
阪南大学 経済学部 髙橋 慎二 学部長インタビュー 地域と学生をつなぐ「知の拠点」へ――中小企業の魅力で学生のキャリアと大学の未来を変える
第2章:地域とつながる「知の拠点」としての大学と多様な人材の定着
――中小企業側は、そうした学生との交流にどのようなメリットを感じているのでしょうか。
髙橋:中小企業はオープンファクトリーで仕事を止めて学生を受け入れるわけですから、直接的な売上にはならず、短期的にはマイナスです。 しかし、潜在的にはやはり人材問題の解決、つまり子どもの頃からモノづくりに関心を持ってもらいたいという強い思いがあり、協力してくださいます。
そして今、若い人たち(Z世代)の価値観が大きく変化しています。 かつてのように東京へ出ていくのではなく、「地元で就職し、地元で暮らしたい」という地元志向が強まっています。 さらに、お金への貪欲さよりも、「推し活」や趣味など、自分のプライベートな時間を大切にしたいと考えていることも、この世代の特徴です。
これは中小企業にとって大チャンスです。 大企業はチームやセクションで動くことが多く、急な休みなどの融通が利きにくい面がありますが、他方、中小企業は経営者が従業員の顔と事情を把握しているため、「趣味のイベントがあるなら行ってきなさい」と柔軟に対応してくれる余地があります。 ワークライフバランスやウェルビーイング(幸福な状態)を重視する若者の価値観に、中小企業の柔軟性は非常に合致しているのです。
そこで本学では、学生と中小企業とのマッチングを後押しするため、本学と連携協定を結んでいる大阪府中小企業家同友会の会員企業の経営者の方々と、本学のあべのハルカスキャンパスで勉強会や交流活動(サークル活動)を定期的に実施しています。ここでは、学生と経営者がテーブル討議を行い、「企業・学生が抱える課題」について本音で意見を交わします。また、年に一度、大阪・中之島の大阪市中央公会堂で開催される中小企業の魅力発信イベント「大阪わかそう」にも参画しています。この時の様子はNHKニュースでも紹介され、「上司との関わりが近く、若手の意見も取り入れてくれると聞き、とてもいいなと思いました」と語る学生の姿が放送されました。
若い人たちが中小企業に振り向きつつある今、経営者たちも「今の若者がどんな企業作りを求めているのか」を必死に知ろうとしています。 大学が両者を結びつける器を用意することは極めて重要です。
加えて、高等教育界では「グローカル」という言葉が聞かれるようになって久しいですが、その点において、グローバル化の進む中小企業は、大学にとり非常に重要な接点です。 実はモノづくり企業の中には、すでに東南アジアなどに進出している会社がたくさんあります。 ベトナムなどに製造拠点を持っていたり、現地の若者を日本に呼んで活躍してもらっていたりする企業も多いのです。そのため、大学として無理にグローバル化を掲げなくても、地域の中小企業と深く付き合っていくことで、自ずとアジア進出などのグローバルな課題(ベトナム進出時の問題解決など)を一緒に考える機会が生まれます。 こうした広がりも、地域連携の大きな魅力です。
――人口減少時代において、若者だけでなく多様な人材を定着させるためのポイントは何でしょうか。
髙橋:新卒の若者だけでなく、女性、シニア、外国人労働者の定着も中小企業にとって喫緊の課題です。
例えば女性社員の場合、結婚・出産後の労働時間に制約があるケースが多くあります。 私が調査したある中小企業では、育児中の女性社員向けに「子連れ出社」を認め、事業所内にベビーベッドを設置して、社長自らがおむつ替えを手伝うなど、積極的な支援を行っていました。これにより、女性社員は保育園のお迎えなどで時間に追われることなく、安心して業務に取り組むことができ、結果的に長期にわたって勤め続けてくれる可能性が高まるのです。 こうした制度はSNSで発信することで、「長く働ける職場」としての強力なアピールになります。
またシニア社員の場合、大企業OBなどは高いスキルを持っていますが、過去の栄光から若手社員とぶつかるケースもあります。 面接段階での人物見極めはもちろんですが、年齢の垣根を越えたプロジェクト(新商品開発やビジョン考案など)を発足し、あらゆる年齢層の社員に参加を促すことでお互いの理解を深め、技術承継をスムーズに進めている成功事例もあります。 実際に私がヒアリングした会社では、「新製品開発チーム」を立ち上げ、会長、若手女性社員、パート職員、そして60代後半の嘱託社員を交えてディスカッションを行い、熟練の知見と若い価値観を融合させています。
そして外国人労働者について、彼らは現在、超売り手市場です。 日本とアジア新興国との賃金水準の差が縮まり、優秀な外国人労働者は世界中で奪い合いになっています。 ある企業では、モンゴルの大学と長年関係を築き、インターンシップ生を定期的に受け入れ、経営者のカバン持ちを体験させるなどして理解を深め、採用に結びつけていると言います。 また、留学生が帰国した後も、SNS等を活用し、継続的にコンタクトを取りやすい関係を維持することも、採用戦略として非常に有効です。 「採用」だけでなく「定着」を意識して柔軟に制度を整えることが、結果的に企業規模の大小に関わらず人材争奪戦を勝ち抜くカギとなります。
――専門教育や実践的なスキルのほかに、大学で身につけるべき「教養」についてはどのようにお考えですか。入試改革などを含めた大学のこれからのあり方と併せて教えてください。
髙橋:AI時代だからこそ、人間ならではのアナログな力、いわゆる「就業力」が不可欠です。 読み書きやパソコンスキルはもちろんですが、私は特に「雑談力」が重要だと考えています。
先述の、経営者の方々との「サークル活動」において、学生たちは痛い目を見ます。経営者はいきなり本題に入らず、「野球はどうだ」「オリンピックすごかったな」といった雑談から入ります。ニュースや一般教養に関する知識が十分でない学生は、この会話についていけず、非常に悔しい思いをするのです。そこで初めて「大人と対等に渡り合うためには、自分も教養を磨かなくてはいけない」と身をもって気づきます。
だからこそ、フィールドワークなどの実践の場で「回復可能なレベルの挫折」を何度も経験させることが重要なのです。 社会人とのリアルな交流を定期的に持ち、挫折と気づきを繰り返すことこそが、真の教養教育に繋がると考えています。
加えて、こうした実践的な教育の場を、オープンキャンパスや入試の段階から組み込むことも重要です。 阪南大学では、2024年度から総合型選抜に「課題探究(プレゼン)型」を導入しており、経済学部では、受験生自身が自分の地域の課題を探究し、PowerPointにまとめて試験官とディスカッションする入試を行っています。 将来的には、「大学側でフィールドワークの場を提供し、その体験を踏まえてプレゼンをさせる」ような、育成型の入試プログラムにできるとよいですね。そうすれば、大学とのミスマッチも防げるでしょう。
入学前、つまりオープンキャンパスや入試の段階から高校生と接点を持ち、「うちはこういう教育をして、その先にこんな進路が見えるよ」と示し、味見をしてもらう。 それを入試制度にビルトインさせることが、これからの大学教育の大きな柱になっていくと確信しています。
――最後に、KEIHER Onlineの読者である高校の先生方、保護者、そして大学関係者へメッセージをお願いします。
髙橋:学生はそれぞれ異なる価値観を持っており、また、生きている時代の変化も激しいです。 我々大学人は、その変化を読み取り、先回りして、これまでの教育のあり方に甘んじることなく、果敢に挑戦していく必要があります。 その点、図書館にプレス機を持ち込んで音を立てるような常識破りの工場出張のオープンファクトリーも許容してくれる土壌があるのは、本学の良さです。
さらに、大学は役所など公的機関だけでは抱えきれなくなった地域課題をともに解決していく「新たな次元」にきています。 「教育と研究だけやっていればいい」「学内でどのような研究が行われているか分からない」という閉ざされた大学では生き残れません。今後10年、20年の間に間違いなく、正解がない中でトライアンドエラーを繰り返しながら、真に開かれた大学を目指し挑戦する大学と、そうでない大学、この二極化が進むでしょう。
受験生や保護者の皆様には、実際の学生のようすを見て、新たな教育サービスに挑戦している大学の姿勢をぜひ見極めていただきたいです。 そして地域の皆様にも、大学を敷居が高い存在だと思わず、気軽に「中」へ入ってきていただき、一緒に地域課題の解決に取り組んでいければと強く願っています。
(記事終わり)
髙橋 慎二 学部長 プロフィール:

2004年 東洋大学大学院経済学専攻博士後期課程修了。
大阪経済法科大学大学院経済学研究科、経済学部、経営学部、関西国際大学経営学部教授を経て、2021年より阪南大学経済学部教授。2024年より同学部長、学校法人阪南大学理事。
地域中小企業の存立・発展に向けた課題に関する研究に取り組む。若年者地域連携事業の実施に係る協議会(厚生労働省大阪労働局)委員なども兼任している。
インタビュー:原田広幸(KEI大学経営総研)
編集:山口夏奈(KEI大学経営総研 研究員)・若色千香(KEIHER Online 編集委員)


