
大学における共通教科情報科のリメディアル授業の開発 ~大学の学びで必要な、コンピュータによる問題解決のレディネス向上を目指して~
学習指導要領の改定により、2022年度から高等学校で「情報Ⅰ」が必履修になった。これを受けて、国立大学の入試では、2025年度から大学入学共通テスト「情報Ⅰ」の受験が原則必須となっている。初年度は、「情報Ⅰ」「旧情報」合わせて約30万人が受験した。さらに一般入試で情報を選択科目に導入する大学も増加していることから、高等学校での情報科の授業に、これまで以上に力が入っているとも言われている。
情報が入試科目になったことにより、当該教科に対する学生の基礎知識はある程度担保されるようになった。しかしながら、情報技術を使った問題解決の経験は、学校間で大きく異なっている。また、私立大学では情報が入試科目に設定されていない大学も多いため、高校1・2年生で2単位の「情報Ⅰ」を学んだ後、全く情報の学びに触れずに大学へ入学して来る学生も少なくない。
加えて、一般に大学の初年次教育では、プログラミングやデータサイエンスの基礎を学ぶ講座が設置されているものの、専門教育に堪えうる情報活用能力や、コンピュータによる問題解決のレディネス向上のための講座は十分とは言えない状況にある。
今回我々は、早稲田大学人間科学学術院准教授の望月俊男氏が、人間科学部の学生に対して実施したリメディアル科目「人間科学のための情報」の実践報告を取材した(全国高等学校情報教育研究会第18回全国大会ポスターセッション)。高等学校の情報科と連携して、コンピュータによる問題解決力向上を目指した、多様な能力レベルの学生に対応可能なリメディアル教育の好事例である。

望月俊男 准教授
――「人間科学のための情報」の授業を始められた背景を教えてください。
早稲田大学に入学して来る学生の中には、実はあまりパソコンを触ったことがない人が相当数いるようです。今年この授業の受講生に聞いてみたところ、実に約4分の1が「入学するまでほとんどパソコンを使ったことがない」と回答しています。また、高等学校によっては、情報が数学の授業に振り替えられているケースもまだあるようです。さらに、留学生の中には高等学校で情報の授業がなく、コンピュータによる問題解決の経験に乏しい人もいるので、彼らへの対応も必要です。
情報が大学入学共通テストの試験科目になったことで、問題集等を用いて勉強をしてきた学生は飛躍的に増加しました。けれども、コンピュータを使って問題解決をした経験がない、という人はけっこう多いです。また、過去に少しコンピュータを触って、うまくいかなかっただけで、苦手意識を持ってしまっている学生もいます。
しかし、我々人間科学部では、HCI(Human-Computer Interaction)や心理学の分析などで、勉学・研究のためにコンピュータを必ず使うので、コンピュータの使用に慣れてもらわなければなりません。問題解決のための思考の手順を、きちんと身に付けてもらう必要もあります。そこで、人間科学部で必須となる情報科学的な学びと、高等学校での学びとの橋渡しを目標として、情報活用能力やコンピュータによる問題解決のレディネス向上のために、このリメディアル授業を設計したのです。

――高等学校の情報科の学習指導要領にも準拠した授業設計ですね。
大学でかけられる予算と、学生のレディネスを踏まえて、基本的なコンセプトを「コンピュータを使って、プログラミングやコンピュータサイエンスの入門となる授業」としました。今期は1クラスのみの実施でしたが、将来的には、人間科学部の新入生ができる限り多く受講できる授業となるようにデザインしています。
この授業の設計にあたっては、全国高等学校情報教育研究会第16回全国大会の、神奈川県立横浜国際高等学校の鎌田高徳先生の事例発表をベースにしました。ただし、ネットワークや統計、情報社会や情報倫理については他の授業がありますから、その辺りはカットして、「コンピュータとプログラミング」と「情報デザイン」を中心に全14回の授業を設計しました。
高等学校の「情報Ⅰ」の学習指導要領と、各回の授業内容の対応は下表のとおりです。(1)が「情報社会の問題解決」、(2)が「コミュニケーションと情報デザイン」、(3)が「アルゴリズムとプログラミング」で、それぞれにおいて「知識・技能」と「思考力・判断力・表現力」を発揮する場面を作ります。
人間科学部では、センサやIoT(Internet of Things)を使って人間の行動支援や行動の分析を行います。そこで、まず情報技術を使って「人間がかかわる何か」を作る学修体験を行いました。
