「公営塾」研究プロジェクト

公教育と私教育の境界線にゆらぎ―――初の全国規模「公営塾」の実態調査で明らかに

信州大学を中心とする調査チームは、全国の自治体を対象とする調査を行い、全自治体の10%を超える市町村等が「公営塾」かそれに相当する取り組みを行なっていることを明らかにした。この実態の背後には、公教育と市教育の境界線の揺らぎ、そして「社会問題の教育化」ともいわれる現象が見え隠れする。


近年、自治体が主体となって、地域の児童・生徒の学習支援を行なう「公営塾」が全国で広がりを見せている。

公営塾を開設しているのは、過疎化が課題となっている地域の自治体であることが多く、教育における地域間格差・経済格差を埋める試みとして注目されている。また、「塾のない」地域に行政が出資をして公営の塾を作ることで、地域の活性化につながることも期待されているようだ。

全国の公営塾の状況は、これまで、文部科学省等の国の機関においても十分には把握されておらず、正確な実態は不明だったが、信州大学を中心とする研究チームは、状況を網羅的に把握できるデータを収集するため、このたび、初の全国規模での調査を実施した。

今回の調査(全国自治体調査)では、全国の1,700強ある自治体に対して、「公営塾」を設置しているかどうかの調査を行なわれた。そして、少なくとも170もの自治体が「公営塾」かそれに相当する取り組みを行なっていることが判明した。

[調査レポートへのリンクはこちら] https://publicjuku.com/004-2/

KEIアドバンスの取材チームは、プロジェクトを主導する研究者のお二人にインタビューを行ない、今回の調査の成果と意義について聞いた。


【インタビューした方々】

林寛平(はやし・かんぺい)
・信州大学大学院教育学研究科准教授、ウプサラ大学教育学部客員研究員。専門は比較教育学、教育行政学。編著書に『未来をつかむ学級経営:学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)など。

中田麗子(なかた・れいこ)
・信州大学大学院教育学研究科研究員、ウプサラ大学およびオスロメトロポリタン大学客員研究員。専門は比較教育学、保育・幼児教育。編著書に『北欧の教育再発見――ウェルビーイングのための子育てと学び』(明石書店、2023)など。

公営塾研究プロジェクト https://publicjuku.com/
信州大学比較教育学研究室 https://shinshuedu.blogspot.com/


Q:「公営塾」はいつから始まり、どのように全国化したのでしょうか?

私たちの調査によれば、最初の公営塾は1993年に設置されています。沖縄県の最東端の島からなる北大東村の「なかよし塾」です。小3から中3までの児童・生徒が対象で、受講費は無料です。なお、北大東村には高校はありません。

なかよし塾 | 北大東村 (vill.kitadaito.okinawa.jp)

その後、2010年代に入ると、公営塾は急速に全国に広がり、2012年以降は毎年設立されています。

高校生を対象とした初の公営塾は、2010年にスタートした島根県海士町にある「隠岐國学習センター」です。隠岐諸島は、本土から60km離れており、公立高校は県立隠岐島前高等学校1校しかありません。急速に進む高齢化と、若者の島外流出、地元高校の受験者数減少(および廃校の危機)という問題への対応策として、「隠岐島前教育魅力化プロジェクト」の一環として開設されました。 隠岐國学習センター (dozen.ed.jp)

「隠岐國学習センター」の事例はメディアで大きく取り上げられました。2015年には、この事例について書かれた書籍『未来を変えた島の学校』(岩波書店)が出版されたことで、全国的に知られることになり、公営塾拡大のきっかけにもなりました。

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