題です。
太田:本もフィールドもどちらも重要です。問題は、どのようにそれらを組み合わせてやるかだと思います。大学生が本を読まない、読めない状況になっているのは看過できません。そこには、SNSなどの短い文章しか読まない、書かないっていう背景がありますね。
しかし、多くの大学生にとっては、何のために本を読むのかが、昔よりもわからなくなっているのだと思うのです。つまり、目的意識を持つことができない。そこで、フィールドに出て、企業や自治体の人などとPBLをやることで「こういう学びっていうのはここに結びつくんだね」っていうモチベーションを持ってもらう。PBL型の授業は、それそのものの学びに加えて、座学の学びへの動機付けにもなっているのです。東京女子大学でも産学連携による実践型の学びも取り入れています。
社会では自分たちの学びがこういう風に活きてくる、これを学んでいないと社会に出て使いものにならないと実感することで、俄然「真剣にやらなければ」という気持ちが湧いてくる。多くの人たちは、みな大学を卒業し、社会に出てからしばらくして、「大学でやっておけばよかったな」と気づくわけです。そのような気づきをもっと早い段階で与えようとするのが、PBLの役割かもしれません。
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