
情報処理学第88回全国大会レポート「新課程『情報入試』― 2年目の共通テストと広がる個別入試」パネルディスカッション
基礎事項の確認問題が意外にできていない
安田先生:
ここで皆さんに見ていただきたいのが、2026年度の共通テスト「情報Ⅰ」の第1問の問1の問題です。この問題は、漏れ聞くところによると、正答率がかなり低かったようなのですが、高校の現場からご覧になって、この問題はどのように思われたでしょうか。

太田先生:
私もこの問題には「やられたな」と思いました。この問題文に出てくる「主記憶装置」「補助記憶装置」の詳しい働きに関する記載は、ほとんどの教科書に出てきません。そのため、おそらく多くの教員は、単に「主記憶装置は、電源を切ったらメモリが消えるよ」というところまでしか教えておらず、「それはなぜか」というところまで深めていなかったのではないかと思います。
では、それを授業で教えないといけないのかと言えば、私はそうではないと思います。教員は「なぜ」という疑問の種を蒔いてあげて、あとは生徒が生成AIに聞いたり、自分で調べたりすればよいのではないかと思います。そのためには、授業の中で「これって何なんだろう」と疑問を持ったことについて、皆で話し合ったり調べたりする経験をどれだけ行っているかが大切になってくることになります。つまりは、我々教員に、「こういう授業を目指してほしい」という、大学入試センターからのメッセージだと受け取りました。
安田先生:
ありがとうございます。これは私見ですが、第1問目というのは、基礎的事項の確認のような問題を出す傾向にありますが、その正答率は、概して作題者の予想より低くなります。これは、個別試験を作っている者は、皆が経験することです。
一方で、最近の受験者の傾向を見ていると、トレースする能力や、アルゴリズムを読んで解釈する能力というのは、非常に高く、そこに少しギャップがあるのです。
私が情報系の学部であるから思うのですが、システムがどのような設計になっているか、ということを考えるとき、設計というのは、結局デザインチョイスなのですね。Aというデザインもあるし、Bというデザインもあるけれど、何かの理由でAを採用したのが今のシステムだ、ということ。そういった筋書きを追いながら学習しないと、結局紙の上の話で終わってしまうのです。
ですから、できれば「情報」の授業では、実際のコンピュータシステムがどのように動いているのか、という疑問に対して、「なるほど、だからこうなっているのか」という、デザインチョイスに対する納得感を持ってもらえるような活動を取り入れていただけたら、と思っています。これは私達の学部の授業でも大事なところで、きちんと教えなければいけないと感じています。
情報入試の導入はなぜ難しい?
安田先生:
ここで、会場の皆様から質問をお受けしたいと思います。
公立高校教員:
現場の教員としては、今いろいろな大学が個別入試で「情報」を出題してくれるのは非常に嬉しくて、背中を押されている感じです。ただ一方で、特に国公立大学ではまだ少ないという気がします。個人的な疑問として、学部あるいは学科・専攻に「情報」の名があるところが「情報」の個別入試をやらないのはなぜだろう、と思います。大学にもいろいろ事情はあると思いますが、大学が個別入試で情報を入れることの難しさはどのようなところにあるのか、ということを安田先生にお聞きしたいと思います。
安田先生:
これは非常に個人的な意見ですが、「やりたくない」ということのほぼ全ての理由は、「たいへんだから」ということに尽きると思います。多分、多くの人は、「そのたいへんな作業を誰かが担当してくれるのならやります」と言われると思います。入試の方式には、いろいろな方法があるので、理科の科目などとの選択科目の1つにすれば、大学側の運用面でのたいへんさは、ほぼありません。「情報」を選択してくれた受験生を、学部の方で高く評価するという姿勢を取ればよいだけです。
あとは作問のコスト(手間)の問題と、コストをかけて作成した問題に万が一ミスなどのトラブルがあったら、というリスクの問題です。よって、先ほど広島市立大学さんが紹介してくださったように、「情報入試を行ったら、こんなにいいことがあった」ということをできるだけ発信していくことが大切だと思います。
私が冒頭でご紹介したような、最新・最良の情報入試の効果をできるだけ広報することで、学内外の人たちを巻き込んでいく、というのが、私から提案できることかな、と思っています。
太田先生:
高校の立場から言わせていただけば、共通テストの「情報」の配点を上げるだけでも全く違うと思います。配点が低いと、生徒はどうしても軽く見てしまって、「やってもやらなくても影響は少ないから『情報』は勉強しない」と消極的になる生徒もいます。ここはぜひ検討していただきたいと思います。
安田先生:
先ほど紹介した本学部の「情報プラス型」は、英語100点、数学100点、情報200点なので、「情報が得意な人、来てください」というアピールをしています。太田先生がおっしゃったように、配点が低いと「『情報』が大事と言っても、この大学では実は『情報』の能力って評価してもらえないんだな」と思われてしまいます。配点が高ければ、「情報」が得意な人が集まりますし、配点が高い大学が増えてくれば、皆が「やはり『情報』は大事なんだ」と思うようになります。ぜひ皆さんご協力ください。
[Profile]
安田豊先生:
1988年京都産業大学理学部計算機科学科卒業。京都産業大学計算機センター、
1995〜2002年神戸大学経済経営研究所講師などを経て、現在京都産業大学情報理工学部 准教授。
太田重成先生:
岡山県立岡山操山高等学校情報科教諭。民間企業での勤務経験を経て学校現場へ。
多数の普通科進学校での勤務経験を経て現在に至る。2016年から岡山県高等学校教育研究会情報部会幹事を務める。
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インタビュー・記事:小松原 潤子(KEIHER Online 編集委員)
編集:阿部 千尋(KEI大学経営総研 研究員)


