TOPインタビュー

国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

大和大学 田野瀬 良太郎総長インタビュー[前編]

西大和学園カリフォルニア校の軌跡

海外進出を目標に、アメリカにも学校を作りました。西大和学園カリフォルニア校です。昔語り合った夢を、どんどん実現していっています。

私に言わせれば必ずしもそうではありません。あくまでも夢先行です。しかし、夢先行で動くがゆえに、ここでも大変苦労しました。綿密に事前調査をしていたら、カリフォルニア校はまずできていなかったでしょう。

西大和学園では、中学3年生の時に、アメリカでの語学研修プログラムを実施しています。その研修プログラムに、開校当初は私も引率として帯同していました。

ある年、ロサンゼルスにて、私のもとに一本の連絡が入ります。なんでも、「日系企業の駐在員のご夫人方が20~30人集まるので来てくれないか」とのこと。「何の話だろう?」と思いつつも、私は彼女らを訪ねました。そうすると、皆口々に次のようなことを話し始めたのです。

「私たちの子どもは皆アメリカの現地校に通っている。おかげで瞬く間に英語が話せるようになり、とても嬉しく思っていた。ところが、その分日本の教育がすっかり遅れてしまったようで、中学生だと言うのに『お母さん、青森県ってどこにあるの?』と、地図を持って来たのだ」

駐在員は皆いずれ日本に帰国します。その時のことを考え、彼女らは我が子の将来を案じていたのです。しかし、英語圏で数年生活する以上、英語をきちんと習得していないとそれもまた恥ずかしい。だから、どうか子どもたちのために、英語教育半分、日本の教育半分の学校を作ってくれないか。そのような主旨の相談をされたのでした。

私も若かったものですから、この話を聞いて「よし、わかった!」と二つ返事で約束をし、実際に学校をつくってしまいます(西大和学園カリフォルニア校、1993年開校)。しかし、そこからの10年、生徒募集で非常に苦労することになるのです。

西大和学園カリフォルニア校(写真提供:大和大学)

確かに、私に相談してきてくださったご家庭は、お子さんを本校へ入学させてくれました。けれども、その子たち以外の入学者がなかなか集まらなかったのです。

当時、「平日校」に来てくれていたのは100~150人程度に過ぎませんでした。なぜなら、当時から日本の大学には帰国子女枠があり、その枠での大学入学をねらって、子どもを現地の学校へ入学させる家庭がほとんどだったからです。これでは採算が成り立つはずがありません。

赤字が嵩み、撤退を真剣に考えねばならないところまで追いつめられていました。しかし、当時の校長が「何とかもう一度チャンスをくれないか」と言ってくれたこと、それに私も、これで撤退してしまうのはあまりに口惜しかったため、協議の末、「もう一年だけ頑張ってみよう。それでもだめなら撤退だ」と決断します。

私も何度も現地に足を運び、ともに打開策を検討しましたが、生徒募集の課題はなかなか改善されません。「何とかもう少し生徒を集める方法はないものか」厳しい経営状況が続く中、試行錯誤の末に、我々は「補習校」を取り入れます。土曜日に半日だけ授業を行う学校です。

このことが、西大和学園カリフォルニア校の転機となりました。

「土曜日は現地の学校が休みだから生徒が来てくれるかもしれない。それに、現地の学校に通っている子どもたちも、やはり日本の文化に触れたいと思っているはず。さらに保護者には、自分の子どもに日本の教育も受けさせたいというニーズがあるはず」補習校はこのような予想のもと取り入れられ、それは見事に的中しました。特に、「我が子に漢字を読ませたい、平仮名が書けるようにしたい、日本文化に触れさせたい」という保護者のニーズに刺さり、補習校はたいへん流行します。

現在は、カリフォルニア州にある3つの補習校を合わせて、1,000人ほどの生徒が通ってくれています。おかげでようやく採算が成り立つようにもなり、今は新たにダラス(テキサス州)への進出を計画しているところです。

今、日系企業が最も多く立地しているのがダラスだからです。そこに日本人学校を作ってほしいとの強いご要望をいただいています。

ちなみに本校では、アメリカ在住の日本の子どもたちのために作られた、西大和学園独自の教材で授業を行なっています。このことも、本校の大きな強みの一つと言えるでしょう。

また、最近はオンライン補習校の人気も高まってきていますね。

おっしゃる通りです。カリフォルニアだけでなく、ニューヨークやシカゴをはじめ、アメリカでは各都市に日本人が暮らしていますから。

また、現在は現地で教員を採用していますけれども、いずれは日本からオンラインで授業を行うことも、可能性としては十分に考えられるでしょう。

そうなんです。スムーズに物事が進んでいるわけでは決してありません。この10年ほどで、ようやく経営が安定してきました。


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