
奈良女子大学 高田 将志学長インタビュー[前編] -大学院に見る「国立女子大」の使命-
■ 「環境整備」の重要性 研究と子育ての両立を支えるネットワーク -「ならっこネット」-
――先ほどのお話の中で、「男性が多数を占める環境で女性が学んでいくことには多くのハードルが存在する」といったお言葉もありましたが、それは学部に限ったことではありませんよね。
おっしゃる通りです。「女子枠」でうまく女子学生を獲得でき、大学院へ進学してくれたとしても、女性が安心して研究活動に取り組める環境がなければ、彼女たちのキャリアはそこで潰えてしまいます。当然、社会に理工学分野の女性人材を輩出することも叶いません。
先述のように、女性が「男性社会」でキャリアを重ねていくことには、男性が想像する以上に多くのハードルが存在します。独特のプレッシャーもあるでしょうし、各ライフイベントがキャリアに与える影響も男性の比ではありません。そうしたことを、男性多数の組織の方々はどれほど正しく認識できているでしょうか。私はまだまだ心もとないと感じています。
――昨今、女性研究者の比率向上に向けて、女性限定で研究者の公募を行っている大学も散見されます。
取り組み自体はもちろん良いことです。しかし同様に、重要なのは「採用後」であることを各大学には意識してほしいと思います。
募集を行い、優秀な女性人材が集まったとしても、大学に女性の働きやすい環境が整備されていなければ、苦労するのは彼女たちです。女性をフォローする体制がきちんと整っているか、その点までしっかりと考慮したうえで、募集は行われるべきでしょう。
――女性が安心してキャリアを重ねていける環境の整備が重要との示唆をいただきましたが、貴学では大学院生や若手研究者のキャリアを支援するにあたり、具体的にどのような取り組みをなさっていますか。
奈良女子大学 男女共同参画推進機構内の「ダイバーシティ研究環境支援本部」では、共助支援事業として、女性のライフイベントに配慮した教育研究環境の整備に取り組んでいます。例えば、「子育て支援システム」や「ワークライフバランス支援相談室」の管理・運営などです。いずれのサポートも、女子学生・女性教職員に限らず、男性教職員も利用できます。

「子育て支援システム」の柱となっているのが、「ならっこネット」です。これは奈良女子大学および共同実施機関に勤務する教職員*・学生・研究者を対象とした子育て支援制度で、満3か月~小学6年生の子どもの預かり・送迎といったサポートを行っています。2008年に、本学の女性研究者を支援するための取り組みとして始まった本事業は、今年(2026年)で18年目を迎え、本学関係者の「学業・職業」と「出産・子育て」の両立を支えるネットワークへ拡大しました。
*本支援事業の対象となる教職員は、常勤・非常勤を問わない。附属校園含む。
本事業は、「公共の子育て支援でカバーしきれないところをフォローしてほしい」といった声に応えるかたちで開始されたものです。例えば、勤務中に保育園から「子どもを迎えに来てください」と電話があり、やむを得ず早退した、というのはよくある話ですよね。けれども、早退が難しいタイミングもあるでしょうし、職場の人に対する申し訳なさから、肩身の狭い思いをした方も少なくないと思います。
そうしたときに頼りになるのが、「ならっこネット」です。「ならっこネット」に登録していると、専属サポーターが保護者に代わって子どもを迎えに行ってくれます。
――「専属サポーター」とは、具体的にどのような方なのでしょうか。
「専属サポーター」は、本事業に登録している有償ボランティアの方々です。地域の方や大学院生が登録しています。
当然、子どもを預かるのには責任が伴います。そのため本学では、利用者が安心して本システムを利用できるよう、サポーターの養成に丁寧に取り組んでいます。
――サポーターの養成はどのようなかたちで行われていますか。
サポーター志望者は、本システムの趣旨や具体的な支援方法等に対する理解の必要から、説明会への参加が必須です。そして、本事業の理念にご賛同いただける方にのみサポーター登録へ進んでいただき、その後も複数の講習を受講してもらっています。講習や講座のメニューは、サポーターに必要な知識とスキルを身につけてもらうのみならず、サポーターが自信をもって支援活動に取り組めるよう、毎年工夫されているのも特長です。
――しっかりとした研修が組まれており、安心して子どもを預けられますね。利用者ごとの専属サポーターはどのようにして決まるのでしょうか。
「ならっこネット」では、利用者と本部スタッフ・サポーターとの丁寧な面談を踏まえ、利用者の希望条件に合致するサポーターのみが、「専属サポーター」として、当該利用者の支援を行う仕組みを採用しています。これにより、利用者は安心して子どもを預けることができるのです。なお、利用者ごとに専属サポーターは複数配置されるため、依頼が断られることも基本的にありません。
2025年2月末時点で、「ならっこネット」の登録利用者数は58名(支援される子どもの数87名)、登録サポーター数は64名です。また、2024年4月~2025年2月末までの期間における依頼件数は246件で、うち216件が実施されました。
――高田先生も「ならっこネット」を利用されたことはありますか。
妻が大阪で働いていたもので、私も子どもが小さい頃は、いろいろなタイミングで不定期に利用していました。単発的な依頼に対応していただける点も、本制度の良さであると思います。
――日々のちょっとしたトラブル等に迅速かつきめ細やかに対応してくれるシステムがあることは、小さなことのようで、非常に大きな心身の支えとなりますね。

また、本事業は、文部科学省 2019年度科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」に選定されたことを受け、支援体制をいっそう強化し、数年前から病児や病後児の保育支援も開始しました。
本来、本学のように附属病院を持たない大学が病児・病後児を預かる体制を構築するのは、デリケートな問題も含め、難しい場合が多いです。けれども、そこはやはり女子大です。学生支援に携わる教職員は皆、この支援の重要性を理解しています。
「自分も同様に苦労した」「だから、こういう制度が必要なんだ」そうした思いをもって、本支援の実現に、とても前向きに取り組んでくれました。
このほかにも、キャリア開発支援本部では、大学院生や博士研究員を対象に、キャリアに関する相談やアドバイス、情報発信、インターンシップなど、各種企画を実施しています。本学は比較的規模の小さな大学で、大学院生の数も大規模大学に較べて少数です。しかしその分、大学院生一人ひとりにしっかりと目が届くため、こうしたきめ細やかなサポートが可能となっています。
奈良女子大学 大学院 人間文化総合科学研究科|大学院生への各種支援
本学はあらゆる女性研究者の支援に、積極的かつ継続的に取り組んできました。彼女らの声に耳を傾け、小規模大学だからこそできる現場に密着した支援を、真面目にきちんと実践し続けています。こうした風土と体制は、本学の大きな強みです。そして同時に、これは本学が担う責務であるとも感じています。女性研究者を支えるという役割を、女子大として、今後もしっかりと果たしていく所存です。
――大学院生や研究者、研究員というところにまで目を配ると、女子大の存在意義がよりはっきりと見えてきたように思います。各制度が彼女たちのキャリアを支援するものであることはもちろん、精神的な支えにもなっていると感じました。
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