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フェリス女学院大学 小檜山 ルイ学長インタビュー[後編]

これからフェリスは何処へ向かうのか

小檜山:今後の構想は、まずは新しい学部をスタートさせるわけですけれども、それを2年ぐらい回してみて、その次の段階として、どの領域に高校生の関心があるかというのを再検討した上で、新しい専攻なり学科なりを立ち上げるというようなことを考えています*。

もうちょっと社会科学系に寄ったものか、あるいはコンピューターサイエンスのようなものですね。原理を学ぶのではなくて使いこなす技術を学ぶ、そういうようなものが、学生の動向を見つつ立ち上げられたらいいなと思っています。

(*注:あくまで構想段階であり公式なものではありません。)

小檜山:そうですね。すでに新しい学部には、各学科に1つは、実学を意識した専攻を設けました。また副専攻でデータサイエンスも持っています。2025年度からは、データサイエンスの基礎は、学生全員に学んでほしい科目に位置づけています。基本的な技能であるとともに将来性もあるのではないかと思いますので。将来、実学的な部分を補強していくという思いはありますね。

それと同時に、音楽があるフェリス、要するに、自由学芸のひとつとしての音楽というものをより具体化していく。フェリスの音楽ホールも良い施設ですので、ホールを貸し出す会社を作って外とのつながりを持つことによって、よりフェリスの音楽をさらに豊かにする、という希望もあります。現時点ではあくまで希望ですが。

小檜山:そうですね。外との連携は強めたいと思っていて、今も相鉄ホールディングス(株)と連携していたり、他大学との包括連携も進めていたりするところですけれども、そういう外の会社や大学、あるいは財団や自治体とも、もっとつながりを深めていきたいと思っています。

今までは自分たちだけで、自分たちの理想にこだわってやればいいというようなところもあったのですが、私は「自分たちだけで楽しくやっているのでは駄目なんだ」ということをあちこちで言っています。外に開かれた大学でないと、学生もつまらないし、フェリスに来てくれないと思うのです。これが「開かれたフェリス」というビジョンの出どころになっています。

小檜山:私が今まで40年近く、いろいろ研究をやって、良い作品だなと思うのは、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』ですね。日本では、とくに第1巻が知られていて、「多数者の専制」という言葉だけが有名ですけれども、下巻のほうがむしろ私にとっては面白くて、宗教の役割や女性の役割、もっと社会的な視点で展開している部分があります。そこをもっと読んでほしいなと思います。

岩波文庫版を訳したのは松本礼二先生です。私が若い頃からお世話になっている先輩でもあるのですが、翻訳も良いですし、トクヴィルの、表面に見えている事象をより深い社会の深層に迫って解き明かすというような洞察力が魅力です。

もうひとつ、私の先生のキャサリン・キッシュ・スクラーという人が書いた『キャサリン・ビーチャー』という本があるのですけれども、これも若い頃からすごく好きな本です。当時、私はスクラー先生と個人的なつながりがなかったのですが、フルブライトで留学した時に、彼女がいるからニューヨーク州立大学に行きました。そこで1年間を過ごして、先生ご夫婦とは仲良くなりました。彼女の著作『キャサリン・ビーチャー』という本もトクヴィルの本と同じような意味で好きな本ですね。ただ、これは日本語訳が出ていないので、高校生には薦められないのですけれども。1人の女性の人生を社会構造の中に位置付けており、アメリカ社会というのがよく見えてくるような本ですね。

小檜山:『帝国の福音』ですか?あれは、皆に難しいって言われる(笑)。ただ、森本あんり先生が評価をしてくださって、彼の書評を読むとエッセンスが分かります。『帝国の福音』は、東京大学出版会から出ています。森本先生が書いてくださった書評というのは短いもので、新刊紹介の欄で、アメリカ学会が出しているニューズレターに書いてくださいました。『帝国の福音』書評へのリンク

小檜山ルイ『帝国の福音: ルーシィ・ピーボディとアメリカの海外伝道』(2019,東大出版会)

それから、去年、勁草書房から『明治の新しい女』という本を出しました。序論は難しいですが、1章以下の、佐々城豊寿と信子の人生だけを追っても、2人とも暴れん坊なので面白いと思います。

小檜山ルイ『明治の「新しい女」: 佐々城豊寿と娘・信子』(2023,勁草書房)

【後編終わり】

【前編はこちら】リンク


【小檜山学長のお勧めの本】

■トクヴィル『アメリカのデモクラシー』第1巻・第2巻(それぞれ上・下)
https://amzn.asia/d/63XLrSw
https://amzn.asia/d/e67NeiW
https://amzn.asia/d/6u3VMN7
https://amzn.asia/d/2tCeaFI
第1巻まで読む人が多いが、第2巻が圧巻、ぜひそちらも読んでほしい。

■“Catharine Beecher: A Study in American Domesticity”
by Kathryn Kish Sklar (Author)
https://amzn.asia/d/1rLL9fV
Kathryn Kish Sklarは、小檜山学長がフルブライト奨学生としてニューヨーク州立大学に留学したときの指導教官。日本語訳は未刊。


小檜山ルイ フェリス女学院大学学長 プロフィール:

1957年神奈川県生まれ。フェリス女学院中学校・高等学校、国際基督教大学教養学部卒業。ミネソタ大学大学院アメリカ研究プログラム修士課程修了。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士課程修了。東京女子大学現代教養学部国際社会学科国際関係専攻教授等を経て、現職。学術博士。博士論文「米国婦人宣教師・来日の背景とその影響 : 明治初期における日米文化交渉の一系譜」。1993年女性史青山なを賞受賞。1994年キリスト教史学会学術奨励賞受賞。2008年ジェンダー史学会代表理事。2010年日本アメリカ史学会代表。2012年日本アメリカ学会副会長。2018年キリスト教史学会理事長。2019年日本アメリカ史学会編集代表。2020年アメリカ学会中原伸之賞受賞。

主な著作:

・『明治の「新しい女」』勁草書房、2023年
  [紹介記事] 『明治の「新しい女」: 佐々城豊寿と娘・信子』小檜山 ルイ 著 (勁草書房) – KEIHER Online.
・『帝国の福音』東京大学出版会、2019年(中原伸之賞受賞)
・ Christianity and the Modern Woman in East Asia 共著, Brill, 2018年
・『アメリカ・ジェンダー史研究入門』共編著、青木書店、2010年
・Competing Kingdoms: Women, Mission, Nation, and the AmericanProtestant Empire, 1812-1960 共著, Duke Univ. Press, 2010年
・『アメリカ婦人宣教師』東京大学出版会、1992年(女性史青山なお賞、キリスト教史学会学術奨励賞受賞) 


■フェリス女学院大学が2025年4月グローバル教養学部(仮称)を 開設(設置構想中)–高度化するキャリア志向に対応–
 https://www.ferris.ac.jp/news/2023/09/1534.html
■公式Webサイト https://www.ferris.ac.jp/
■公式Instagram   https://www.instagram.com/ferrisuniv/
 (学生広報スタッフの協力を得てキャンパスライフを紹介しています)
■フェリス女学院中学校・高等学校 https://www.ferris.ed.jp/


インタビュー:原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)
構成・記事:阿部千尋(KEIアドバンス コンサルタント)

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