東工大 データ・ドリブンな教学改革とは何か
Society 5.0に向けて
高松 私は、エデュインフォマティクス Eduinformatics(Education + informatics)という学術領域を提唱し、情報学を用いて教育の問題を解決することを考えています。現在の高等教育機関では、ICT化が進んでおり、またコロナ禍の影響によって遠隔教育が多くおこなわれたことから、データ駆動型の教育が急速に進んできているのではないかと思います。
また、Society 5.0への移行を背景に、すべての大学で文系・理系を問わず、学生に数理・データサイエンス・AIの習得が求められるようになっています。これからはビッグデータの時代であり、ますます多くのデータが蓄積されていくことになります。そのデータの活用が、データ駆動型の大学改革につながっていく可能性があると考えます。
そのため、将来の大学改革では、従来の事前にしっかりと設計を作り込んでから進めるアプローチとは異なる方法が必要となると考えています。時間が限られていることを考慮すると、まず、手元にあるデータを適切に解析し、その結果に基づいて大学内の仕組みを見直し、必要ならば廃止または改善することが重要になってくるのではないでしょうか。
神戸常盤大学での取り組みについて
――データ駆動型の大学改革について、具体的な事例をお聞かせください。
高松 解析の結果、不要なものを廃止・改善し、簡素化した例として、私の前職である神戸常盤大学での大学改革を紹介します。この改革では、以下のステップを踏みました。
まず、全学の「ときわ教育目標」を策定しました。これに続いて、全学の「アドミッション・ポリシー(AP)」、「カリキュラム・ポリシー(CP)」、「ディプロマ・ポリシー(DP)」を定め、さらに、「アセスメント・ポリシー」に加えて神戸常盤大学独自の「スチューデント・サポート・ポリシー」を策定しました。また、正課内活動と正課外活動に加えて、神戸常盤大学独自の「準正課活動」を導入しました。これら5つのポリシーを総合的に評価することを目指しました。
そのため、2017年度から開始された改革では、カリキュラムにおいて「ときわコンピテンシー」とそれを具現化するために19のコンピテンシーを設定しました。これら19のコンピテンシーは、各教員がシラバスの中に最大6つのコンピテンシーを選び、それに関連するルーブリックを記述するという取り組みを行いました。
文部科学省の最新の調査(2022年11月発表)では、2020年度時点で、ルーブリックが全科目のシラバスに含まれている大学はわずか6%に過ぎず、この点について振り返ってみると、当時の取り組みは非常に先進的であったと言えましょう。
我々は、これら19のコンピテンシーを活用して、2017年度以降、学修成果の新たな可視化法を開発・提唱してきました。その後、文部科学省から学修成果の可視化が求められるようになり、我々は先取りする形で進んでいたと感じました。
しかし、2020年頃から第2次教学マネジメント改革を始めるにあたり、第1次改革を振り返った結果、学生のための学修成果の可視化ではなく、「可視化そのもののための可視化」となっていることが明らかになりました。実際には、学生のためにその新たな可視化手法がうまく活用できていないことが分かってきたのです。
その理由のひとつとして、本来であれば、19のコンピテンシーや、5つのポリシーを通じて、正課内外と準正課の評価を統合的に行うことが予定されていましたが、実際は、2020年度からの新型コロナウイルスの流行などの影響で、評価は主に正課内のみに集中し、準正課や正課外の評価は実現されなかったことが挙げられます。