なぜ女性弁護士は少ないのか? 法学教育の今(早稲田大学)

法律の世界のジェンダー・ギャップ解消に向けて

石田:若い弁護士は、女性が増えていますよね。女性弁護士の配偶者はかなりの割合で男性弁護士なんです。だから、まずは彼ら、男性弁護士から変わっていかないといけない。変わるべきは、男性弁護士とコミュニティー全体でのガバナンスのあり方です。

すべてをすぐに解決するのは難しいのですが、例えばアメリカとかヨーロッパ、お隣の韓国でも、男性女性の「数の問題」は既に完全に克服しているんです。だから、数の問題ですら克服できていない日本は「ミステリー」と言われてしまうのです。もっとも、欧米でも、男女比や数の問題を形式的に克服しても、上席弁護士に近づくほど男性の比率が増えていくという問題はまだあります。

そういった問題を、アメリカとかではどう取り組んでいるかというと、徹底した研修をしているんです。弁護士会のルールとして、ジェンダーバイアスに関する研修を義務化したり。仕事を振る際に無意識のバイアスを持ってしまうのをどう除去するか、あるいはリクルートの時にあなた一人で選んでいませんかとか、ジェンダーバランスを持ったチームで採用していますかとか、こういう「チェックリスト」を作って、真剣に取り組んでいる。一方、日本はこういうことを組織的にはほとんどやってきていません。まだまだやれることは多いということです。

石田:日本では、政府は「ポジティブ・アクション」という言い方をして、構造的に不平等な立場の人たちを押し上げるために採るクオータ制のような、女性に対する積極的是正措置は差別ではない、という方針を出しています。これは、雇用の場でのルールにはなりますが、女性が4割に満たない場合に女性を優先的に採用するなどの措置は違法ではないということになっています。

この考えかたを無理に教育に当てはめることもないかもしれませんが、早稲田の場合は、女性比率が4割をすでに超えているんですね。だから、無理に「女性枠」を作るよりは、もっと別の取り組みで優秀な層が来るようにした方がよいのではないかと思っています。

今の取り組みの中であれば、男性に「お前は女性枠で入ったんだろう?」と下にみられるようなリスクは生じません。ポジティブ・アクション以外の選択肢がなければ別ですが、クオータ制ではなく、女性が学ぶための支援を手厚くすることでも格差解消は可能だと思います。

もちろん、圧倒的に男性が多いロースクールで、女性法曹を輩出していくために、女性枠を設けることはあって良いと思います。コミュニティの多様性は、そのコミュニティの構成員全員にとって利益になることですから。ロースクールも男性ばかりよりは、色々な人がいた方が、学びも充実すると思います。世の中は色々な人で構成されているのですから。

石田:これから、早稲田大学では先ほどの3つの柱に加え、ロースクール修了後の、「後ろ」も力を入れようと言っているんです。「後ろ」というのは、卒業後受かるまでの期間のことで、司法試験はロースクール在学中、または修了してから計5回まで受験が可能なのです。

経験的に言って、ほとんどの人は、5回まではチャレンジを続けません。何回目かの受験で受からないと、多くはあきらめて司法試験をやめてしまいます。女性の場合はさらに顕著で、落ちても2回・3回とチャレンジする人は、男性よりも少ないと言われています。なぜかと言うと、28歳で初受験して受からなくて、29歳で再度挑戦しようとすると、「あなた何回やるの、あきらめてもう就職しなさい」というようなプレッシャーを、女性のほうが強く受けるんですよね。そして、実際のところ、法科大学院を修了しただけでも、今は就職が十分にあるのです。

男性の場合は、全員ではないにしても、「受かるまで頑張れ、受かるまで身の回りのことは他の家族がやるから家にいていいんだ」とか言われるのに、女性は、「あなたは受験勉強しかしていないんだから、家事やって」とか言われてしまう。こういうことが実際にあるのです。

だから、私たちとしては、今後は「受かるまで応援」する。それから、修了生が「出来るだけ早く少ない回数で」受かるような支援をする。このように、ロースクールを出た後の後ろ側の支援を手厚くしていこうと考えています。

具体的な目標としては、累積合格率で、早稲田ローを出た女性の7割が受かることを目標にします。全国的には6割までいっていないくらいなので、これはかなり挑戦的な数字ではあるんですけど、目指していきます。

石田:取り組みを始めた2015年から数えて8年目ですが、実はこの取り組みは、学生を支援しているAA(アカデミック・アドバイザー)からの「女性は男性と比べると受かりにくいのはなぜか」という問題意識から出発しているんです。さまざまな取り組みは、学生や、こういった実際に支援を行っている先輩弁護士の声を参考にしており、いまもAAが継続的に施策の検討に関わってくれているんですね。いろんな関係者が、さまざまな視点から課題解決に取り組んでいるというのが大きいと思います。

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早稲田大学大学院 法務研究科:早稲田大学 大学院法務研究科 (waseda.jp)

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インタビュー/構成と記事:原田広幸(KEIアドバンス コンサルタント)

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