大学スポーツが育む人間力 ── AI時代における「人間の成長」と大学の役割をめぐる対話篇 Ⅲ

スポーツ・文化・学びを統合するビジョンに向けて

UNIVAS会長 福原紀彦氏 × (聞き手)KEIHER Online 編集主幹 原田広幸


SECTION 7:大学の社会的役割:多様性・進学率・大学像の変容― 「大学は人類の持続可能性を支える装置である」 ―

原田:最近、中等教育の現場で「均質化」が進み、多様な生徒が一緒に学ぶ機会が減っているという話を聞きます。私の妹は、特別支援学校の教員をしているのですが、支援学校の生徒が増えているといいます。その一方で、一般の教室では多様性が十分に担保されにくい現状があるようです。その結果、学生が初めて異なる背景や価値観を持つ他者に出会うのが大学になっているという現実があります。

福原会長:今の日本で、大学が「多様性に初めて出会う場」になっているという現実があるとすれば、大学は、「違いを知り、違いを受け入れ、他者と共に生きる力を育てる場所」としての役割が大きくなっていくはずです。

本来、小中高の段階で多様な他者と交わる経験がもっとあっていいのですが、現代の教育はどうしても画一化・均質化の傾向が強くなっています。

大学の役割が変化してきた理由のひとつに、進学率の上昇があります。進学率が50%を超えると、大学はエリート教育だけではなく、社会の半分以上が学ぶ「ユニバーサル教育機関」になります。60%、70%と上がっていくと、大学は“社会の縮図”そのものになっていきます。つまり、大学の機能は今や「専門家の育成」にとどまりません。

多様な学生を受け入れ、人生の基盤になる価値観を育て、社会に送り出すという、より幅広い役割が求められています。

原田:たしかに、大学という空間では、背景の異なる学生同士が初めて出会い、協力したり、対立したりしながら成長していく部分がありますよね。学生が多様性を体験し、社会に出る準備を整えるうえで、大学の存在はますます欠かせないと感じます。

福原会長:私はよく、大学を「人類の持続可能性を支える存在」だと表現しています。

大学は、科学技術を担う研究者を育てるだけではありません。スポーツ、文化・芸術、ボランティア──多様な領域で未来の社会を支える人材を育成し、同時に文化をつくり、価値観を育て、地域を支える役割も持っています。そして、大学には、これらすべてを支えるための「持続可能な基盤」が必要です。

ところが日本の場合、大学の規模が小さすぎるところが多いんですね。300〜400人規模の大学も数多く存在していて、教育や研究に必要なリソースが十分に確保できない状況があります。また、財源についても、授業料と補助金に依存しすぎている大学が多く、スポーツや文化に投資したくてもできないケースが非常に多い。

大学はもっと外部からの寄付や自主財源を確保し、経営体力をつけていく必要があります。

原田:大学の社会的役割が大きくなっているのに、財源や規模の問題が足かせになってしまっているのですね。こうした問題を放置すると、学生の経験の質が低下してしまい、大学の魅力が損なわれる恐れもあります。

福原会長:本来、大学は学生が多様な価値観に触れ、人間力を育て、社会に出る準備をする場です。そして、その過程を豊かにするためには、スポーツや文化活動が欠かせないのです。

その意味で UNIVAS は、スポーツを軸に大学間のリソースを共有し、教育の豊かさを守る取り組みを支える存在になれると考えています。大学が単独では難しい部分を、みんなで補い合う仕組みをつくる──これが、次の時代の大学に必要な姿だと思っています。

SECTION 8:大学規模・財源・連帯:持続可能な大学経営の方向性

福原会長:大学の話をするときに、やはり避けて通れないのが「規模と財源」の問題なんです。

日本には、学生数が 300〜400 名ほどの大学が数多く存在しており、その規模だと教育・研究・スポーツ環境を十分に整えるのはどうしても難しいのが現実です。大学というのは、本来、学生が自由に学び、友人と語り合い、文化・スポーツに触れながら人間性を育てる場です。そのためには、図書館や実習施設、運動施設など、豊かな空間があることが非常に大切なんですね。

ところが、日本の場合、大学の規模が小さすぎたり、財源が限られていたりして、そうした空間を十分に維持できない大学が増えてきています。

原田:たしかに、大学は単に講義を受けるだけの場所ではなく、キャンパスという空間の豊かさが学生生活の質に直結しますよね。規模や財源の課題がそのまま大学の魅力の低下につながってしまうのであれば、早急に取り組む必要がありますね。

福原会長:そうです。繰り返しになりますが、これからの大学は、もはや一つの大学ですべてを賄うという時代ではなくなっています。むしろ、地域や複数大学で リソースを共有する仕組み をつくることで、大学が持つ潜在力を発揮できるようになるはずです。

私は、私学や国立大学など多くの大学を支援してきた経験から、「大学というのは、単独ではなく“連合体”として機能していくべきだ」と強く感じるようになりました。こうした連携を土台に、施設の共同利用や教育プログラムの共通化など、連携の幅を広げていくことが可能になります。

加えて、大学経営を考えるときにもうひとつ重要なのが、財源の多様化です。日本では、授業料と国の補助金に依存しがちですが、それだけでは教育環境を維持・発展させるのが難しくなっています。

アメリカの大学では、寄付や基金運用、スポーツ収益、地域連携など、多様な財源を確保して大学経営を支えていますよね。日本の大学も、その方向に少しずつ舵を切り始めていますが、まだ十分とは言えません。

大学が持続可能であるためには、企業との連携、自治体との協働、寄付・基金の拡充、スポーツ・文化による価値創出、といった、さまざまな仕組みづくりが必要になってきます。

スポーツは、大学の魅力を外に発信し、地域や企業との接点を生み出す非常に強い“媒体”になります。これを上手に活用することで、大学の財源基盤を強化する道も開けてくるのです。

原田:大学の持続可能性という観点から見ると、スポーツが大学の財源や地域・企業との連携を広げる役割を果たし得るというのは、とても興味深いですね。単なる競技や教育活動という枠を超えて、大学経営そのものにも良い影響をもたらす可能性があるということですよね。

福原会長:まさに UNIVAS は、こうした「大学の持続可能性をどう支えるか」という観点からも大きな役割を担っていると思っています。大学が自力で補えない部分を、スポーツを介して大学同士がつながり、外部ともつながりながら補い合う仕組みをつくる。その動きを全国的に後押しするのが UNIVAS です。

大学が厳しい時代に入っていくなかで、“一人ではできないことを、みんなでやる”という姿勢がますます重要になります。スポーツは、その原動力になる力を持っています。大学の未来を考えるとき、「スポーツ」と「連帯」は大きなキーワードになってくると思います。

SECTION 9:文化を創るものとしての大学:スポーツ・音楽・卒業生・地域

福原会長:大学というのは、単に学問を学ぶ場ではなく、多様な文化が交差する空間なんです。スポーツや音楽の活動は、その象徴だと思っています。

私は最近、出身大学のジャズバンド「スイング・クリスタル・オーケストラ」のコンサートに行ったのですが、そこでは現役の学生たちと卒業生たち、そしてOB・OGバンドまでが同じステージに立つんですよ。

演奏そのものも素晴らしいのですが、それ以上に “世代を超えてつながる一体感” があって、大学ならではの文化だと強く感じました。そういう光景を見ると、大学という場所がどれだけ豊かな「人生の交差点」になっているかが分かるんです。

原田:音楽の場面でも、スポーツの場面でも、学生同士や卒業生、地域の方まで巻き込むような広がりがありますよね。単に学ぶだけではなく、文化が共有されていく実感があって、それが大学の魅力をつくっている気がします。

福原会長:そうなんです。大学の魅力というのは、偏差値やランキングのような“数値”だけでは測れません。それよりも、誰と出会い、どんな時間を過ごし、どんな経験を積むか、という質の部分が非常に大きいのです。

スポーツの応援に行けば、OBや地域の人たちが自然に学生を励まし、学生もその応援に応えようとする。音楽の演奏会では、学生同士はもちろん、卒業生や家族、友人までもが温かい拍手を送り合う。こういう場に流れる“空気”は、大学という存在の本質に触れている気がします。

大学の文化は、授業や講義だけでは育ちません。キャンパスの空間、地域とのつながり、仲間との時間が合わさって初めて生まれるものです。

私は、大学がコロナで閉じざるを得なくなった時期に、改めてこの “大学文化の価値” に気づかされました。あのとき、私たちは大学の門を閉めるという経験をしました。学生がキャンパスに来られない。サークル活動もできない。友人とも会えない。これは、大学の本質を根本から奪う出来事でした。

オンライン授業は確かに便利ではありましたが、大学体験の半分以上は“空間の共有”だと私は感じています。学生と談笑したり、ゼミの後に飲みに行ったり、一緒に声を出して応援したり──と。そういう時間こそが、大学を大学たらしめているものなのです。

原田:大学にとっての「場」がどれほど重要だったかは、コロナの時期に痛感しましたね。あの経験があったからこそ、大学という場、大学という文化の大切さがより明確になったのかもしれません。

福原会長:だからこそ、UNIVASとしては、大学スポーツの価値だけでなく、大学という場が持つ文化的豊かさも世の中に伝えていきたいと思っています。

スポーツは大学文化の“入口”になりますし、映像やイベントを通じて、大学の魅力を外の世界に伝える力があります。これは、大学が地域とつながるうえでも、学生募集のうえでも、そして大学の誇りを維持するうえでも大切です。

私は、大学スポーツを“競技”としてだけではなく、大学文化を象徴する存在として発信していきたいのです。

今日の対談を通じて改めて思うのは、大学の価値は“学ぶこと”だけでなくそこで過ごす時間、人とのつながり、文化の継承によって形づくられるということです。スポーツも音楽も、学生生活に彩りを与えるだけでなく、人生の根本を支える“心の資産”になります。

(対談おわり)

日本私立学校振興・共済事業団 本部オフィスにて 


UNIVAS 一般社団法人 大学スポーツ協会  会長 福原紀彦 氏:
1954年滋賀県生まれ。弁護士・法学者(専門は商法)。中央大学法学部教授、法務研究科教授・中央大学大学院法務研究科長、学校法人中央大学理事を経て、中央大学学長・学校法人中央大学理事・中央大学総長を歴任。中央大学硬式野球部長、東都大学野球連盟理事長。その他、官公庁・自治体の各種審議会等の会長・委員、企業等の取締役・理事職としても活躍し、現在、日本私立学校振興・共済事業団理事長。

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