オピニオン/研究

複雑・多様化する社会の構造的な課題を提起し、これからの高等教育のあるべき姿などを問い、課題解決の方法を提言していく。

阪南大学 経済学部 髙橋 慎二 学部長インタビュー 地域と学生をつなぐ「知の拠点」へ――中小企業の魅力で学生のキャリアと大学の未来を変える

少子化による大学の淘汰が進み、また大企業への就職偏重が問題視されてきた昨今、大学と地域社会はどのような関係を築くべきだろうか。
我々は今回、阪南大学経済学部長であり、中小企業研究を専門とする髙橋 慎二(たかはし・しんじ)教授にインタビューを実施。
学生の「無知」がもたらす就職のミスマッチを防ぐための授業改革や、地域社会を巻き込む「オープンファクトリー」の取り組み、さらにはZ世代の価値観に寄り添う新しい入試制度や教養教育のあり方まで、多岐にわたり話を聞いた。 加えて、人口減少時代における多様な人材(女性、シニア、外国人)の定着に関する最新の知見も交え、これからの大学が果たすべき「イノベーション・コモンズ(知の拠点)」としての真の役割に深く迫る。

【目次】

第1章:中小企業研究の原点と、学生の「無知」を変える実践的教育
第2章:地域とつながる「知の拠点」としての大学と多様な人材の定着

第1章:中小企業研究の原点と、学生の「無知」を変える実践的教育

髙橋学部長(以下、髙橋):私は東京都の出身で、中小企業の経営者の次男として育ちました。 父は80歳を過ぎたいまも健在ですが、会社(お茶の販売業)は兄が継いで経営しています。

家に帰ればいつでも親がおり、バブル経済の熱狂と崩壊を含めて、商売の難しさや苦労をこの目でしかと見てきました。 そのため、少しでも実家の経営、ひいては世の中の中小企業のお手伝いができたらという強い思いがあり、当初は税理士を目指して会計の道に進もうと考えていたのです。

しかしそこで、当時の指導教官から「相談相手が中小企業になるのだから、中小企業についてもしっかりと理解したほうがいいぞ」と助言を受けます。このことをきっかけに、 中小企業研究をしている先生の研究室の門を叩き、東京の大田区や墨田区、足立区といった下請の中小企業や町工場を歩き回って、経営者たちから直接話を聞くようになりました。

現場を歩いて分かったのは、大企業の陰に隠れて見えづらくなっているものの、中小企業が非常に高い技術力や開発力を持っているということです。 彼らは自動車や家電の部品の大半を担っています。それなのに、最終的に世に出てくるのは大手企業ばかり。縁の下の力持ちとして活躍する中小企業には、なかなか光が当たっていません。

さらに、例えば「八百屋」と一口に言っても経営者の顔が違えばすべての店が違うように、中小企業は非常に「異質多元」で、謎めいた面白い存在です。こうした点に心惹かれ、気がつけば中小企業研究の道へ深く入り込んでいました。

髙橋:当初は、経済小説『下町ロケット』に登場する佃製作所のように、独自の技術力や開発力を持っていれば下請企業も存立していける、という観点で研究をしていました。 帝国重工(『下町ロケット』に登場する架空の大企業)のような巨大企業に対しても、高い技術があれば横綱相撲で勝負できると考えたのです。

しかし、現実の中小企業は日々の与えられた仕事をこなすので精一杯で、研究開発にリソースを割けないという課題がありました。さらに、いざ高い技術を身につけても、そこばかりに集中してしまい、次々と新しい市場が出てきているのを見落としてしまう「イノベーションのジレンマ」、つまり既存事業を強めながら新規事業も開拓する「両利きの経営」が苦手であるという弱点があることも分かってきたのです。

そうした経営資源(ヒト・モノ・カネ)を強めていく方法を考える中で、最終的に私は、「ヒト(人)」がすべての根幹に関わってくるという結論に行き着きました。世界は今後、これまでの30万年の人類史で初めて、本格的な人口減少期に入ります。 アメリカのワシントン大学の発表によれば、世界人口は2064年に97億人でピークを迎えるほか、中国や日本など多くの国々で、2100年には人口が半減すると予測されています。生産年齢人口の減少は極めて深刻です。

また、労働力確保の困難性は先進国だけの問題ではなくなっています。特に中小企業は、景気の良し悪しに関係なく慢性的な人手不足に悩んでおり、近年ではエネルギーや資材の物価高への対応、そしてコロナ対応で受けたゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)の返済本格化と相まって、「人手不足倒産」が加速しています。大企業ですら、日本経済新聞の社長アンケートで8割超が人手不足を実感していると回答している状況です。労働市場における熾烈な人材確保競争が起きています。

一方で、私は教育現場に身を置いています。 大学というのは、学生にとって「教育を受けられる最後の機会」です。 つまり、我々は学生を育てて企業へ橋渡しをするという非常に重要なポジションにいると言えます。

中小企業の経営者からは「どうアピールすれば若い人が来てくれるのか」と頻繁に相談されます。 彼らには大企業のようにコマーシャルを打つ資金も、大手就職ナビサイトに登録する広報資源も限られているのです。 送り出す側である大学と、人材を求める中小企業。 お互いの悩みをどう繋いでいけばいいかということに、現在の私の最大の関心があります。


髙橋:学生たちは最初、大企業と中小企業の区別を明確には持っていません。 親からは「テレビコマーシャルに出てくるような安定した企業に就職しなさい」「役所の公務員を目指しなさい」などと言われて育っています。

私が担当している「中小企業・ベンチャー論」という2年生向けの授業には、毎年200名ほどの学生が受講しますが、 私は全15回あるこの授業の第1回目で、真っ新な状態の学生たちに、中小企業のイメージに関するアンケートを実施します。「事業の独自性は高いか」「給与・福利厚生などの待遇が良いか」「オフィス環境は良いか」「採用に関する情報量が多いか」「売上や利益が安定的か」など、質問は15項目にわたります。

すると、学生たちは潜在的に持っている大企業のイメージと無意識に比較して答えるため、初回は中小企業に対して圧倒的にネガティブな回答が多くなります。特に「給与などの待遇面」や「売上・利益の安定性」「採用情報量」に関して、低く評価する傾向が顕著です。

その後、第2回目以降の授業で、中小企業の良い面も悪い面も包み隠さず話します。「平均値として見た場合、大企業との間に二重構造と呼ばれる格差があるのは事実だ」という厳しいデータも見せつつ、一方で大企業を超える給与を出し、労働生産性が高い中小企業もたくさんあること、そして中小企業ならではの「若いうちから責任ある仕事を任せてもらえる」「社会貢献度や世の中へのインパクトが大きい」といった魅力を伝えます。 日本の基幹産業である自動車産業を例に、その多くの部品製造を下請中小製造業が担っており、彼らの存在なくして完成車メーカーは成り立たないという話も丁寧に行います。

その上で、最終回にもう一度同じアンケートを行うと、中小企業に対しプラスのイメージを持つ回答が大きく増加するのです。

「知らない」ということが、いかに彼らのキャリア行動に悪影響を与えているかがわかります。 実態を知らないまま就職して、「思っていた仕事と違った」とすぐに辞めてしまう、いわゆる「七五三現象」に陥るのは非常に不幸です。 一部の学生ではありますが、実態を知ることで「中小企業を一つの選択肢として就活をやっていきたい」とコメントシートに記してくれる人も出るようになります。 このことから、「情報の非対称性」を大学の教育によって解消することが、中小企業の人材確保を支援する第一歩になると実証的に証明できたと感じています。


髙橋:学生たちはアルバイトをしているので、小売業やサービス業の裏事情は店長とのやり取りなどを通して私以上に詳しく知っています。また、阪南大学のような社会科学系の大学では、卒業後の就職先もそうした小売・サービス業が多いです。だからこそ、あえて彼らが見たことのない世界、つまり日本の二大産業の一つである「モノづくり(メーカー製造業)」という流通の川上の世界を見せようと考えました。

本学が立地する松原市のお隣の八尾市(ともに大阪府)は、市内の企業の約97%を従業員50人未満の中小企業が占め、製造品出荷額等が大阪府内で第3位、事業所数では全国第9位を誇る、西日本最大級のものづくりのまちです。 歯ブラシの生産シェア日本一をはじめ、学校教材や文房具、自動車や家電の部品など、私たちの身の回りにある様々な製品がメイド・イン・八尾なのです。 こうした地域で、材料屋があり、商社があり、メーカーがあり、問屋があるというサプライチェーンの繋がりを理解することは、経済学部の産業研究としても、学生のキャリア教育としても、非常に親和性が高いと言えます。


実は、「オープンファクトリー」という取り組みは、昔からあった単なる工場見学や商談会とは異なるものです。 この取り組みが広まった背景には、八尾市が2001年に西日本で初めて制定した「中小企業地域経済振興基本条例」の存在があります。 1999年に当時の小渕内閣のもとで国の中小企業基本法が大改正され、中小企業政策は、国ではなく各自治体が自律的に行うものへと大転換しました。 これを受け、八尾市は全国に先駆けて条例を作ったのです。

この条例の根幹には、「中小企業が元気になれば雇用が生まれ、まちが賑わい、税収が増えて市民サービスが向上する」という、「発展とまちづくりの好循環」の理念があります。 そして、この好循環を生むためには、まず地域市民に「中小企業について理解してもらい、協力を得る」ことが不可欠です。 市民の理解を深める活動の一環として、地域単位でお祭りのように工場を開放する「オープンファクトリー」は、その後、全国に広がりました。

オープンファクトリーにのぞむ学生の様子(写真提供:阪南大学)


髙橋:私のゼミでは「中小企業を通して地域経済・企業経営のあり方を考えてみよう!」をメインテーマに、事前学修・フィールドワーク・事後学修を繰り返す課題解決型学修(PBL)に力を入れています。

例えば、八尾市や近畿日本鉄道株式会社、近鉄バス株式会社と連携した「八尾市の魅力発掘・発信プロジェクト」では、地域公共交通の利用促進と観光・産業振興を目的として、市内の魅力的な店舗や施設を紹介する「おすすめスポット紹介~グルメ特集~」などのマップやリーフレットをこれまでに10種類制作してきました。 また、マップの掲載店舗・施設にご協力いただき、学生たちが自ら企画した「謎解きスタンプラリー 電車&バスで巡る街ぶら探索旅」というイベントも実施しました。 さらに、2025年に開催された大阪・関西万博においては、「TEAM EXPOパビリオン」でのステージ発表や展示にも挑戦し、地域公共交通と観光のあり方について、多くのギャラリーの前で堂々とプレゼンテーションを行いました。 万博後も八尾市内の歴史が色濃く残る久宝寺寺内町エリアなどで魅力発掘の調査活動を継続し、情報発信を強化していくため、活動を推進しています。

阪南大学|キャリアゼミ「大阪府八尾市の魅力あるまちづくりに向けた調査研究」(最終報告)(2026年3月13日)
阪南大学|社会連携・生涯学習|髙橋ゼミが八尾市連携事業として、久宝寺寺内町の魅力発掘・発信プロジェクト企画構想案報告会を2月25日に行いました。(2026年3月12日)

工場見学の際も、現場に行く前に必ず事前学習をさせ、例えば現地では「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」の痕跡を探らせたりします。 学生たちは、町工場に対して「3K(汚い・きつい・危険)」というネガティブなイメージを持っていますが、実際に行ってみると「自分たちの部屋より工場の方がずっと綺麗だった」と驚きます。 さらに、従業員の方々が、どういう顔つきで、生き生きと働いているかをしっかり観察し、メモを取るよう指導しています。 加えて、現場で写真を撮らせ、PowerPointで発表させるなど、事後の振り返りを行うことで、工場に対する間違ったイメージや捉え方が徐々になくなっていくのです。


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