
大学における共通教科情報科のリメディアル授業の開発 ~大学の学びで必要な、コンピュータによる問題解決のレディネス向上を目指して~
――戦略を考えることで「問題解決」を意識させるのですね。実際の問題解決のための制作はどのような流れで学んでいくのでしょうか。
カーリングゲームに続いて、第4講からは、グループでmicro:bitを用いて「身の回りの小さな問題を解決するものを作る」活動を行います。「情報技術を使った問題解決」を、グループワークで体験してもらうのです。
ここでは、まず「問題解決とは何か」を確認します。そして、問題解決は手順を踏まえながら行うことが重要で、コンピュータに手続きを代替させる場合は、問題解決の手続きや条件などをしっかり設計する必要があること、そのためには調査・分析や、丁寧な解決策の立案が不可欠であることを押さえます。また、ユーザのニーズや視点を優先し、それに基づいて問題解決を行うためのデザイン思考の方法論であるペルソナの設定も行います。

第5講では、各自が考えてきたアイデアを1分間で発表するライトニングトークを行い、発表を聞いた上で、取り組みたいアイデアの投票を行って、上位案をもとに3~4名程度のチームを編成します。チームを編成したら、メンバー内でさらなる意見交換の上、元のアイデアをブラッシュアップします。ブレーンストーミングや、マインドマップによる意見の整理など、問題解決の手法もここで経験します。
第6講では、①成果物の制作方法(micro:bitのプログラムを含めてどのように実現するか)、②ストーリーボード(ユーザ体験の説明)、③成果物展覧会で使用するためのポスター、CM動画、Webサイトなどの3つを作成します。可能であればダーティプロトタイプを制作し、第7講で中間発表会を行って、講評や改善に向けたアドバイスを受けます。その後、第8講から第10講で実際の制作を行います。
第11講ではユーザテストを行います。これまで制作してきた成果物を、他のグループの人に体験してもらい、フィードバックを受けるのです。ここでうまく行っている点、改善すべき点を検討し、第12講ではそれをできる限り修正しつつ、第13講で行う展示会の準備も行います。
また、展示会に向けてデモ用の成果物(プロトタイプ)、A3サイズのパネル、プロモーションビデオも作成します。私からは、ビデオを作るときは尺を揃えるために絵コンテを作るよう指示しただけで、それ以外はほとんど何も言っていません。それでも、学生たちは映像の効果などについて、自分たちで調べて、非常に手の込んだものを作ってきました。こういった制作では、自分の得意なことで自然に役割分担ができるのがいいですね。
展示会では、ポスター・ギャラリーウォーク形式で、成果物の発表を行い、他チームの改善した成果物を体験して、ピア・フィードバックを行いました。
学生の作品には、「25分学習、5分休憩」のポモドーロタイマーのような学習管理アプリや、加速度センサを使ったストレートネック矯正アプリ、温度センサを使った熱中症予防アプリ、学生食堂の空席情報の通知アプリなど、グループごとに様々な工夫が凝らされていました。
中には、頑張ってセンサを駆使した複雑な仕組みを考えたけれども、うまく作動せず、最終的に別の方法を選ばざるを得なくなったチームもありました。それでも、振り返りでは、その間苦労したのが良かった、という声が聞かれています。「行き詰ってしまったから終わり」というのでなく、「次善の策で解決するのが大事である」ことを経験してくれたのです。
この授業は、当初の設計では、1クラスのみ定員35名としていましたが、履修申告段階でかなり人気が高かったので、実際は抽選の上で39名で実施しました。秋学期には、2クラス増設することになっています。