関西医科大学 木梨 達雄学長インタビュー[中編]
■ 行動しビジョンを描くことがメンタルヘルスを保つ秘訣
--弊社では2023年度に、全国の大学の学長先生を対象としたアンケート調査を実施いたしました。その中のメンタルヘルスに関する質問において、85%の大学が「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えている」と回答されていたのですが、貴学では学生に対し、どのようなフォローを行なっていらっしゃいますか。
(参考:85%の大学が「メンタルヘルスに問題を抱える学生が増えている」と回答 ーーーKEIアドバンス 全国国公私立大学学長アンケート2023結果分析 – KEIHER Online.)
精神的に弱い学生がいることは確かです。だからこそ大学は、彼らへのフォローも含めた教育体制を構築しなければなりません。
本学ではこれまで、「クラスアドバイザー」という、いわゆるクラス担任を置き、学生の成績や生活態度などが順調に成長曲線をたどっているかを観察する制度を採用していました。しかしながら、メンタルが鬱状態になる学生がやはり増えてきたように感じます。コロナ禍の影響も、少なからずあるのかもしれません。
今の学生たちは、日常生活のさまざまな要因により、学びへのモチベーションが低下したり、成績にムラが出たりします。しかし現在、医学の勉強は非常に専門的になりつつあるため、勉強を1、2か月怠ると、そこで一気に差がついてしまうのです。そうすると、医学科は全て必修科目のため、留年生も出てきてしまいます。
そうした状況を防止すべく、新たな学生支援策として「クラスアドバイザー/メンター制度」をつくり、2024年度より運用を開始しました。「クラスアドバイザー/メンター制度」は、学生約10人に対し1人のメンター教員をつけ、きめ細やかに学生を指導する制度です。これまで当たり前だった「教えっぱなし」の医学教育から脱却し、本学の特色である教員と学生の距離が近いことを活かした「寄り添う」医学教育を目指しています。
これまでお話したようなさまざまな刺激を通して、学生たちの気持ちが明るくなってくれると一番良いのですが、入学当初から新しい環境にアダプトできるかどうかには、やはり個人差が大きいです。それを踏まえると、私立大学としては、学生たちがきちんと成長曲線に乗ることができるようサポートすることも重要だと考え、より充実した支援体制を構築し、現在様子を見ています。
また、一般的な社会でも、メンタルヘルスの悪化は問題となっています。その根本的な原因は何なのか。それは、「自分のビジョンが持てないこと」、すなわち、「“自分が将来何になるのか”という、将来から現在に投影するようなイメージが持てないこと」だと私は考えます。自身のビジョンが描けないために、目の前のことで迷ってしまったり、自分の行き場がないと思い詰めて、やや鬱っぽくなってしまうのではないでしょうか。
だからこそ私は、学生たちに経験に即すかたちで、彼らの将来のビジョンを見せたいのです。「そういうことで悩んでいる暇はないよ」、「行動しなさい。行動することによって新しい道が見えるし、自分の心が震えたら、それはあなたに対する合図ですよ」と伝えたい。行動し、己の道を切り拓く姿勢を持つことができれば、メンタルヘルスの悪化にはつながりようがないと私は思います。
そしてこのことは、本学の学生だけでなく、広く本学を目指す受験生に向けて言いたいことでもあります。自分の頭の中だけでぐるぐると考えていても悩みにしかなりません。悪い方向に行くばかりです。動き、行動し、さまざまな人と接する。そうしていくうちに、きっと自分のビジョンは見えてきます。
大学でずっと勉強しているのに嫌気が差したのなら、どこか別の場所へ出かけて気分転換をするのも良いでしょう。あるいは、国外臨床実習へ行って、自分のモチベーションを上げるのも手だと思います。これが私からのアドバイスです。
加えて、世間一般、国際的な目を持ってほしいとも思います。なぜなら、それが自分を高める重要なきっかけの一つとなり得るからです。そのことにいつか気がついてほしい。
本学をもとに活躍してくれるのももちろん良いのですが、そこで満足してしまっては非常に勿体ないです。日本の外に目を向けると、すごいものとの出会いがたくさんあります。時には圧倒され、いじけてしまうこともあるかもしれません。けれども、そうした経験を積んでいくうちに、「これは本当に素晴らしい」と思えるものとの出会いが必ずあるはずです。そうした経験が大学の中で得られるのならば、それはとても素晴らしいことだと思います。そのための機会を、ぜひ提供したいですね。