
電気通信大学 田野 俊一学長インタビュー[前編]
――貴学の『デザイン思考・データサイエンスプログラム[D×2(デンツー)プログラム]」について教えてください。
『D×2プログラム(D×2プログラムWebサイト)』のそもそもの背景には、日本の理系人材が少なすぎる、という問題意識があります。日本の大学の学部は文系が多すぎるのです。人口100万人あたりの学部卒の数では、文系がものすごく多い割に理系は少ない。それが修士やドクターになるとほぼ理系ばかりなのですが、他国に比べると、人数的には5分の1程度なのです。
これではいけないということで、国は5年ほど前に理系への転換のための補助金を莫大につけました。そのときどうしたかと言うと、文系を多数抱えているのは私立大学なので、私立大学に補助金を撒いて、文系学部・学科を理系に転換することだったのです。
当時私はロビー活動をしていて、「国公立大学も理系や情報系の人材をちゃんと育てているから、国公立の理系も評価しないといけない」と言っていました。
そのうちに風向きが変わって、国公立大学の情報系も支援する、ということになりました。我々は言い出しっぺとして、これは応募しないといけない、ということで、私が学長になって2年目に、データサイエンスとデザイン思考を組み合わせたプログラムの検討をスタートさせました。
今、皆がデータサイエンスをやっていますが、分析だけをしていては駄目なのです。
本学のミッションには、教育と研究に加えて「社会実装」があります。分析した結果をきちんと社会に還元するために、それを活用するためのシステムを作るところまでやる、というのが、いわば本学の遺伝子なのです。そのために、データサイエンスとデザイン思考の両方を学ぶ、という意味で、両方の頭文字であるDをとって『D×2(デンツー)プログラム』ということにしました。
データ分析のKaggleという国際的なコンペがあるのですが、この上位入賞者のグランドマスターというのが世界中に500人ほどいます。日本には約60人いますが、そのうちの1人が本学の教員です。日本の大学でグランドマスターを雇用しているのは、本学を合わせて3校程度です。その教員を中心に、実践的な取り組みを行なっています。

電気通信大学(正門)
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電気通信大学 田野 俊一 学長
プロフィール
1983年東京工業大学大学院総合理工学研究科システム科学専攻修士課程を修了後、日立製作所入社。1996年に電気通信大学大学院情報システム学研究科助教授として着任。
2002年教授、2008年に副学長に就任し、その後学長補佐、研究科長、学術院長などを歴任し、2020年より現職。
専門は制御、ファジィ理論、人工知能、システム科学など。
インタビュー:原田広幸(KEI大学経営総合研究所 研究員)
執筆・編集 :小松原潤子(KEI大学経営総合研究所 編集委員)