「育児かキャリアか」の2択ではない 「どちらも頑張る」も可能なのがあるべき姿
偶然の連鎖で早稲田大学へ
石田:でも、2006年に博士号とって帰ってきても、就職先が決まっていたわけではないので、専業主婦をやっていました。そんなとき、早稲田大学では数少ない法律系の公募のポストである「比較法研究所助手」の募集を見つけて応募しました。英語担当助手ということで、英語を使える研究者を募集していたんです。これは、任期3年のポストなんですが、あまり公募が出ない時期に、たまたまポストが空いて、偶然、私がそれを見つけて、公募したら採用された、という経緯なんです。そういうわけで、2007年4月から、比較法研究所の助手に着任しました。
助手をしながら、博士論文の書籍化を準備したり研究をしたりする中で、これも奇遇なのですが、2004年に始まった日本のロースクールでも「研究者養成」の必要性が言われるようになり、早稲田大学の法務研究科(ロースクール)が、任期付きの助教を公募したんですね。
早稲田のロースクールは国際性が売りだったので、海外経験や国際対応ができる人材であることを重視していました。それで、私は早稲田に来てまだ2年目だったのですが、周囲の先生方の理解もあって、公募に応募させていただいて、助教として採用されました。そして、法務研究科の助教を3年やりました。
私は、実はその間に出産をしているんです。ここでも、本当に恵まれていたと思いますが、私が産休で休んでいる間に、法務研究科の執行部の先生方が助教からテニュア(米国で言う終身在職権のこと、任期のない専任教員)になる道筋を作ってくださった。基本、助教のあとのキャリアは、何も保証されていなかったんです。そして、産休明けの翌年からテニュアの准教授として勤務することになります。2012年だったと思います。その後、2013年に2人目の子どもを出産し、2020年に教授になって現在に至ります。
◆:実務家養成のはずのロースクールで、「研究者養成」というのは、どういうことなのでしょうか。実務家が増えすぎるのは困るから、ということなのですか?
石田:いえ、そうではなく、ロールクールの後継者、教える方の充実が必要だからです。伝統的に日本の法学部では、非常に優秀な学生は、学部卒や大学院からいきなり助手になって助教授、教授に昇進するというパターンが多く、あまり実務について学ぶ機会はなかったと思います。でも、ロースクールでは「実務と理論の架橋」が謳われており、このような視点から学生を教育できる研究者を養成していく必要があったのです。その意味では本来は、日本のロースクールを修了した方が研究者になることが求められていて、最近ではその層もずいぶん増えてきました。大変望ましいことだと思います。
ただ、優秀な層が学部からロースクールに行くようになると、やはり年収の高い法律事務所にリクルートされそのまま実務家になってしまう人も多いということもあり、研究者養成は今でも重要な課題です。年収では競争はできませんが、研究者なりの魅力(知的に刺激的な仕事ができること、仕事の自由度が高いことなど)を効果的に発信していく必要があるのだろうと思っています。