
2026年度大学入学共通テスト『情報Ⅰ』を振り返る ――共通テストが示した「学びの現在地」
■ 出題側から見た「情報」の問題構成
――先ほど、共通テスト『情報Ⅰ』のような大掛かりな問題を、各大学の個別試験で出題するのは難しい、というお話がありました。その場合、今後各大学が入試に情報科目の新規導入を検討する際、今回(2026年度共通テスト『情報Ⅰ』)の第1問のような、知識問題や穴埋め問題中心で作る、というのはいかがでしょうか。
[小宮先生]
実は、知識問題というのは、(センター試験時代の『情報関係基礎』でもそうでしたが、)意外に作るのが難しく、最後まで問題がまとまらないこともよくあります。知識問題と言っても、「覚えていれば解ける」ものではなくて、「その知識を理解しているから解ける」という問題にしたいのです。そのため、問題案はたくさん出てきますが、少しでも微妙なところがあると、「こういった条件ではどうなのか」「この選択肢の文章では矛盾が生じないか」とチェックが入り、ボツになるのですね。中には、かなり検討が進んでからボツになることもあります。
おもしろい設定であっても、微妙なところに配慮するために問題文で詳しく説明してしまったら、つまらない、意味のない問題になってしまう。そういうことが往々にしてあります。
そして、情報系の教員が入試問題を作るにしても、大学で自分の専門科目の問題を作るのと比べて、圧倒的に難しいです。特に高校の「情報」は、教科書によって掲載内容のバラつきが大きく、問題文や選択肢を作るのも難しい。その中で、「情報」らしさも出しつつ、きちんと理解度を測ろうとすると、出題できる内容や形式は、おのずと限られてきてしまいますね。
――問題セットとして成立するためには、1問1問はもちろんですが、全体のバランスも重要ですね。そういった観点から見て、2026年度共通テストの問題はどのように見られますか。
[小宮先生]
2025年度、2026年度の共通テストはともに、学習指導要領の4つの分野(※2)からほぼ万遍なく出題がなされ、しかも身近なところから題材を採っています。例えばプログラミング分野について、センター試験の『情報関係基礎』では、もう少し突飛な題材もありましたが、『情報Ⅰ』では、そういったものはあえて出題していないのではないかと思います。
※2 学習指導要領の4つの分野:「(1)情報社会の問題解決」「(2)コミュニケーションと情報デザイン」「(3)コンピュータとプログラミング」「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」
また、プログラムの内容自体も安定しています。突飛なアルゴリズムではなく、配列とループでできている。このあたりは、今後も大きく変えてくることはないだろうと思います。
プログラムのパターンとしては、見た目は違うかもしれませんが、大きく見れば2年とも同じです。しかし、パターンで解けてしまうかというとそうではありません。
さらに、身近な題材を、配列とループを使ったアルゴリズムとして考えられるという共通事項がある点で、これは、「大学入学までに、ここまではしっかりできるようになってください」というメッセージになっているのではないか、とも感じています。これは共通テスト対策というのではなく、あらゆる学部、どの分野でも、「ここが分かっていれば応用が利く」という意味です。
ある意味、配列とループはプログラミングを学ぶ上での1つの壁なので、個別試験で出題するのであれば、その大学・学部の目標に合わせて、もう少しトッピングしたり、反対に易しくしたりすればよいと思います。
――2025年度と2026年度の共通テストの本試験では、ネットワーク分野の出題がありませんでした。ネットワークは、中学の技術科でも扱っており、問題を作りやすい分野ではないかとか思うのですが、なかなか出題されませんね。
[小宮先生]
一つには、先ほどお話ししたように、問題設定として、ちょっとしたところで不安が残りやすいのです。ネットワークのプロの目線で見たら、指摘されるかもしれない、ということがあるのですね。共通テストの問題は翌日の新聞に載りますから、出題に用心深くなっているのかもしれません。
他方、ネットワークの知識自体は、文系・理系を問わず必要です。ネットワークトラブルは日常的にも起きることなので、出題される/されないにかかわらず、きちんと学んでおくべきですね。
また、現行の学習指導要領の章立てでは、一つにまとめた方がよい内容が、2つ以上に分かれている場合がいくつもあります。ネットワークでは、やはりセキュリティが一番重要ですが、学習指導要領において、セキュリティは「(1)情報社会の問題解決」で、ネットワークの仕組みは「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」で扱われています。さらに、2進法の真理表は、「(2)コミュニケーションと情報デザイン」で学びますが、これは本来「(3)コンピュータとプログラミング」で扱われるコンピュータの仕組みとの結びつきが強いです。こういった、分野をまたいだ問題が出てくると、受験生的にはドキッとしますが、情報が得意な人にはたまらないと思います。

『情報Ⅰ』学習指導要領の項目とキーワード
――受験生の中には、プログラミングに対する苦手意識から、プログラミングというだけで諦めてしまう人もいる、という話も聞きます。これは先生の個人的なご意見でけっこうですが、個別試験で「情報」を課す際に、「プログラミングは入学してからしっかり学べるから出題しない。その代わりデータサイエンスはしっかり問う」という形はどうでしょうか。
[小宮先生]
プログラミングの問題は共通テストに任せるのも「あり」だと思います。他方、プログラミングはコンピュータが動く原理と密接に結びついており、プログラミングを通してコンピュータそのものを理解することになります。つまり、プログラミングは「情報」全体につながる起点なのです。その意味で、(共通テストで求められる程度の)プログラミングは、高校できちんと勉強した方がよいとは思います。
ただし、共通テストのレベルを超えた本格的なプログラミングを学ぶのは大学に入学してから、という考えも、もちろん「あり」だとは思います。何と言っても、「情報」は高校の授業時間数が少ないので、入試で他科目と同じように問うことは難しいと思います。
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