日本栄養大学の「教室ネーミングライツ制度」が問うもの【独自記事】

■「名前を付ける権利」ではなく、「教育を支える関係性」をどのように設計するか

大学のネーミングライツには、教育の公共性と企業名露出の線引きの問題が付帯する。日本栄養大学の教室ネーミングライツ制度は、単なる広告商品ではなく、受配者指定寄付金制度に基づく教育支援として設計されているのが特徴である。
同大学のホームページのネーミングライツ制度の案内(※4)には、冠名は寄付に対する感謝の表明(顕彰)であり、広告掲載やサービス提供などの対価を伴う取引にはあたらないこと、施設の優先的利用権、商品販売機会の提供、大学運営への関与権など寄付に対する特別な権利を付与するものではないこと、大学の教育研究活動、教育課程、人事等の意思決定について、寄付企業・団体が関与することはないことが明記されている。事業募集の案内でこれらの点を明示しているのは、珍しい事例である。
 ※4日本栄養大学教室ネーミングライツ制度のご案内

■ネーミングライツ制度への期待と課題

ネーミングライツ制度の大学側の利点としては、第一に教育環境整備の自主財源を確保できることがある。教室、実習室、ラーニングコモンズ、図書館、学生支援など恒常的に更新が必要な施設や制度のための費用が、この制度によって確保できることになる。
第二に、企業・団体との継続的な関係性を維持できる。単発の寄付ではなく、5年程度の支援期間を設定することで、大学と企業の接点が広がり、採用や共同研究、地域連携、社会人教育などに展開する余地もある
第三に、大学の教育理念を社会に伝える装置になり得る。日本栄養大学の場合、「食を通して疾病を予防し、人々の健康を保持・増進することに貢献できる専門家を養成する」という教育理念と、支援企業の食に関する社会貢献活動が明確に結び付けられている。

一方で、企業との関係にはリスクも孕む。学生が日常的に使う施設に企業名が入るため、「教育空間の商業化」と受け止められる可能性がある。また、企業選定の透明性も課題になる。大学の理念や教育内容と合わない企業・商品名が入ってしまうと、かえって大学ブランドを傷つけることになりかねない。
さらにデリケートな問題になるのが、先に述べた「寄付と対価性の線引き」である。日本栄養大学が寄付に対する顕彰に関して、「広告・宣伝目的ではない」「特別な権利は付与しない」「教育機関としての独立性を維持する」と明記しているのは、このリスク回避を意識した設計となっていることがうかがわれる。
このように、ネーミングライツは、丁寧に設計すれば大学の教育理念に共感する企業・団体を巻き込んだ、開かれた寄付文化の入り口になり得るのである。



■大学改革の次の論点は、「支えられ方」の改革

これまでの大学改革は、学部・学科改組や定員管理、DX、地域連携などが主流であった。しかし、これらを実現するには財源が必要であり、その意味では、「財源改革なくして教育改革なし」とも言えるものである。しかし、少子化の時代の大学改革は、先に挙げた教育内容や組織改革だけでは完結しない。教育・研究を支える資金を、誰が、どのような理念で、どのように負担するのか、という設計もまた改革の重要な一部となる。
香川学長は、質疑応答の中で「教室ネーミングライツ制度は、大学は寄付を得られ、企業は広告になり、学生は企業を知るという『誰も不幸にならない』仕組みである」と述べた。日本栄養大学のこの取り組みは、大学が社会から支援される仕組みをどのように作っていくかを考える試金石として注目される。

インタビュー・記事:小松原 潤子(KEIHER Online 編集委員)
編集:三品(KEI大学経営総研 研究員)


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