佐賀女子短期大学 今村正治学長[後編]
■今村学長にとっての仕事とはなにか
Q:神戸女学院大学の名誉教授で思想家の内田樹(たつる)さんが、あるコラムで、「仕事というのは自分で選ぶものではなく、仕事の方から呼ばれるものだ」、「『天職』のことを英語では『コーリング(calling)』とか『ヴォケーション(vocation)』と言いますが、どちらも原義は『呼ばれること』だ・・・あなたが頼まれた仕事があなたを呼んでいる仕事なのだ」と書いていたことを思い出しました。この仕事の考え方は、今村学長の考え方と同じなのかもしれません。
今村学長:同じかどうかわからないけれども、何となくわかります。私も、仕事は、「自分からこれがしたい」というのがあってやるのではないんです。流れにまかせてやってきた〜という気がしています。そう、真剣な頼みを引き受けていたら、ここまできた、かな。出口治明さんがいう、典型的筏型人生でしょうね。夢の実現のために直向きにストイックに、ひたすら山頂をめざす登山型人生ではなく、たまたまたどり着いた岸辺で、人と出会い、仕事と出会い、そこで何かをして、また旅を続ける、みたいな。
Q:近年、ご自身にとって心境の変化などはありますか?
今村学長:中学時代の同級生に会ったとき、「今村君はいつもワーワー言ってたよね」とか言われるんです。つまり、いつも何かを熱をもって伝えていたようです。これだ!と思うと、次々とまわりを説得して、巻き込もうとする、長所、ときには悪弊をどうしようもなく抱えてきたのだと思います。
今でも人前でお話しすると、「元気の出るお話しありがとうございました」とか言われますが、そんな時は気を確かにして、普段の会議での発言や会話では、なるべき穏やかに(できてるかな〜)、聞くということに努力しようとしています。「還暦過ぎたら魔法が使えるよ」って言ってた人がいたんですけど、これはある意味、メタ認知のことでしょうか。
確かに、自分を取り巻く状況を広く見ることができるようになってきたように思います。今頃か!ですけど。それからちょっと先のことですよね。「あの子転ぶぞ」みたいなことがなんとなくわかるようになってきた。ですから、熱と冷、その両方の感覚を意識するように心がけようとしています。
Q:今村先生には、人が付いてくるというか、人が呼び寄せているというか、人を引き付ける不思議な魅力がありますね。
今村学長:う〜ん、自分の長所はどこにあるのかわかりませんが、かつての上司には、「上の者に卑屈にならない、下の者に偉ぶらない」と褒められたことはあります。いつも僕にとても厳しい方だったので、なぜそんなことを言われたのかよくわからないのですが、自分がそうだというよりも、その言葉を大切にしていこうとは思ってきました。どんな立場も人にも、オープンでフラットに接するということですよね。
それから、とにかく「面白いことをあきらめない」で来たことでしょうか。ワーワー言って人寄せする人間ですよね。芝居小屋の呼び込みみたいに。それに、人といっしょにしないと、不器用な僕にはできることなど何ひとつありませんから。