TOPインタビュー

国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

電気通信大学 田野 俊一学長インタビュー[後編]

生成AIが学生の「家庭教師」になる?これからの大学に求められる教育とは【独自記事】


急速に浸透する生成AIは、大学教育にどのような影響を与えるのでしょうか。「AIを創り、AIを使い、AIを超える」ことをめざす「デザイン思考・データサイエンスプログラム」の先にある「共創進化スマート大学」の将来像と、ご自身の専門である人工知能の立場から見た昨今の生成AIの発展への思いについてうかがいました

田野俊一学長

【目次】
■ 生成AIを自在に使いこなす学生たち
■ 『共創進化スマート社会』を創る大学へ――大学IRのAI活用
■「なぜかできてしまう」、生成AIの仕組みに愕然
 ▶前編 「全国の大学のために」――新たな取り組みに見えた電気通信大学の覚悟


生成AIを自在に使いこなす学生たち

生成AIは、今多くの人が使っていますが、実は一番使っているのは学生なのです。アンケートを取ってみると、学生はほぼ全員が使っています。その次が教員、その次が職員です。学生の使いこなし方は凄いですよ。

先日も、私のところに学部生が2人来て、「今、プログラミング演習の授業を受けているのだけれど、ChatGPTの使い方について言いたいことがあるので、ちょっとデモを見てください」と言うのです。
そして、リスト構造のプログラミングの授業で配布された10ページくらいのPDFで、最後に課題1、2、3……というプログラムを作らせる問題が載っているものをChatGPTに読み込ませて、「課題5を解け」と言うと、課題5のプログラムがたちどころに出て来る、というのを見せてくれたのです。

彼らは「授業でChatGPTを使うなら、こんなふうにすると良いですよ」ということで、ChatGPTに対して、「質問されても答えを言うな。基礎概念から順々に質問して確認しなさい。そうでないと答えてはいけません」ということを最初にインストラクションしておくべきだ、と言うのです。そうすれば、先ほどのように、「PDFを読め」「課題5を解け」と命令しても、答えは出てこない。「あなたはこれを知っていますか?説明してください」というのが順繰りに出て来るので、学生にとってChatGPTが家庭教師になる、と言うのですね。
そして、「こういうものを各授業で作ってあげるのが大学の使命ですよね。内容はChatGPTが教えてくれるから、そのあとの質疑応答こそが先生方の役割じゃないですか」と。本当にすごいな、と思いました。学部生で、既にそれくらい使いこなせる学生がいるのです。

今の話にあるように、生成AIでプログラム自体は簡単にできてしまいます。ただ、自分でプログラミングができない人は、出てきたプログラムが合っているのか間違っているのかがわかりませんから、使ってはいけないのです。
ということは、よく言われる「生成AIでプログラムができるから、プログラマーは要らなくなる」というのは間違っていて、「頭を使わないプログラマーは要らなくなるけれど、高度なプログラマーは、より必要になる」ということなのですね。
ですから、学生には「本当のプログラムの意味を勉強しなさい。でないと、AIに使われる人間になってしまう。AIを使うための本当の理解が重要なんだよ」と言い聞かせています。


大学教育の辛いところは、過去2000年くらいの蓄積からの典型的・標準的な知識を教えていることです。典型的というのは、世の中にたくさん答えがあるということです。生成AIは、全世界の大学で教えている本を読み込んでいますから、大学で出題するような問題には、ほぼ完璧に答えられてしまいます。
本当は、大学ではまず典型的なものを教えたいのに、典型的なものを出題すると、学生は生成AIに頼ってしまう。変な問題を出せば答えられませんが、ではそんな問題を出して良いのか、ということはあり、痛し痒しなのです。

ですから、学生がちゃんと自分を律して生成AIを使わないといけない。生成AIに流されず、うまく使って自分で勉強できる学生はどんどん伸びますが、何も身に付けないまま、生成AIに頼って単位だけは取れてしまう、というのでは困ります。
今、レポートの課題を出すと、生成AIが完璧なものを書いてしまうものですから、試験でレポート課題は出せない、という雰囲気になっています。本当に力を測る試験がしたいなら、筆記テストをしないと駄目だ、と。


技術者倫理については1年生の最初の段階で、知的財産についてはもう少し上の学年できっちり教えています。本学には、共通教育部という部門があって、そこで文系の先生が技術者倫理や技術者としての基礎素養を教えています。

これについては、昔からきちんと教えていたのですが、生成AIは戦争に使うこともできますし、フェイク情報が簡単に作れてしまったりするので、技術者として生成AIをどう活かすのか、ということも考えさせなければならない。その意味でも、専門教育や大学院、修士やドクターでも、もっと倫理教育が必要だ、という話をしています。

大学の教育の形は変わっていくと思います。
最初の段階で、現在座学で学んでいるところは、それぞれ専門のAIが教えることになるでしょう。学生の質問に対しても、理解に合わせて24時間答えてくれる。そこで理解できたら、次にそれについての議論は人間同士で行い、さらにそれを使った研究は研究室に入って人間がやっていく、という3段階の役割分担ができるでしょう。

最終的に大学として残るのは、実験装置を使ったり、実際に身体を動かしたりするところだと思います。
教員にとって、学生を教えることにはけっこう時間がかかるので、そこはAIに肩代わりしてもらえる可能性があります。そこについて、我々は先頭を走りたいところです。


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