なぜ今、大学スポーツなのか? ── AI時代における「人間の成長」と大学の役割をめぐる対話篇 Ⅰ

UNIVAS会長・福原紀彦氏が語る「共同体としての大学」への転換点 

UNIVAS会長 福原紀彦氏 × (聞き手)KEIHER Online 編集主幹 原田広幸

少子化による「大学全入時代」の到来、そして生成AIが知識の伝達を代替するパラダイムシフト。今、日本の大学は、いま歴史上の構造的転換点に到達している。18歳人口が急減する中で、大学、とりわけ中小の私立大学は存亡を賭けた再編の渦中にあり、都市部の名門校であっても「大学の付加価値」を再定義できなければ淘汰される未来が現実味を帯びている。

こうした状況下、これまで「課外活動」として大学経営・大学教育の「傍流」ともみなされてきた「大学スポーツ」が、実は大学での学びの魅力を支え、大学経営の持続可能性を担保するものとしてとらえなおす機運が高まっている。

 本対談では、日本の大学スポーツにおける横断的なプラットフォームとして、その価値を社会へ繋ぐ役割を担う一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)の福原紀彦会長を迎え、大学におけるスポーツの教育的・経営的な価値を再定義することを目的として行われた。

 聞き手は、KEI大学経営総研主任研究員でKEIHER Online編集主幹の原田広幸。大学の新しい価値と大学間連携を模索する立場から、福原会長へのインタビューを担当した。大学スポーツを核とした新たなモデルへの転換と、その教育的価値を議論する。


SECTION 1:UNIVASと大学支援の新局面

原田:大学というのは教育、研究のほか、学生の多様な活動と経験が期待される場所ですね。また、大学の地域の連携、大学間の連携も、さまざまな理由から求められるようになってきています。その観点からすると、スポーツを核にして大学同士がつながり、協働していくことが、これからは、ますます重要になるだろうと感じます。特に、少子化の影響を深刻に受けている地方の大学にとっては、連携・連帯は大きなテーマになりますね。

福原会長:本当にそう思います。かつては大学がそれぞれ単独で競争してきましたが、今はもう、「一校だけではできないこと」が増えている時代です。特に地方の私立大学は、単独で十分な教育・スポーツ環境を整備するのが難しくなっています。人口減少の影響で、どの大学も学生募集が厳しくなる中、大学同士がどう連携し、リソースを共有するかがこれからの鍵になります。

UNIVASは、そうした連携を進めるための“受け皿”としての役割を期待されていると感じています。単に大会運営や安全基準をつくるだけでなく、大学スポーツを基点に、大学同士が協働するプラットフォームを作るのが使命だと思っています。

もともとスポーツは、大学間の関係づくりにとても適した領域なんです。リーグ戦や合同の競技運営という形で、自然に大学同士のネットワークができますし、そのネットワークは学生支援や安全確保、地域連携といった面にも波及します。こうした「横のつながり」を作るのは、一つの大学だけでは難しいところです。

少子化の時代ですから、とくに小さな大学では、単独で学生を集め、単独で競技環境を整備し、単独で安全対策の課題まで抱えるのは、現実的ではなくなってきています。

こういう時代だからこそ、UNIVASが「共同体としての大学スポーツ」を支える存在になれるのではないかと考えています。大学スポーツは、単に競技の場というだけでなく、大学間連携の実践の場でもあります。スポーツを通して、大学が持つ強みや課題が共有され、教職員同士のつながりも生まれる。こうした“協働の文化”を、UNIVASが広げていきたいという思いがあります。

 SECTION 2:大学スポーツが育む大学間の連帯とその価値

福原会長:大学スポーツというのは、単なる競技の枠を超えて、大学同士の関係をつくってきた非常に大きな存在です。

これまで大学は、学生募集でも教育内容でも、基本的には“競争”を前提にしていました。しかし、スポーツの領域だけは、競争しながらもリーグ戦や大会を通じて自然な横の連携が生まれる仕組みになっています。

たとえば、リーグに所属している大学同士は、競い合いながらも、運営面では協力関係を築きます。競技連盟の中で顔を合わせ、課題を共有し、安全対策や運営改善も一緒に進めます。こうした「競争しながら、同時に協働する」という関係をつくれるのは、大学スポーツならではの特徴なんですね。

スポーツを入口にした大学間連携は、これからますます価値を持つようになるはずです。

原田:たしかに、スポーツには自然に人をつなぐ力がありますよね。私自身、大学時代の課外活動は、音楽が中心でしたが、スポーツの大会や応援行事などでも、大学を超えた交流が生まれる場面をたくさん見てきました。

とくに、今のように大学が厳しい環境のなかにあると、大学同士が支え合うネットワークをどのように作っていくのかという方法論が重要になります。スポーツはネットワーク形成の「接点」、あるいは端緒として機能する領域だと感じます。

福原会長:おっしゃる通りです。大学スポーツを通じて、大学は“自分たちのことだけを考える”のではなく、地域全体をどう良くしていくかという視点を持つことができます。

たとえば、ある地域に大学スポーツの推進基盤を作ろうと思ったら、その地域の複数の大学が自然とテーブルにつくことになります。スポーツを通じて地域の大学がお互いを知り、協力する体制が生まれる。

これは教務や入試だけを軸にした連携よりも、はるかに柔らかく、関係を築きやすいんです。大学が“孤立した組織”ではなく、“地域とともに動く存在”へと変わっていく。その一歩を後押しできるのが、大学スポーツの力だと思います。

そして、大学スポーツの連携は、単なる人間関係の構築だけにとどまりません。大会運営、安全基準づくり、学生の健康管理、就職支援、競技環境の整備──こうしたものは、どれも“一校だけ”でやるには負担が大きいものばかりです。

しかし、複数の大学が連携すれば、ノウハウや費用を共有でき、結果として学生にとってより良い環境が整います。これはまさに、大学スポーツの「共同体としての価値」だと言えるでしょう。

こういった連携を、これから UNIVAS がきちんと整理し、後押しし、広げていくことが大事だと考えています。

SECTION 3:日本の大学スポーツの歴史:独自の発展経路と“日本型モデル”

原田:日本の大学スポーツの歴史を振り返ると、やはり日本特有の発展の仕方をしてきたと思います。その功罪をどう評価されますか。

福原会長:そうですね。たとえば、典型的には「駅伝」をはじめ、大学は、多くの競技で日本のスポーツ界を支えてきました。これは単に大学に選手が集まったからではなく、大学や旧制高等教育機関が「心身を鍛える場」としてスポーツを振興してきたことが背景にあります。

また、オリンピックなどの国際大会においても、大学が多くの人的・施設的な資源を提供してきました。たとえば、私が総長・学長を務めた中央大学は、キャンパス内に複数の競技施設がそろっていたため、「ここだけで近代五種が完結できる」と言われたことがあります。こういう事例は、大学がこれまで日本のスポーツ界をどれだけ支えてきたかを物語っています。

他方、日本の大学スポーツは“学連主導”という独特の文化で育ってきた側面があります。アメリカのように大学側が主導する“NCAA”(全米体育協会)型ではなく、競技連盟(学連)が主導してきたという点です。

アメリカでは NCAA が全競技を統括し、大学側がきちんと管理責任を持ち、収益も大学へ還元される仕組みがあります。しかし、日本では、競技ごとに「上位の競技連盟」があり、その下には「学生連盟(学連)」が存在し、大学の活動は重層構造の中で長く運営されてきました。

そのため、大学スポーツは“大学の教育活動の一部”であるにもかかわらず、OB・OGや学生主体の自主運営に依存する状況が長く続いてきました。ここには正負の両側面があり、各競技連盟による大学スポーツの振興が大きな成果を上げてきた一方、大学としては、学生が大学の名前を背負って試合に出ている以上、本来は大学がしっかり関わるべきなのですが、長年この部分が曖昧なまま来てしまったという課題があります。

原田:日本の大学スポーツが、アメリカのような大学主導ではなく、競技連盟を中心に発達してきたという点はとても興味深いですね。学連の存在がスポーツの活性化につながる面もある一方で、大学側の関与が弱くなってしまう面もあると。この「重層構造」は、スポーツ運営の実務面にも影響が与えていたのでしょうか。

福原会長:そうなんです。まさにそこが日本の大学スポーツの特長でもあり、構造的な課題でもあるとも言えます。いわば、「大学(教育)」「大学設置法人(経営)」「競技連盟(自主組織)」の三者がそれぞれに並立している構造が長く続いてきました。

たしかに、学連は学生スポーツを大切に守り育ててきたという大きな功績があります。一方で、競技の価値から生まれた「果実」、つまり経済的な価値が学生や大学に十分に還元されず、競技連盟やスポンサー側に偏るケースもありました。

大学スポーツは、大学の教育資源の一つであるにもかかわらず、大学に十分にリターンが戻らない。これが、大学がスポーツに投資したくてもできない、という悪循環を生んでしまった部分もあります。

大学としての責任、競技団体の役割、学生の主体性──これらを整理し、大学スポーツが本来持つ教育的価値と大学への還元を両立させる新たな仕組みを作ることが求められています。

(続く)

日本私立学校振興・共済事業団 本部オフィスにて 


UNIVAS 一般社団法人 大学スポーツ協会  会長 福原紀彦 氏:
1954年滋賀県生まれ。弁護士・法学者(専門は商法)。中央大学法学部教授、法務研究科教授・中央大学大学院法務研究科長、学校法人中央大学理事を経て、中央大学学長・学校法人中央大学理事・中央大学総長を歴任。中央大学硬式野球部長、東都大学野球連盟理事長。その他、官公庁・自治体の各種審議会等の会長・委員、企業等の取締役・理事職としても活躍し、現在、日本私立学校振興・共済事業団理事長。

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