オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

2026年度大学入学共通テスト『情報Ⅰ』を振り返る ――共通テストが示した「学びの現在地」

■ 共通テストの結果から見えてくる高校の学び

[小宮先生
実際の課題に対し、試行錯誤しながら解決をはかる、その過程の中で学んでいく、という学習法は、基本的に大賛成です。そのプロセスが試験の問題と結びついているのが、この第4問ですね。

なお、プログラミングも、本来は試行錯誤しながら身につけていく領域だと思います。ただしプログラミングは、おそらく理解し始めるまでに結構壁があって、そこを乗り越えられないと苦手意識を持ってしまうところがあります。プログラミングにはもともと向き・不向きがあるので、それも苦手意識の形成に多少影響するのかもしれません。

[小宮先生
はじめの問題設定の読み取りは、2025年度と同様に8割から9割近くできています。しかし、実際にコーディングして、プログラムを完成させたり、その修正をしたりする問題は、正答率が5割程度で、やはりできていないことが見えてきます。特に、最後のプログラムの実行回数の問題は、正答率が2割を切りました。段階を踏んで解いてきたにもかかわらず、これが解けなかったというのは、やはりトレース(プログラムの流れの追跡)ができていないということなのですね。

トレースは、プログラムをきちんと理解できているかを確認できる重要な設問です。そのため、共通テストでは今後も出題されるのではないかと思います。受験勉強にも良し悪しはありますが、トレースで得点に差がつくとなれば、皆が勉強するでしょう。けれども、その学習は単なる試験対策にとどまらず、プログラミングへの理解を深めることにもつながります。

ただし、難しすぎると諦めてしまう。そこが難しい部分ですね。

再掲:2026年度共通テスト『情報Ⅰ』設問別正答率
(大学入試センター 令和8年度大学入学共通テスト本試験設問別得点率及び正答率表に基づき
KEI大学経営総研が作成)


[小宮先生
私はちょっと難しいと思います。生成AIは、マンツーマンでトレースの間違いを指摘する先生代わりに使うことはできますが、そのためにはプロンプトを書かなければなりません。それが初学者にできるかというと、難しいような気がします。

また、トレースの結果がほしいだけであれば、生成AIにトレースさせれば済みます。しかし、プログラムを作る過程で、「どうしてそうなるのか」を理解していくことまでAIに任せてよいわけではないと思います。

今はすばらしいライブラリ(プログラムでよく使われる機能や部品をまとめたもの)があるので、それを使って簡単にアプリを作ることができます。それでも、「ループとは何か」「配列とはどういうことか」などを全く知らなくてよいわけではありません。「AIに解かせればよいから、数学なんかやらなくてもよい」とはならないのと同様です。手段としてのプログラミングと、プログラミングを通して考え方を身につけることは、別の話であると思います。

しかしながら、今後の生成AIの発展によって、プログラミング教育そのものも大きく変わってくると思います。ですから、どうするのが正解なのか、今の時点では何とも言えない部分はありますね。


[小宮先生
入試の題材としては、両方とも出題しにくい領域だと思います。例えば、情報システムについて思考力を問う問題は、システムの仕様等を十分に説明するために問題文が長大になりがちで、問題としては出題しにくいものです。そのため、無難な穴埋めの知識問題や、教科書に書いてあるような常識的なことを問うものになりやすい。そう考えると、今回の第2問Aは、若干無理なところはあっても、かなり挑戦しているな、と思いました。

他方、中問Bは、2進法の真理表と画像編集を組み合わせたもので、「情報デザイン」の領域になります。今どきの画像編集は、範囲を選択して簡単にできますが、その裏にはどのような仕組みがあるのかを問う問題ですね。ちなみに、私の少年時代は、ゲームのプログラムの作成で画像に背景を重ねようとしたら、この問題のような操作が必要だったので、個人的には懐かしく感じました。

単なる2進法の計算問題ではなく、「この操作の場合はどの演算を使うべきか」を考えさせたり、選択する範囲を決めるためにヒストグラムを読み解いたりする設問があるのはおもしろいですね。単純なデータ分析としてでなく、何かの設計に役立てるためにデータから考えるのは、日常的にもよくあることです。

また、本問では、途中の演算の手順を問う設問よりも、最後の正しい画像を選ぶ設問の正答率の方が高くなっていました。おそらく、最終的な結果から逆算して考えたためでしょう。これは、考え方として間違いではありません。順番通りにやるのではなく、限られた時間の中で効率の良い考え方を見つけられるというのも、大事なことですね。

情報デザインも、マークシート式では出題しにくい領域です。今回も、デザインそのものを問うてるかと言えば、少し微妙かもしれませんが、限られた問い方の中で、よく考えて出題されていると思いました。


[小宮先生
『情報Ⅰ』の分野で見ると、ほぼ網羅していると思います。そして、2026年度共通テストの第1問の正答率が振るわなかったことで、出題側に「知識が絡んだ問題も重要だ」という新たな認識が生まれました。やはり大学では、知識の土台がある上で思考し、そこからよりレベルの高い知識や基礎を築き、さらにその上に思考を積み重ねてほしいのです。だからこそ、基礎を学ぶことが疎かになっているかもしれないのは、ちょっと不安になりますね。

今どきは、「知識なんて生成AIに聞けばいい」という考え方もありますが、大学では、よりレベルの高い領域に進もうとした際、基礎がしっかり身についてないと次のステップに進めないような内容も多々あります。ここで言う「基礎」とは、暗記して問題文の穴を埋めるようなものではなく、問われていることの基となる考え方を意味します。基礎的な考え方がわかっているから、結果的に問題文の穴を埋めたり、選択肢を選べたりするのです。そういった勉強の仕方ができていることを指しています。


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