佐賀大学 兒玉 浩明学長インタビュー[後編]
■地域が求める人材の育成を目指してーーコスメティックサイエンス学環新設構想
それともう一つ、私は学長になった時から、「地域が求める人材を育成できる学問分野とは何だろう」と考えてきました。本学は国立大学ですので、オーソドックスな学問分野は一通りそろっており、もちろんそれで地域に人材を還元することはできます。しかし一方で、現在人材が不足しており、かつ、地域が本当に求めている分野へ人材を直接輩出することも、同じくらい重要なのではないかと思ったのです。
--佐賀県が求めている分野の人材とは、いったいどのような知識・スキルを備えた人なのでしょうか。
今、佐賀県が力を入れているのが「佐賀県コスメティック構想」、すなわち化粧品産業です。佐賀県由来のさまざまな産物を化粧品の成分として使えないか、という考えに基づいています。
「佐賀県コスメティック構想」は、唐津市や玄海町を中心とする北部九州に、美と健康に関するコスメティック産業を集積させ、コスメに関連する自然由来原料の供給地となることを目指すものです。そこへ直接人材を輩出できないかと考え、現在、「コスメティックサイエンス学環」という新しい分野を設置すべく準備を進めています。
コスメティックサイエンス学環|佐賀大学 (saga-u.ac.jp)
--規模感はどの程度を予定されていますか。
2026年4月の開設時には入学定員30名での設置を予定していますが、 将来的に需要が高まれば拡大する可能性もあります。
--図らずも、先生のご専門に近い分野ですね。
私の専門は生物化学ですので、まさにその分野にあたります。ただし、自分の専門分野だから設置することにした、ということでは決してありません。
本学に新しい分野をつくろうと考え始めた当初は、実は文理融合的な分野を考えていました。しかし、何だか中途半端でぼんやりしていたため、別の案を考えていたところ、佐賀県のコスメティック構想がとても魅力的だというところにたどり着いたのです。
具体的な研究内容としては、化学的側面から、化学物質や皮膚の化学構造などをきちんと理解する。そして生物学的側面から、化粧品の成分が体の中でどのように働くのかを学ぶ。こうしたことをきちんと勉強するような分野を新設します。
もちろん、これによってコスメティックサイエンス学環の学生全員が県内に残るということではないでしょうが、事実として、本学の学生は化粧品会社にも多く就職していますので、出口戦略としては十分にあり得ると思っています。また、学ぶのは広く化学と生物ですから、化粧品会社に限らず、食品系をはじめとするさまざまな分野への就職も可能でしょう。新しい分野をつくり、県内出身者にも多く入学してもらって、県が求める分野の人材を育成していきたいと考えています。
--とても面白く、地域への貢献度も非常に高い構想だと思いました。
ありがとうございます。佐賀県知事にもこのような構想を持っていますとお話をしたところ、「とても嬉しい」とご賛同をいただきました。そのように感じてくださるなら、いっそう頑張りたいですね。
また、「コスメティックサイエンス」という名称を奇抜に思われる方もいるかもしれませんが、学ぶ内容自体は非常にオーソドックスで、化学と生物を融合的に勉強する学環です。従来は、「化学は化学、生物は生物」と住みわけがされており、私自身も化学を研究していく中で生物が必要になって勉強しました。そうした自身の経験も踏まえ、最初からこのような勉強の仕方ができるところがあって良いと考えて設置を決めていますので、決して特殊な分野ではありません。
--隣接しながらも、これまであまり交ざりあっていなかった分野同士を融合させた、とても素晴らしい発想だと思います。
最初からそこを狙ったわけではなく、佐賀県のコスメ産業に目を付けた結果、偶然ここにたどり着きました。 結果として、きれいにまとまったと思います。