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東京女子大学 森本 あんり学長インタビュー[前編]

■ 汎用的能力養成の影に卒論あり

それから、リベラルアーツ教育の目的のもう一方、「汎用的能力の養成」について、重要な要素の一つは卒業論文です。

論文をまとめるには、仮説を立てる、順序立ててそれを検証する、証拠を連ねる、文献に当たり過去の研究成果を確認するなどのさまざまな能力が要求されます。つまり、大きなプロジェクトを立てて、それを完成にもたらす力が求められるということです。そして、その力こそまさしく「汎用的能力」であると私は考えます。

したがって、昨今「リカレント教育」や「リスキリング教育」とよく言われますけれども、そこで養成すべきは、実はあれこれの専門的なスキルではありません。「汎用的能力」です。

関西学院大学の前学長、村田治先生ともよく話しますが、大学院でのリスキリングで最も重要なのは、やはり修士論文をまとめることです。修士論文をまとめるか否かで大学院で勉強した価値が変わります。

論文の具体的内容がその後の仕事に直接つながっているかは全く関係ないのですよ。なぜなら、個別的な知識や技術は、職場に持ち帰ったところで使えるとは限らないからです。けれども、修士論文をまとめることで身につけた力、すなわち、自分が立てたプロジェクトを完成にもたらす力は、分野が異なろうとも同じように生かされます。そのような力を備えることの価値は非常に大きいです。だから「学び直し」と言っても、時々大学に来て、哲学の授業を一つ二つ受けるような程度では、ほとんど意味はないでしょうね。

余談ですが、卒業する学生たちに「東女で一番勉強した時期はいつ?」と尋ねると、皆口をそろえて「卒論を書いた時だ」と答えます。次に、「卒論はあるほうがよかったか、無いほうがよかったか?」と尋ねると、これもまた異口同音に、「無いほうがよかった。あんなに苦しむのは嫌だ」と言うのですけど(笑)。しかしながら、彼女たちは苦しみながらも卒業研究を通じて学生生活で一番勉強したことで、「汎用的能力」を身につけることができたのではないか、そのように思っています。


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