大学教育のデジタル活用へ向けて:日米の違いからの気づき

アメリカでは教育コンテンツのつくり方も異なる

竹川:私たちzero to oneは、「社会とともにイキイキと生き続ける力を引き出す」というミッションを掲げています。まさに、社会に貢献する人材をきちんと輩出する、ということをめざしているのですが、とくに、会社を立ち上げた2016年の時点では、日本で教育においてテクノロジーを活用するとき、システムを提供するだけでは足りないと感じていたことがきっかけです。

ひるがえって、アメリカでの自分の経験を思い返すと、工学的に分析され、構造化されていて、講師の教え方も上手く、きちんと効果も出る、といった素晴らしい教育コンテンツがたくさんありました。そこで、アメリカでの知見を活用して、自分たちでもベストな教育コンテンツを作り出していくことを目標にしました。

そこで、何から始めるかということが問題になります。私たちは、まず、我々のミッションにある「社会とともに」というキーワードで考えました。創業当時、社会からの要請・需要という側面でみると、AIやビッグデータといった分野の教育教材が、質・量ともに最も不足していました。だから、社会とともに、という観点から、AI分野の教育を始めた、というのがそもそものスタートです。

竹川:人間の集中力が続くのはだいたい5分前後と言われています。そこで、1本の動画の全体の長さだけでなく、一定時間の視聴の後に、クイズや演習でアウトプットさせる、という工夫も取り入れられていました。また、聴覚障害のある学習者でも学べるように動画には当たり前のように字幕がついています。今ではかなり普及している様々な工夫を参考にして、新たなコンテンツを作っていきました。

動画教材のコンテンツには、学術的なお墨付きも必要です。つまり、単に自分たちがいいと思ったから作ったというわけではなく、大学や専門の学者が、コンテンツの「網羅性」と「正確性」をきちんと担保しているということを示すことも重要です。私たちのコンテンツはすべてアカデミックな基準を満たしつつ、学習のエコシステム全体を作り直すつもりで、コンテンツ制作に取り組んできました。

さらに言えば、日本では、たとえオンラインでどんなに良い教材があったとしても、社会人や大学生が個人でどんどん受講してくれるか、というと、多分そういうわけにはいかないだろう、という懸念もありました。

その点、アメリカは非常にシンプルな構造になっていて、例えば受講料が3000ドルの講座であっても、修了することが何かの証明になって、転職できたら給料が30,000ドル上がるというような仕組みが確立されています。高い受講料を払っても、きちんと最後にはPayしますよ、という経済的合理性があるのですね。

一方で、そのような仕組みは日本ではまだ弱いため、日本でオンライン講座を構想するにあたっては、検定・資格のように、何らかのスタンプ(証明)をしてくれることも必要だろうと考えたのです。そこで、日本ディープラーニング協会(JDLA)が設立されるときに、私も創設時から関わらせていただきつつ、AIという領域で社会の要請に正しく応えられるように、きちんとオーソライズされた教材を作ることをめざしました。そして、JDLAがAI・ディープラーニングの「G検定(ジェネラリスト検定)」と「E資格(エンジニア資格)」を作って世に出して行くのに合わせて、それに準拠したオンライン教材をつくりました。単にコンテンツを作るだけでなく、受講する皆さんが成長して、資格を含めて社会や企業に認められるようにするという仕組み自体も作ることをめざしたのですね。

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