KEI BOOK CLUB

高等教育関連の新刊書を中心に、さまざまなジャンルの書籍を紹介するコーナー

『「数値化」中毒ーなぜ手段が目的に変わるのか』 小塩真司 著 (PHP新書)

「数字で報告して」は思考停止の合言葉

■本の内容

 私たちの社会はあらゆる場面で「数字」「数値」「診断」「判定」「選抜」に取り囲まれている。学校ではテストの点数や通知表の評価、習いごとの級や段が、努力や能力の尺度として示される。受験期には偏差値や合格判定といった数値が進路を左右し、大学ではGPAが学業成績や将来を決める重要な指標となる。社会に出れば、売上や評価点、SNSのフォロワー数といった数値が人の価値を決めるかのように扱われる。こうした「数値化」は、客観的で公正な判断を支える一方で、人間の多様な側面を単純化し、息苦しさを生み出すこともある。

 数字が可視化されることで比較が容易になり、私たちは無意識のうちに他者と自分を比べて落ち込み、自己価値を数値に委ねてしまう。教育や仕事の現場でも、本来の目的よりも指標そのものを上げることが優先されることがある。たとえば、救急の「4時間基準」や「大学合格者数ランキング」など、本来目安であるはずの数値が目的化し、意味を失ってしまう現象が生じている。

 さらに、私たちの活動を支える「動機づけ」も、外発的な評価や報酬に依存しがちだ。内発的動機づけ――すなわち「好き」「楽しい」「意味がある」という思いからの行動――を重視することが、学びや働きの豊かさにつながるのではないか。勉強や仕事は「成果を数値で示すため」だけでなく、「生きることを豊かにするため」にある。この視点を取り戻すことが、数値に支配されがちな現代社会を見つめ直す第一歩となるだろう。


■著者:

小塩真司(おしお あつし):
1972年愛知県生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究科教育心理学専攻修了。博士(教育心理学)。中部大学准教授などを経て早稲田大学文学学術院教授。専門はパーソナリティ心理学、発達心理学

■目次:

第1章 数字に振り回される人生
第2章 指標が目的化すると、その意味が失われる
第3章 数値が制度にも影響する
第4章 私たちはつい測定に執着してしまう
第5章 概念と測定、診断について考える
第6章 数字の呪縛を解くためには


定価 1,133円(税込)
刊行日 2026年3月18日

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