関西国際大学・濱名篤学長インタビュー 「偏差値」から「教育の質」へのパラダイムシフト

6.大学入試は「選抜の時代」から「マッチングの時代」へ

――話題を少し広げて、日本の教育全体について伺いたいと思います。現在、私立大学の入学者の6割以上が推薦・総合型選抜(年内入試)で決まる時代になりました。この現状をどうご覧になっていますか。

濱名: 私立大学では一般入試で入ってくる学生が少数派になった今、知識の暗記量を競う「選抜」や「偏差値」にこだわり続けるのは、もはや時代錯誤だと言わざるを得ません。今はもう「選抜の時代」ではなく、「マッチングの時代」なのです。

AIが登場し、知識の検索や要約が瞬時にできるようになった今、求められているのは「何を知っているか」(知識量)ではありません。それよりもずっと重要なのは、その学生が「何がしたいか」「なぜ学びたいか」という動機(モチベーション)です。 我々のデータを見ても、一般入試で入ってきた学生より、総合型選抜で「この大学でこれを学びたい」という明確な意思を持って入ってきた学生の方が、入学後の伸びしろが圧倒的に大きいことがわかっています。大学入試の役割は、学生をふるい落とすことではなく、学生の好奇心や意欲と、大学の教育プログラムを適切に接続させることに大きく舵を切らなければなりません。

――しかし、世間一般や企業の採用現場の認識は異なります。いまだに「学歴フィルター」があったり、根強い「地頭(じあたま)」信仰があったりすることも事実です。

濱名: 残念ながら、一部の政策担当者や企業の採用担当者の時計の針は、50年前で止まっているようにも見えます。言葉の実体は、多くの場合、かつての受験戦争を勝ち抜いた(あるいはそれ相当の学力がある)という、「過去の栄光」を投影したものに過ぎません。

例えば、企業の合同説明会などに行くと、ある有名国立大学のブースには人事担当者が行列を作ります。しかし、その大学の卒業生が県内に就職する率はわずか8%程度です。一方で、我々のような私立大学は多くの学生が地域で就職し、地域経済を支えているのです。

企業は「偏差値」という安心材料にすがるのではなく、学生が大学で「何に取り組み、どう成長したか」という中身を見るべきです。企業を支えているものは、本当は何なのかという実態を見るべきなのです。そのためにも、我々は、ポートフォリオやポジティブリストといった「新しいモノサシ」になりうるものを社会に提示し続けていきたいと考えています。

――学生や保護者は、大学の「就職率」という指標を気にするようになりましたが。

濱名: 誰でも就職できる時代、「就職率が高い」にはあまり大きな意味はありません。問われるべきはキャリアの質、学びの質、です。学生が自分のライフプランに合った選択ができているか。社会の課題を自らの問題として捉える力を持っているか。文科省が10兆円ファンドで研究大学に「選択と集中」を行うのは国家戦略として理解できます。しかし、私学助成全体で2,900億円しかない中で、地域を支え、学生を現実に伸ばしている中小私大を切り捨てるようなことがあれば、それは地域の、ひいては日本の衰退に直結してしまうと思います。

――偏差値や就職率ではなく、学生の実質的な成長実感こそが指針になるべきだと。

濱名: ポジティブリストが暴き出したのは、一部の「有名大学」が教育の努力を怠ってきた事実と、無名でも「教育の実力」を磨いてきた大学の底力です。私はこれからも、偏差値ビジネスに宣戦布告し続けます。大学が提供すべきは、一生モノの「経験」と、自らの人生を切り拓く「確かな成長」なのです。


7.スープの冷める距離での大学連携――大学は「共同体」で生き残る

――中小規模の大学が単独で生き残るのが難しい時代となりました。学長は「大学間連携」の新しい形も提唱されていますね。

濱名: 私は以前から「スープの冷める距離」での連携を提唱し、実践を始めています。「スープの冷める距離」とは、少し遠い距離にある大学同士の連携のことですが、その真意はこうです。

「スープの冷めない距離」つまり、隣り合わせの近隣の大学同士では、どうしても学生募集におけるライバル関係になります。それでは腹を割って教育のノウハウを共有したり、失敗事例を話したりすることはできません。 しかし、新幹線や飛行機で行くような遠隔地の大学であれば、競合関係になりにくい。互いに手の内を見せ合い、学び合うことができると考えたのです。

この考えに基づいて設立したのが、「一般社団法人 学修評価・教育開発協議会」(http://www.jheds.or.jp/)です。北海道から九州まで、志を同じくする大学が集まり、共通のルーブリック(評価基準)を開発したり、学生を相互に派遣する国内留学制度を作ったりしています。

――そういった連携で、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。

濱名: 最大のメリットは「相対化」です。自大学のデータだけを見ていても、それが良いのか悪いのか分からない。他大学のデータと比較することで初めて、自学の強みや課題が客観的に見えてきます。 また、教職員研修(PD)も合同で行うことで、コストを下げつつ質を高めることができます。これからは一大学ですべてを完結させる「自前主義」の時代ではありません。リソースを持ち寄り、戦略的に連携する「共同体」として生き残りを図るべきです。

――素晴らしい取り組みだと思います。ただ、さまざまな良いシステムや制度が出来上がっても、それを動かす教職員の意識が変わらなければ意味がありません。貴学ではどのように組織の意識改革を進めているのですか。

濱名: 本学のPD(教職員研修)です。年に3回、合計5日間にわたって全学的な研修を行います。朝から夕方まで、IRデータを徹底的に読み解き、次学期の授業計画やラーニング・コミュニティの構成について激論を交わします。 最大の特徴は、このPDに「学生」も参加することです。

――学生が教員の研修に参加するのですか?

濱名: ええ。学生たちは、普段教室で見ている先生たちが、自分たちの学びを良くするために熱心に議論している姿を見て、衝撃を受けます。「先生たちはここまで真剣に考えてくれていたのか」と。 一方で教員も、学生から「その教え方では響きません」「もっとこうしてほしい」という生々しいフィードバックを受けることで、授業の改善に役立てる。この「ベクトル合わせ」のプロセスこそが、組織的な教育力を高めるエンジンなのです。

私自身、今でも全学必修の基盤教育科目の3分の1を自ら担当し、1年生全員を教えています。もちろんレポートにもすべて目を通します。学生の生の変化を肌で感じていなければ、学長として正しい舵取りなどできませんから。「授業をやめる時は、学長をやめる時だ」と思っています。

(次ページへ続く)

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