立命館アジア太平洋大学 出口治明学長
Q:コロナ禍を経た今、オンライン教育と対面教育の融合が進んでおります。また、人工知能(AI)の進展が目覚ましく、ChatGPTが話題です。IT・AIと教育の関係について、具体的な構想やお考えがあれば教えてください。
出口:APUでは、コロナ禍による初めての緊急事態宣言が発出されて以降、早期にオンラインによる教育環境を整備しました。このことは、単に授業がオンライン化されることのみならず、多文化が共生するキャンパス環境を特徴とするAPUの教育がオンラインでも実現できるのかという、非常に大きな挑戦でもありました。
この点に関しては、教員の多大な努力と創意工夫に支えられて、オンラインならではのグループワークなどの授業実践が生まれ、さらにはオンキャンパスとオンラインのハイブリッド教育へと展開しています。2023年度に新たに竣工したグリーンコモンズという教育施設の中には、これらの教員の先進的な教育実践のための設備として、大教室の中で最大12のグループがリアルとバーチャルで繋がることができるようになっており、ホワイトボードを使ったワークシェアからPCのデータ共有までハイブリッドで行える実験的教室を整備しました。
XR(クロスリアリティ)技術の進展により社会のあらゆる機能においてインターネットとの境がシームレスになりつつある中で、僕たちが提供する教育も積極的に従来の型を破っていくことが必要です。話題の生成型AIについても、より有効にそれを活用し、効率や精度の向上を追求していくことが求められます。
いずれにしても、忘れてはならないことは、それが学び手である学生の成長や発達にとってどのような影響があるかです。僕たち人間は技術に使われるのではなく、目的達成のために技術を使う。つまり、技術は目的を与えてくれず、目的を作るのはいつの時代でも人間です。
たとえば、APUの学生には、AIなどの技術の活用の前提として、APUへ入学した目的、将来の夢や目標、そして自分自身がどのような人材に成長して APU を卒業したいのかといったことについてあらためて確認してほしいと訴えています。どのような社会変化にあたっても、自らの目的に立ち返って、次の一歩を考えられる。僕たちがこれからの時代にこそ輩出したいのは、そんな行動ができる学生です。
Q:2023年4月に開設した、サステイナビリティ観光学部について教えてください。
出口:コロナ禍においてグローバリゼーションが一時的に中断しましたが、この流れは止まりません。人も経済も国境を越えて動く規模は今後ますます大きくなっていくと考えています。そんな人の動きを生み出す重要な機会として「観光」が存在します。
また一方で、このようなグローバル化を背景として、SDGsに代表されるように、持続可能性を目標に据えて世界が抱える課題が浮き彫りになり、その共通認識の醸成が進んでいます。資源、環境、気候、社会、文化、経済などあらゆる面でサステイナビリティが世界共通の価値として認識されつつあるということです。
このような国際社会における二つの大きな動きの解は、サステイナビリティおよび観光の主要アクターの1つとなる地域にあると考えています。2023年度に新設したサステイナビリティ観光学部は、そのような現代的な社会課題に光をともす学問分野として、別府という観光都市から世界の課題にアプローチします。
学び方については、理論と実践の両輪からアプローチしようと考えています。APUの特長を生かした多文化が共生するキャンパスでの学習・生活を通じた成長と合わせて、オフキャンパスにおける実践的活動を積極的にカリキュラムに取り込んでいます。別府を中心として九州には、サステイナビリティと観光に関する多くの実践を通じた学びの場があります。
たとえば、大分銀行と共催による「おおいた遺産を活用した地域づくり」という講座があります。この講座は「おおいた遺産」をどう地域観光に活用するかをテーマに、講義とフィールドワークをおこない、持続的な地域のかたちを考えています。学生は教室の講義で学んだ地域を、実際に訪れて体験することで学びを深め、最終回には公開発表を行いました。
新学部の学生たちが、地域を起点としたこのような学びを通じて、社会全体のサステイナビリティという大きな課題に挑戦していく「世界を変える」人材に成長していくことを期待しています。