
奈良女子大学 高田 将志学長インタビュー[後編] -女子大初の工学部がもたらした新たな風と、社会で輝く「質実剛健」な女性たち-
■ 活断層研究に見る地理学独自のディシプリン
――地理学独自の方法論やディシプリンはあるのでしょうか。統計を用いるといった、他分野と共通するもの以外で教えてください。
立体的に地形を見たとき、それがどういった土地で、どのようにして形成されてきたのかが分かること。私の専門である地形学的視点から述べるならば、こうした「地形を見る能力や思考方法」は一つ、地理学独自の「ツール」として挙げてよいように思います。
「そんなものが独自の方法論なのか?」と思われる方もいるかもしれませんが、このスキルは防災に取り組むうえでも、非常に大きな意味を持つものです。
例えば活断層の調査・研究です。一般的に活断層の研究は、地質学者や地球物理学者が主要な役割を担っていると思われがちですが、実は歴史的に、地形学者がかなり重要な位置を占めてきました。今日見られる全国の活断層図(活断層マップ)には、地形学者の調査結果・研究成果が多く反映されています。
なぜ地形学者が活断層の研究における鍵となるのか。そこには、地下に隠れていて地表に現れていない活断層が多く存在すること、そして、地形学者が「地形を見る専門家」であることが大きく関係しています。
私は若い頃、研究室の仲間に誘われ、いくつかの断層帯の調査に参加していました。そういう断層帯は活断層の可能性が疑われるものでした。
当初、地形学者が地形学的視点から活断層の存在を提言しても、地質学分野の少なからぬ研究者たちはそれを頑なに認めようとしませんでした。「掘削調査もしていないのに、そこに活断層があるとなぜ分かる」、彼らはそうおっしゃったのです。
これには、地質学者と地形学者の研究対象の違いが関係しています。地質学者の主たる研究対象は、いわば土地の「中身」です。彼らには、活断層は地面を掘削し、「中身」を見て初めてその判断が可能となる、という考え方が深く根付いていました。そのため、地面を掘りもせず「ここに活断層がある」と言われても、信用できなかったのです。現在、このような立場をとる地質学者の方はほとんどいませんが、当時はこうした立場の方も少なくありませんでした。
一方、我々地形学者が研究対象としているのは、土地の「見た目」、すなわち地表にあらわれた地面の形そのものです。「地形を見れば分かる」というのが我々の立場であり、実際、その場所が通常の土地形成の理屈から外れる「おかしな地形」であることは明らかでした。
しかし、言い合いをしていても議論は平行線です。そこで、実際に地面を掘削し、確認してみたところ、確かにその地下に活断層は存在したのでした。このような観点から、日本全国で多くの活断層が確認されています。
当然、地下に隠れている活断層は、このエピソードのように疑いのあるところを掘削して調べてしまえば、その有無を確実に判断できます。しかし実際は、さまざまな事情により掘削が困難な場合も少なくありません。そうしたとき、「地形を見る専門家」たる地形学者の存在が重要となるのです。
――地理学独自の方法論がよく分かりました。しかし、地形学者はなぜ地形を見るだけで活断層の有無を判断できるのでしょうか。
我々地形学者は、それぞれの地形がどのようなプロセスを経て形成されるか、その理屈を理解しています。そうすると、眼前の地形に自分の知識と異なる「変な食い違い」があった場合、その異常さにすぐ気が付けるわけです。特に空中写真や衛星画像を用いて空から立体的に地形を見れば、その「異常」はよく分かります。このようにして、これまで多くの活断層が、地形学者により発見されてきました。
時に、「地理に独自のディシプリンは無い」と批判させることもありますが、こうした「地形を見る能力や思考方法」は、地理学独自のディシプリンと言ってよいように私は思います。
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