
関西国際大学・濱名篤学長インタビュー 「偏差値」から「教育の質」へのパラダイムシフト
4.IRの真髄――“点”ではなく“線”で学生を追う
――高い実績と学生の成長実感を生み出す裏側には、貴学独自の「教育システム」があると思います。その核となるのがIR(インスティチューショナル・リサーチ)ですね。
濱名: 本学のIRは、間違いなく日本の大学でトップクラスの水準にあると自負しています。他大学のIRと決定的に違うのは、データを「点(スナップショット)」ではなく「線(パネルデータ)」で見ていることです。
多くの大学の授業評価アンケートは匿名ですよね。それでは「全体として良かった・悪かった」という平均値しか分からない。我々は、学生一人ひとりのIDに紐付いた状態で、学内の様々なデータを、パネルデータとして蓄積しています。
――個人の特定まで行うのは、プライバシーの観点も含めて運用が難しいのではないでしょうか?
濱名: もちろんです。しかし、それを乗り越えてでもやる価値がある。我々の分析では、例えば「第1学期の成績」や「初期の出席率」が、その後の退学率と強い相関があることが分かっています。パネルデータがあれば、「この学生は日本語力が少し不足しているから、入学直後の半年間は集中的に日本語科目を履修させよう」とか、「この学生は出席が乱れ始めたから、すぐにアドバイザー教員が面談しよう」といった、早期介入が可能になります。
データを単なる「報告書」で終わらせるのではなく、一人ひとりの学生の状況に応じた支援に活用していく。これこそが、我々のIRの本質です。文科省のポジティブリストで高い評価を得たのも、こうしたデータに基づいたPDCAサイクルを、教員個人の勘に頼らず、組織として回し続けてきた結果と言えるでしょう。
5.学びの可視化とラーニング・コミュニティ
――そうしたデータを活用しつつ、実際の授業ではどのような工夫をされているのでしょうか。
濱名: 特徴的なものがあります。たとえば、米国の事例をモデルにした「ラーニング・コミュニティ(LC)」の導入です。これは、4〜5人の学生でチームを組み、複数の科目を共同で履修し、学び合う仕組みです。 ここで重要なのは、学生同士の仲良しグループで作らせるのではなく、大学側が意図的にメンバーを指定する「指名制」であることです。あえて国籍も学科も性格も違う学生を混ぜる。
もちろん、最初は言葉の壁や文化の違いから衝突が起こる場合もある。 しかし、それこそが重要です。現実の社会に出れば、気の合う仲間とだけ仕事をするなんて不可能ですから。異文化の他者とどう協働するか、その葛藤を経験させることが「3つのC」を育てる最高の教材になります。
――その学びの成果を、学生自身はどのように自覚するのですか。
濱名: そこで重要になるのが「評価」のあり方です。我々は「評価と実践」という必修科目を設けています。これは1・2年次で1単位、3・4年次で1単位という変則的な構成で、4年間かけて「自分の成長を評価・記録する方法」を学びます。 半年に一度、大学が定めた「KUISs学修ベンチマーク」に基づいて自己評価を行い、その根拠となるレポートや成果物をポートフォリオに蓄積していく。これを繰り返すことで、学生は「評価される客体」から、「自らの成長を客観的に語れる主体」へと変容していきます。
動画:関西国際大学が誇る「KUISs型 学びのしくみ」
卒業時には、その集大成として「KUISs学びのショーケース」というA4一枚の証明書を手渡します。ここにはGPAや6つの能力のレーダーチャートだけでなく、4年間で最も力を入れた活動の具体的なエビデンスが記載されています。
これを持って就職面接に行けば、学生は「私は頑張りました」という抽象的なアピールではなく、「私は4年間でこういう課題に取り組み、これだけの能力を伸ばしました」と証拠付きでプレゼンできる。これが企業の人事担当者にどれほど響くか、想像に難くないでしょう。
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