
関西国際大学・濱名篤学長インタビュー 「偏差値」から「教育の質」へのパラダイムシフト
2.「過去は変えられないが、未来は変えられる」――法人合併の思想的統合
――貴学は1998年の開学以来、常に変革を続けてこられましたが、2020年の神戸山手学園との法人合併は大きな転換点だったのではないでしょうか。歴史も文化も異なる組織を統合するのは、並大抵のことではありません。
濱名: おっしゃる通りです。合併交渉の際、私学関係者の多くは、歴史も伝統も異なる両学園の統合など「絶対に無理だ」「水と油だ」と冷ややかな目で見ている方も少なからずいらっしゃったはずです。これは無理もありません。というのも、一方は「自学自習」「情操陶冶」を掲げる学園、もう一方は「以愛為園」を建学の精神とする我々。どちらも素晴らしい精神ですが、そのままぶつければ必ず感情的な対立が生まれます。
18歳人口が減り続ける中で、収容定員2,000人規模のままでは大学としてのサステナビリティを確保できないという、冷徹な経営判断もありました。教育の質を保証し続けるためには、最低でも3,000人規模への拡大が不可欠だったのです。
――その困難な統合を、どのように成し遂げられたのでしょうか。
濱名: ここで掲げたのが、「過去は変えられないが、未来は変えられる」というロジックでした。
それぞれの法人が歩んできた歴史や建学の精神は、尊いが、変えることのできない「過去」です。それを否定することはできないし、必要でもない。また、どちらかに優劣をつける必要もない。他方、我々がこれから向き合うのは「未来」の学生たちであり、激変するグローバル社会です。
そこで、両法人の建学の精神を包摂する上位概念を掲げることにしました。それが、「濱名山手教育ミッション」です。グローバル社会で主体的・能動的に活躍できる人間を育てるために、「3つのC」― Communication(情報収集・意見調整・発信)、Consideration(熟慮・思いやり)、Commitment(参画・貢献)――を行動指針としてあらたに定義したのです。
| 【教育ミッション:3つのC】 Communication(情報収集・意見調整・発信): 多様性理解とコミュニケーション力 Consideration(熟慮・考察・思いやり): 問題発見・解決力と専門的知能・技能の活用力 Commitment(参画・貢献): 自律性と社会的貢献性 |
――そして、これら「3つのC」は、単なるスローガンではなく、教育の現場に落とし込まれているのですよね。
濱名: ええ。例えば「Communication」なら、単に英語が話せるだけでなく、多様な背景を持つ人々と理解し合う力。「Consideration」なら、問題を発見し解決策を熟慮する力。これらを具体的な「KUISs学修ベンチマーク(6つの力)」と紐付けることで、教職員の中に共通言語を作りました。
「昔はこうだった」という後ろ向きな議論ではなく、「未来の学生にどんな力をつけさせるか」という前向きな議論にベクトルを合わせる。この“ミッションの統合”があったからこそ、「グローバル学部」新設という攻めの展開が可能になったのです。
3.「ユニバーサル・グローバル」という戦略:出口までを設計する
――2025年に新設されたグローバル学部は、今や貴学の象徴的な存在です。しかし当初の計画以上に留学生が増えたと伺いました。
濱名: 実は、グローバル学部を作った当初の想定では、入学生の3割を留学生にする目標でした。ところが蓋を開けてみれば、4割を超えていた。これは正直、想定外の展開でした。 多くの大学なら、ここで「留学生が増えすぎて日本人が来なくなる」「教育の質が維持できない」とパニックになり、抑制にかかるかもしれません。しかし、私は1年前に「腹をくくった」んです。これはピンチではなく、日本社会の未来を先取りする「勝機」だと考えました。
――「勝機」とは、具体的にどういうことでしょうか。
濱名: 今、日本の多くの私立大学が留学生を受け入れていますが、その多くは、日本人学生が集まらないからその穴埋めのために、という消極的な理由です。しかし、我々の見方は全く逆です。 今春にはキャンパスの全入学生の約25%が留学生になりますが、これだけの多様性がある環境は、日本人学生にとっても、日本にいながらにして、毎日が「異文化理解の実践場」になる。これからの多文化共生社会を生きていく上で最高の教育環境ではありませんか。
先行的なモデルとして考えられる、ICU(国際基督教大学)やAPU(立命館アジア太平洋大学)は、もちろん素晴らしい国際型教育システムをお持ちです。これらの大学がいわば「エリート・グローバル」だとすれば、我々が目指すのは「ユニバーサル・グローバル」です。一部のエリート層だけでなく、アジアの様々な国から来た学生と、地元の日本人学生が混ざり合い、泥臭くぶつかり合いながら共生していく。このリアリティこそが、これからの日本社会を支える力になると確信しています。それを学ぶ場がここにあるのです。
――しかし、留学生の受け入れには「出口(就職)」の課題がつきまといます。
濱名: いえ、そこは我々の課題ではなく、最大の強みなのです。多くの大学は「入り口(募集)」には熱心ですが、「出口(就職・定着)」まで一貫した体制をとられていないところもあります。しかし、我々は徹底してここに力を入れ、2024年春の卒業生(留学生)のビザ取得率は75%まで進展させました。その内訳は就労ビザが67%、大学院進学等が7%です。全国平均が5割程度と言われる中で、これは驚異的な数字です。
我々はこの実績を、全国の日本語学校に「謎解き」として丁寧に説明して回っています。「なぜ関西国際大学なら、これほど就職も含めビザ取得できるのか」。そのエビデンスを示すことで、日本語学校の先生方から信頼をいただけるようになりました。「あそこなら任せられる」と。その結果、一部の学部では留学生特別入試の倍率が10倍に跳ね上がっています。 入試倍率が上がれば、より優秀で意欲的な留学生を選抜できる。優秀な留学生が入れば、日本人学生も刺激を受け、大学全体のレベルが上がる。この「正のサイクル」が回り始めているのです。
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