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  • 国際紛争、大規模災害、少子高齢化など、厳しい状況の中で新しい道を拓くための人材育成・社会貢献に資する大学への期待は大きい。真摯に改革に取り組む大学トップの声を紹介する。

東洋大学 矢口悦子学長インタビュー[後編]

コロナ禍での大学運営

 矢口:東洋大学は、スポーツにとても力を入れています。本学では、毎年優秀なアスリートが育っていますし、2024年パリオリンピック・パラリンピックにも、卒業生を含めるとたくさんの選手が出場しました。(*大学院1年の鏡さんがレスリングで金メダル、学部1年生の松下さんが競泳で銀メダルを獲得し、大活躍してくれました。)

 本学では、2016年に掲げた“TOYO SPORTS VISION”に基づき、2023年4月に“TOYO SPORTS CENTER”(以下TSC)を開設し、学長としてセンター長に就任しました。運動部へのサポートとコントロールを行なう仕組みは、コロナ禍の経験を通じて整ってきました。

 学長就任後、すぐに対応を迫られたのは新型コロナウイルス感染症への対策でした。就任直後の2020年4月の初めには、最初のコロナ対策ガイドラインを作成しました。その中で、コロナのクラスターや重症化などのリスクから、寮生活をしている運動部の学生たちを守るための仕組みを考え、感染者が出た場合の対応、学生寮の内部の動線、シャワー・トイレの使い方、そして洗濯の仕方まで、生活の全てにわたって、職員や指導者たちが、学生たちの声を聴きながらルール化を行なったのです。

 このルール化は、一部から「厳しすぎる」とも言われました。しかし、徹底的にやり遂げたと思います。陽性となった学生への食糧支援に至るまで、職員が入り込んでサポートしました。資金集めを行ない、コンビニを通じて数日分の水や食料を配給してもらう仕組みも作りました。このように運動部に入り込むことで、部員たちを守り、その結果として、大学側と学生の間の信頼関係が確固としたものになったと思っています。

 また、各種スポーツ連盟や団体が作っている内容を参考にしつつ、大学としての独自のガイドラインも定めました。練習を再開する条件、禁止条項など、すべてにおいて詳細なガイドラインを作ることにより、運動部学生を守る。そうした活動を通じて、学生スポーツは大学教育の一環でもあるということが見えてきました。

 学生スポーツが大学教育の一環であるならば、スポーツ界一般のルールよりも、大学のルールが優先します。学生を守ることができなければ、どんなに優秀なスポーツ選手を輩出できたとしても、それは大学スポーツではありません。

 こうした仕組みができると、学生に何かあるとすぐに情報が入ってくる、そして即時に対応できる、という好循環が生まれ、学生自身が大きな傷を受けたり、反対に誰かを傷つけたりという問題を生じさせない対応が可能となります。

 ちょっと横を見れば、世界レベルで活躍する仲間たちがいる。トップアスリートたるもの、人格的にもしっかりしなきゃ駄目だ、ということを彼らは周囲からも学んでいます。大学としても、真面目に頑張っている運動部学生をしっかりと守らなければ、と改めて思いを強めています。

 もちろん、学生を守る仕組みを作った、信頼関係を構築できた、と言っても、完璧というものはありません。ただ、大学としては、「このようなスタンスで学生に向き合っている」ということを、現場の指導者や監督にもきちんと理解していただけるようお願いしています。ただ、この仕組みを維持するには、やはり、教職員・指導者全員の、並々ならぬ不断の努力が必要なのも事実です。

東洋大 矢口悦子学長

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