
東洋大学 入試部長・加藤建二氏 講演
2.「英語外部試験利用入試」の導入
先ほどの課題2で、スーパーグローバル大学に採択されたものの、当時の英語の入試で測ることができるのは「読む」の1技能のみでした。当時国際系学部の新設や、外国語のみによる授業がカリキュラムの中に入ってきたので、我々には、それに対応できる学生を入学させなければならない、というミッションがありました。
そこで導入したのが、英語の4技能を客観的に評価する「英語外部試験利用入試」です。本学で4技能全てを測る試験を作るのはなかなか難しかったので、英検などの成績を借りる形で、2017年から導入しました。英語外部試験で一定のスコアがあれば80点に換算するという、いわゆる見なし得点です。2022年からは、共通テスト利用型でもこの方式を導入しています。
これも、スタート時の一般選抜前期での利用率は、全体のわずか7.5%でしたが、年々上昇して、現在は約57%と半数以上になっています。入学者で見ると、7割は英検で言えば2級以上を持っていることになります。
利用率はずっと右肩上がりでしたが、2025年は横ばいになってしまったので、ここにも対策を打つことにしました。これについては、後ほどお話しします。

ただ1つ課題もあります。英語外部試験利用入試は、首都圏の志願者の利用率は62.1%ですが、それ以外では45.5%とかなり差があります。経済的な理由もあるかもしれませんが、やはり首都圏以外では英語外部試験はそこまで浸透していない、ということがありそうです。
この理由として、地元の国公立大学が英語外部試験を利用できるようになっているかどうか、ということがあります。例えば佐賀大学は、英語外部試験の結果が全面的に使えるため、佐賀県の高校生は多くが外部試験を受験しています。一方北海道は、北海道大学や地元の私立大学が英語外部試験をそれほど使っていないので、北海道の高校では、外部試験の受験の意味はあまりない、と考えられているところが多いようです。
実際に英語外部試験を利用して入学した学生を追跡調査すると、それ以外の学生と比較してGPAが高く、TGLプログラム(本学が実施する海外プログラム)の参加率も明らかに高くなっています。これは、東洋大学が目指している教育に比較的合致している学生が多いということですので、これを推し進めて、利用率が60%を超えるところを目途に、大学独自の英語の試験を廃止して、英語外部試験利用による4技能評価に一本化したいと考えています。
ただ、そのネックになるのが、先ほどもお話ししたように首都圏以外の利用率があまり高くないことです。完全に一本化してしまうと地方の学生が受けにくくなってしまうということがあり、今はそこがせめぎ合いになっています。

また、一般選抜以外でも、各学部・学科で英語等の資格取得を活かせる総合型選抜・学校推薦型選抜を拡大しています。これらの選抜の受験生にとっては、ハードルがやや上がっていると考えていただいてよいと思います。さらに指定校推薦でも多くの学部・学科で英語外部試験のスコアを条件付けており、全学で推進する形になっています。

3. 文系学部への「数学必須入試」の導入
そして3つ目の課題の、文系学部でも数学を必須とする入試については、2011年から取り組んでいます。最初は経済学部の一般選抜で、数学必須入試という、3教科型入試であれば英語、国語、数学。5科目型や4科目型でも数学が必須になるような方式を作りました。
こちらも、スタートした2011年の志願者数は146名、入学者数もわずか12名でした。それでも、採用する学部・学科がどんどん増えてきて、2025年度には初めて志願者が10,000名を超え、入学者に占める割合は22.6%と、文系の学生でも5人に1人以上は数学をきちんと学んで入学してきていることになります。

こうしたことで、大学が本当に変わってきていることを感じます。
最初に数学必須入試を始めた経済学部経済科学科では、スタート時は数学必須入試による入学者は一般入試の入学者180名のうち、わずか7名でした。数学必須入試を開始する前年までは、初年次に算数の内容からやり直すための「基礎数学」というクラスを作っていましたが、それでも難しいという学生がいました。ただ、そこができないと経済学を勉強できないので、これは入試を変えなければいけない、ということで、経済学部の教員と相談して、数学必須入試を増やしていくことにしました。
2025年度は、一般選抜による入学者183名のうち143名、78.1%が数学必須入試で入学しています。数年前に早稲田大学政治経済学部が数学を必須にした入試を始めましたが、中堅大学の文系学部で、数学必須入試で入学した学生がこれだけ多いところは他にはないと思います。このことを一番喜んでいるのは、学部の教員でしょう。
総合型選抜や学校推薦型選抜でも、出願条件に数学を課すようにしており、そういった入学者の割合が、2025年現在58.7%ですから、全体では6割以上の学生が数学を学んで入学していることになります。
一般入試の選択科目を、地歴・公民、理科、数学からの選択とすると、数学の選択率は、どこの大学でもおそらく2割程度だと思います。その状態で、いきなり数学を必須にすると、志願者は約5分の1になってしまいます。そのため、本学も時間をかけて、徐々に改革を進めてきました。その際も、数学必須入試に人が集まるような合格ラインを設定しないと、なかなか効果が上がりません。その部分のコントロールは絶対必要であると思います。

この他に、経済学部経済学科では、2019年から英検や数検 (実用数学技能検定)の資格取得者を対象とする自己推薦入試を行っています。高校生で数検を持っている人が少ないので、昨年からは「学習証明型」という形で、数検を持っていなくても、大学が提供する事前学習プログラムを勉強してもらった上で、オンラインの事前適正検査を受検してもらい、合格すれば出願資格を認める、という入試をBenesseと共同で開発して行っています。こちらは2025年度入試でスタートしたばかりですので、受験者数は約30名、入学者は2名でしたが、今後はもう少し増えると思います。
この形式は、いわゆる「受験生を育てる」という考え方に基づくもので、今後理系学部・学科の物理や化学などの理科の試験もこういった形式が増えていくのではないか、と思っています。




