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情報入試実施大学レポート2026―松山大学・高知工科大学・広島市立大学・立命館大学―

【広島市立大学 情報科学部】個別学力検査への「情報」導入の成果と今後

広島市立大学大学院情報科学研究科 井上 智生教授

井上 智生教授

情報入試導入の背景と狙い

広島市立大学情報科学部は、現在の1年生の入試から個別入試に「情報」を導入しました。本学の入学者選抜の方式は総合型、学校推薦型、一般入試の前期・後期の入試方式の4つで、全体で210人の定員です。学科は4学科ありますが、入試は一括募集で、2年次から学科配属することになっています。

今回「情報」を導入した後期日程の情報の配点は、スライドの表にあるように900点満点中、共通テストの「情報Ⅰ」と個別試験の「情報」を合わせて500点、全体の56%という配点です。さらに、「情報」を選択科目の一つとしている大学が多いですが、本学は「情報」必須受験という思い切ったことをしました。導入当時、一部の予備校から、「そんなことをしたら、出願者が10分の1になりますよ」と脅されましたが、突っぱねました。

情報入試の導入の狙いは、我々が情報科学部の老舗である、という責務からです。本学の開学は1994年で今年32年目になりますが、開学時から情報科学部を設置しています。一方、現実的な問題として、これまで個別試験の数学では、「数学なら点を稼げるから」という受験生が多く、入学してから「プログラミングが嫌いなんです」という学生がけっこう目立っていた、ということがありました。
また、近隣でも情報系の学部学科が急増する中で、確実に「情報を学びたい」「情報を得意にしたい」という学生を確実に取りたい、という思いで、このように思い切った入試に踏み切ったわけです。

後期日程に「情報」を導入した狙いは、いわゆる「滑り止め」でわざわざ高配点の「情報」を選ぼうとするからには、ふだんから勉強して、点数を取れる自信があるはずです。そうすることで、「ここならば入れる」というだけの理由で入学してくる学生を減らせるだろう、という思いがありました。
なお、2026年度の後期日程は、現時点ではまだ行っていませんので、ここからお話しするのは、ほとんどが昨年度の内容であることをご了承ください。


結果的に優秀な学生が多数受験した

昨年度実施した個別学力検査情報の問題は、「情報Ⅰ」の範囲から出題しました。300点満点で4問構成です。これは共通テストの構成を参考にしています。また、情報入試スタートにあたって、事前に「模擬問題」という形で問題セットを作りました。ですから、昨年度の作問担当者は、模擬問題を2セット、本番の問題を1セット、さらに旧課程対応を1セット作ったので、ものすごい数の問題を作ったことになります。

こちらが昨年度の問題の構成です。基本的には、先ほど言いましたように、共通テストとほぼ同じ構成で、ただし、第3問と第4問の順序が逆の形になっています。

結論として、第1回の情報入試はうまくいきました。出願倍率は17.6倍、実質倍率は5.9倍で、過去最高になりました。また、出願の状況を見ると、広島県外からの受験者の出願が多くなりましたが、実際に受験した人はいつも通りのメンバーでした。そして、私たちの大学はトップクラスの大学ではありませんので、まずは高校の先生方に、必須科目である「情報Ⅰ」をきちんと教えてよかった、と思ってもらう試験問題を作ろうという狙いで、「情報Ⅰ」の範囲を徹底的に確認しながら作りました。

結果としては、300点満点が結構出ました。合格者の平均点は282点、合格最低点は250点でした。そして、入学後1年経過した今年の1年生の成績を調査してみると、プログラミングなど情報系の科目の成績は、後期日程の入学者の方が、前期日程の入学者よりも有意に成績が高いという結果が得られています。

具体的な数値がこちらです。後期日程の実質倍率が5.9倍。そして、先ほどお話ししたように、個別学力試験では250点以上の人が合格しています。逆に、個別試験で300点満点取っても合格できなかった受験生もいます。合格者の共通テスト「情報」の最低点は、200点満点の換算で142点、100点満点で71点でした。これは共通テストの平均点とほぼ同じで、学生のレベルの保証はできたと思います。

ここからは、問題別の受験生の成績を見てみます。全体的に予想以上によくできており、満点でも合格できなかった人がいました。これは、受験者がしっかり勉強してくれた、といえるかもしれません。
具体的なデータはお見せできませんが、第2問と第4問で、できている人・できなかった人に特徴的な傾向がありました。
第4問は、「すごろく」 におけるコマの動きの処理でプログラミングの思考力を問う問題です。この問題では、コードではなくフローチャートを使っていますが、フローチャートでもうまく思考力を問うことができていたと思います。
一方、第2問は情報のデジタル化の基礎知識を問う問題で、RGB画像の表現の仕組みや情報量 (ビット/バイト) の考え方を出しました。これは比較的簡単だと思っていたのですが、成績に差が出てきました。「カラーの画像をグレースケールに処理するとき何ビット必要か」のような、具体的な方法を示して計算する部分はできているのですが、一般化して考える問題は、急にできなくなる傾向がありました。


県外からの併願志願者が急増

次に、併願状況を見ていきます。先ほどご紹介したように、県外からの受験者は増えていますが、併願先の上位10大学くらいまでは、これまでと変わりませんでした。それでも、県外の併願先は、関東圏の大学や、これまで見られなかった情報系学部を持つ大学というのも見られました。山口県の大学については、一部の大学が急増する一方で減少する大学もあり、これは近隣同士で受験生の取り合いになったのかもしれません。また、併願先で「〇〇教育大学」が目立ちました。これは教職課程の関係があるかもしれません。
予備校の分析でも、情報系の学部・学科を設置する大学が増えたため、かなり目立つようになっています。また、文系の「情報(学際)」と理系の「通信・情報」を分けて分析されているので、理系の情報系の括りで本学が選ばれるようになったのではないかなと思います。
とはいえ、もともと県外の大学との併願は滑り止めとして選ばれているところがあるので、必ずしも全国区になったわけではない、と推測しています。


後期日程で入学した学生の方の情報系の成績は、前期日程入学者に比べて高い

ここからは、入学後の学生の成績について詳しくお話しします。
前期日程は定員130名で、個別試験は数学を課しています。後期日程は定員35名、先ほどから申し上げているように、個別試験は「情報」です。この2つの日程の入学者の間で、1年次開設科目の「数学系」と「情報系」の成績に有意差があるかについて、GPAの分布を分析しました。

結論から言うと、情報系科目の成績は、後期日程で入学した学生の成績の方が、前期に比べて有意に高くなりました。前期入学者の成績については、良い人もいれば悪い人もいて、バラつきが大きくなっています。
一方、数学系科目に関しては、前期・後期入学者の間で大きな差は見られないという分布になりました。わずかですが、後期入学者の方が高いという傾向がありました。とはいえ、一般的に後期の方が成績が良い傾向があるので、そのためかと思います。成績の分布は、数学という科目の性質かもしれませんが、正規分布に従っています。


今年度の実質倍率は、昨年の反動でやや低下か?

ここまでが令和7年度、昨年度実施の入試の結果です。今年度の後期日程は、いよいよ3月12日が試験日です。今年度も含めた4年間の後期日程の志願者の状況がこちらのグラフです。オレンジ色のところが志願者の倍率、緑のところが受験者の倍率です。先ほどご紹介したように、実質倍率はずっと高い傾向にありましたが、今回は多少下がるかなと思います。これは、昨年の反動があってやむを得ないところがありますが、理由としては、昨年度は、共通テストの「情報」が比較的易しく高得点者が多い一方で、個別試験で満点を取ったのに合格できない学生がいたことが推測されます。今年の共通テスト「情報」はやや難しくなったようなので、それが実際の出願にどのように影響しているかについては、これから見て行こうと思っています。


情報入試の実施だけでなく、「情報Ⅰ」の演習講座も実施

本学は単に情報入試を実施するだけでなく、情報教育の高大連携を目指して、広島県の教育委員会と連携して、地元の高校生、教員を対象にした「情報Ⅰ」の講座を開催しています。表向きには、「情報Ⅰ」の勉強をお手伝いしますよ、というものですが、中身は共通テスト「情報」を想定した対策講座になっています。具体的には、共通テストの問題や本学が用意した独自の問題を、演習形式でその場で解きながら解説していくという形です。昨年は、夏休みに主に3年生を対象として4日間実施した「パワーアップ講座」と、12月末に主に2年生を対象として午前・午後の2部構成で実施した「ステップアップ講座」を実施しました。参加者数は、のべ509名、15名の高校の先生にも参加していただきました。

受講者の満足度は非常に高く、アンケートでは「すごく勉強になった」「分からなかったことが分かるようになった」といった反応がたくさんありました。また、もしもう一度講座を受けるとしたらどの分野がよいか、ということを聞いたところ、「『コンピュータとプログラミング』のところをしっかり教えてほしい」という回答があり、これは例年どおりですが、次が「情報通信ネットワークとデータの活用」です。これはちょっと意外なのですが、どうやら「データの活用」ではなくて「情報通信ネットワーク」の方のようで、ネットワークの問題を演習で取り上げるとすごく喜んで解いていました。また、「パワーアップ講座」では、内容を工夫して「応用編」というものをやりましたが、これも好評でした。

ちなみに、先ほど紹介したように、本学の個別入試ではプログラミングの問題はノーコードで出題していますが、それをあえて大学入試センターが公表している「共通テスト用プログラム表記」のコードに直して、内容は同じ問題を演習問題としてやってもらったりもしています。


情報入試を通して情報教育の高大接続・連携を図る

ここまで駆け足で本学の情報入試の導入についてご説明しました。1年目の情報入試の導入に関しては、後期日程での「情報が好き・得意な人」の獲得はひとまず成功したと言えます。ただ、ボーダーラインが高くなりすぎて、その反動がちょっと怖いところなので、来週行う後期日程の結果を見たいと思っています。

令和7年度生の入学後の状況についてもご説明しました。後期日程入学生は、明らかに情報系の科目の成績が良く、これに関しても成功ですが、逆に学年の中で差ができている状況も見えるので、工夫が大切です。現時点では、数学と情報系の科目に関しては、修熟度別クラスにすることで対応していますが、今後も工夫が必要であると思います。そして、教科「情報」を通じた高大接続・連携による情報教育の底上げを図っていきたいと思います。

ぜひ多くの大学の皆さんに本学を参考にして、情報入試を導入していただき、情報教育を皆で盛り上げていけたらと思っています。

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