
【1校】奈良女子大学 高田 将志学長インタビュー[前編]
■ 「学業・職業」と「出産・子育て」の両立を支えるネットワーク -「ならっこネット」-
――先ほどのお話の中で、女性が安心してキャリアを重ねていける環境を整備することの重要性が語られましたが、貴学では大学院生や若手研究者のキャリアを支援するにあたり、具体的にどのような取り組みをなさっているのでしょうか。
奈良女子大学 男女共同参画推進機構内の「ダイバーシティ研究環境支援本部」では、共助支援事業として、女性のライフイベントに配慮した教育研究環境の整備に取り組んでいます。例えば、「子育て支援システム」の管理・運営や、「ワークライフバランス支援相談室」の運営などです。なお、いずれのサポートも、女子学生・女性教職員に限らず、男性の教職員も利用できます。

「子育て支援システム」の大きな柱となっているのが、「ならっこネット」です。これは奈良女子大学および共同実施機関に勤務する教職員*・学生・研究者を対象とした子育て支援制度で、満3か月~小学6年生の子どもの預かり・送迎といったサポートを実施してます。2008年に、本学の女性研究者を支援するための取り組みとして始まった本事業は、今年(2025年)で17年目を迎え、本学関係者の「学業・職業」と「出産・子育て」の両立を支えるネットワークへと拡大しました。
*本支援事業の対象となる教職員は、常勤・非常勤を問わない。附属校園含む。
本システムは、「公共の子育て支援でカバーしきれないところをフォローしてほしい」といった実際の声に応えるかたちで開始されたものです。日々のちょっとしたトラブルに迅速かつきめ細やかに対応してくれるシステムがあることは、小さなことのようで、非常に大きな心身の支えとなっています。
例えば、勤務中に保育園から「子どもが発熱したので迎えに来てください」と電話があり、やむを得ず早退した、というのはよくある話ですよね。けれども、早退が難しいタイミングもあるでしょうし、職場の人に対してもどこか申し訳なく、肩身の狭い思いをすることも少なくないと思います。
そうしたときに頼りになるのが、「ならっこネット」です。「ならっこネット」に登録していると、専属サポーターが保護者に代わって子どもを迎えに行ってくれます。
――「専属サポーター」とは、具体的にどのような方なのでしょうか。
「専属サポーター」は、本事業に登録している有償ボランティアの方々です。地域の方や大学院生が登録してくださっています。
当然、子どもを預かるのには責任が伴うものです。そこで本学では、利用者が安心して本システムを利用できるよう、サポーターの養成に丁寧に取り組んでいます。
サポーターになるためには、まず説明会に参加していただき、そこで本システムの趣旨や具体的な支援の方法等について説明を受けていただきます。その後、本事業の理念にご賛同いただける方にのみ、サポーター登録へ進んでもらいます。さらに、サポーター登録後には複数の講習を受講いただき、サポーターに必要な知識とスキルを十分に身につけてもらいます。こうしたフローを経て、利用者が安心して子どもを任せられるサポーターを養成しているのです。また、サポーター自身が自信をもって支援活動に取り組んでいただけるよう、講習や講座のメニューも毎年工夫しています。
――利用者ごとの専属サポーターはどのようにして決定するのでしょうか。
利用者と本部スタッフ(・サポーター?) との丁寧な面談を踏まえて決定します。「ならっこネット」ではこの面談を経て、利用者の希望条件に合致するサポーターのみが当該利用者の支援を担当する仕組みを採用しています。これにより、利用者は安心して子どもを預けることができるのです。なお、利用者ごとに専属サポーターは複数配置されるため、基本的に依頼が断られることもありません。
2025年2月末時点で、「ならっこネット」の登録利用者数は58名(支援される子どもの数87名)、登録サポーター数は64名です。また、2024年4月~2025年2月末までの期間における依頼件数は246件で、うち216件が実施されました。
――高田先生も「ならっこネット」を利用されたことはありますか。
私も子どもが小さい頃は、学会へ参加する時などに利用していました。そうした単発的な依頼に対応していただける点も、本制度の良さであると思います。
また、本事業は、2019年度文科省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(牽引型)」に選定されたことを受け、支援体制をいっそう強化し、数年前から病児や病後児の保育支援も開始しました。附属病院を持っている大学であれば、病児・病後児を預かる体制も比較的構築しやすいのですが、残念ながら、本学に附属病院はありません。そのため、本システムの構築には苦労もありました。
けれども、そこはやはり女子大です。学生支援に携わる教職員は皆、この支援の重要性を理解しています。「自分も同様に苦労した」「だから、こういう制度が必要なんだ」そうした思いのもと、本システムの実現に向けて非常に前向きに取り組んでくれました。
このほかにも、キャリア開発支援本部では、大学院生や博士研究員を対象に、キャリアに関する相談やアドバイス、情報発信、インターンシップ、各種企画などを行っています。
本学は比較的規模の小さな大学で、大学院生の数も大規模大学に較べれば少数です。しかしその分、学生一人ひとりにしっかりと目を配ることができ、きめ細やかなサポートを実施することができます。彼女らの声に耳を傾け、現場に密着した丁寧な支援が可能であること、そしてそれを真面目にきちんと実践できる体制、風土があることは本学の強みです。
奈良女子大学 大学院 人間文化総合科学研究科|大学院生への各種支援
――大学院生や研究員が、自身のキャリアを見据え、安心して研究を続けられる環境が本学には備わっているのですね。各制度が彼女たちのキャリアを支援するものであることはもちろん、精神的な支えにもなっているのではないかと感じました。
おっしゃる通りです。ところで昨今、女性研究者の比率向上に向けて、女性限定で研究者の公募を行っている大学が散見されます。その取り組み自体はとても良いことです。しかし、重要なのは「採用後」であることを意識していてほしいと思います。
募集をかけて優秀な女性人材が集まったとしても、大学に女性が働きやすい環境が整備されていなければ、苦労するのは彼女たちです。彼女らの職場に女性をフォローする体制がきちんと整えられているか、その点まで考慮したうえで、募集は行われるべきでしょう。
――大学院生や研究者、研究員というところにまで目を配ると、女子大の存在意義がよりはっきりと見えてきたように思います。


